不当な共益費
「お電話有難うございます」
『すみません、共益費の支払いなんですが・・・』
相手に聞こえないようため息をつく。
不動産会社のコールセンターは朝から電話が鳴りっぱなしだが、激務かといえばそうでもない。
家賃や固定費の相談ばかりで、マニュアル通り対応すれば解決してしまうのだ。
正直、この仕事には飽き飽きしていた。
しかし転職する勇気もなく、何か事件でも起きないかなぁ・・・と、妄想するだけの毎日を送っていた。
今日も同じことを伝える。
「共益費は集合住宅のサービスを維持するために必要なお金です」
『いや、でも・・・』
ここで言い切らないと長引いてしまう。
「全てのご入居者様にお支払いをお願いしているものですので、ご理解の程お願い致します」
『一般的にはそうだとは思うんですが・・・』
わざわざ電話しているのだ。
大抵の客は"そこをなんとか"と言ってくる。
「弊社の物件は、費用全てに監査を通して適正と確認しております」
『そうですか・・・』
畳み込む。
「宜しければお住まいの集合住宅の内訳をお伝えしますが、いかがなさいますか?」
『そこまでは・・・』
ここまでしてなおゴネる客はほぼいない。
この客も断念するだろう。
「それでは、今後ともご愛顧のほど」
『待って!』
まだゴネるか。
「お客様、大変恐縮ですが他のご入居者様と公平性を保」
『いや、そうじゃなくて』
『うち、一軒家なんですが』
事件、来た。
完
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