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会長と僕シリーズ③『タイムスリップできるならいつにいく?』

ある放課後、僕と会長は目安箱に寄せられた生徒の投書に目を通していた。

毎回大したものはない。
流し読みしながら、僕達はいつもたわいもない話をする。

「会長、”スパ王”さん、今月は”食堂のメニューにボンゴレビアンコを出して下さい”ですって。」

「いいね、美味しそう。採用!!」

「でもこの人、先月はジェノベーゼ、2ヶ月前はアーリオ・オーリオ・・・。」

「アーリオ・オーリオ出なかったよね、採用したのに」

「いやいや、出ましたよ。やだなー忘れちゃったんですか?記憶力いいのに。」

「覚えてないなぁ」

「アーリオ・オーリオの投書があった前日、普通に食堂でペペロンチーノ出てたんですよ!」

「・・・ん?どういう」

「つまり、スパ王さんはアーリオ・オーリオがペペロンチーノだってことも知らないってことでしょ?」

「その辺で聞き齧った浅ーい知識で、お洒落な名前のパスタを片っ端から書いてるだけですよ、この人。」

「もう”スパ王”ってペンネーム返上した方がいいですよ!王の風上にもおけません」

「どう思います?会長」

「・・・会長?」

会長は俯いたまま動かない。

「何か、気になる投書でもありましたか?」

会長は、ふぅっと軽く息を吐き、言った。

「君は・・・タイムスリップできるなら、いつにいく?」

「タイムスリップ?」

質問の意図は分からなかったが、会長の突拍子も無い話はいつものことだったので、僕は少し安心した。

「そうですね、強いて言えば白亜紀・・・ですかね?」
「あんなに大きな恐竜が直近で動いているのを見られたら楽しそうだなぁ、と。」

「でも食べられちゃうかもよ?(笑)」

視線は交わらないものの、会長はすかさず茶化してきた。

良かった、いつもの会長だ。

「じゃあ、会長はいつに行きたいですか?」

すると会長は顔を完全に僕から背け、
しばし沈黙の後、呟く。

「・・・2ヶ月前。」

「へ?」

全く視線を合わせないまま、おもむろに窓の方へと歩きながら、会長はボソボソ続ける。

「ア・・・アーリオ・オーリオを・・・取り消したい・・・」

「あー。」

そういえば、先月も不自然にスパ王の投書プッシュしてたな、会長。

「スパ王さん、知らないことは誰にだってアルデンテ、ですよ。」

「誰だって最初から完璧な訳ではないんですよ、スパ王さん。」

「立派な王になるまでちゃんとサポート、いや、メン倒見ますから安心して下さいね、スパ王さん!」

「ぐぬぬ・・・っ!」

いつもは勝ち気な会長の耳たぶが明太子色に染まっていくのを見て、
僕の絡め取りたい気持ちは一層大きくなったのだった。

スパ王は貴方の近くにもいるかもしれません。

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