紅蓮ゾルゲ回顧録 THE FINAL ~【ゾルバルブルー】を携えて~

序章 神話、再誕

 デュエル・マスターズのプレイヤーなら誰だって、「あの竜」の名を知っている。
 けれど、「あの竜」が支配した時代そのものを知っているプレイヤーはもう、稀だ。この時代の戦いは、公式の記録にも残されてはいない。
         -DM:Akashic Record「DM史:"ボルバルブルー"を携えて」より

 デュエル・マスターズの始まりからはや17年。今や、その名だけが、プレミアム殿堂という墓碑銘に刻まれ、現代を生きるプレイヤーたちは、まるでおとぎ話のように、かの竜の恐ろしさを語るのみだ。

 その、記録に残らず、ただ口伝で語り継がれている神話の時代を、人はかの竜の時代と呼ぶ。

 神話の時代、そこには暴君がいた。
 「青き殺し屋」の名で知られるK.BLUE氏が引っさげた破壊神。青のドローと緑のマナ加速、そしてかの竜、というシンプルな構成だ。序盤のマナ加速で途切れる手札リソースがドローソースで補われ、そして最後にあの竜がエクストラターンを得て走り抜けていく。

 しかも、マナに置かれたあの竜は、たった3マナの《母なる大地》で他のクリーチャーと引き換えに場に投下される。ここにクリーチャーを数体加えるだけで致死打点だ。それがエクストラターンを得て殴りかかってくるのである。当時の状況を私は目にしたことはないが、見た目以上の速度感、そして威圧感だったことは疑いようがない。

 神話の暴君、否、荒神とでも呼ぼうか。その竜の力──【ボルバルブルー】を、私はここに蘇らせることに成功した。
 そう、【紅蓮ゾルゲ】はついに、かの伝説の荒御魂【ボルバルブルー】の力を得たのだ。

 2005年7月──《無双竜機ボルバルザーク》プレミアム殿堂。
 2012年8月──《偽りの名 ゾルゲ》および《紅蓮の怒 鬼流院 刃》プレミアム殿堂超次元コンビ。

 あれから時を経て、2019年2月。

 共に禁断の力とされ、環境を破壊し尽くした【ボルバルブルー】と【紅蓮ゾルゲ】は、ついに禁断の融合を果たし、現世に蘇った。

 そして、2019年2月3日、私はついに、この紅蓮ゾルゲを手にCSへ乗り込んだのだ。これが実戦で扱うに値する、そう判断して。
 私は太古の力と共に戦場に立つ。そう、この【ゾルバルブルー】を携えて。

第1章 復活の「ボルバル」

 そのアイディアは、突如降ってきた。

 これまで多くの紅蓮ゾルゲを組み上げてきた。note記事にしてきた4つのデッキ以外にも、様々な形態の紅蓮ゾルゲが生まれては消えていった。
 そして、これまで組み上げてきた【紅蓮ゾルゲ】が、【紅蓮ゾルゲ】であり続ける限りついて回る課題があった。

 1つ。【紅蓮ゾルゲ】は、ループ構成パーツが重い。

 《偽りの名 ゾルゲ》は8マナかつ赤青緑のシータカラーのクリーチャーである。加えて、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》もまた、場に出すためには最低でも5マナを用意する必要がある。カード2枚が核となる、お手軽ループコンボであるにも関わらず、その成就には最低でも13マナを用意しなければならない。ちょっとしたゼニスを素出しするのと労力があまり変わらないのだ。これらを揃えるための下準備を行う最中に、相手側の勝利条件が達成される危険性を無視することは出来ないのだ。

 2つ。【紅蓮ゾルゲ】は、キーパーツを守る労力を割く必要がある。

 先んじて《偽りの名 ゾルゲ》を出し、その影響下で《紅蓮の怒 鬼流院 刃》を出す。これがコンボを決めるための最低条件だ。そのため、重いゾルゲを8マナのタイミングで出した場合、その状態で相手ターンを過ごさねばならない。文字通り、ゾルゲを出すだけでターンを回し、1ターン相手の行動をやり過ごさなければならないのだ。
 無論、何らかの方法で守ることはできる。前回、前々回と紹介した《Dの妖艶 マッド・デッド・ウッド》の常在効果、「ウルトラ・セイバー:多色」はまさに完璧に近い回答だ。しかし、守る手段を多くすればするほど、デッキの自由度は下がり、環境への対応力も低下する。

 では、これらに対する回答はあるのだろうか?

 その究極とも言える回答がある。「コストを踏み倒すこと」「相手にターンを渡さない、エクストラターンを獲得すること」だ。MTGで言うところの《Time Walk》《全知》なのだ。

 究極の回答、エクストラターンと踏み倒し

 コスト踏み倒しは、手段は数多くある。しかし、エクストラターンともなれば話は別だ。現在環境で使用に耐えうるエクストラターン獲得のカードは、総じて条件が重い。

 例えば《禁断機関 VV-8》は出たときに付与する3枚の封印を墓地に置く必要があるし、《勝利宣言 鬼丸「覇」》もガチンコ・ジャッジで勝たなければならない上、相手への攻撃を必要とする。《ザ・ユニバース・ゲート》に至っては、フェニックスをデッキに採用する必要がある。エクストラターンを得ることは、このゲームにおいては基本的に難しいのだ。

 だが、かつてそれを可能にしたカードがあった。ただ出すだけでエクストラターンを得るカード。代償は次のターンまでに勝たなければゲームに敗北する、とあまりにも重いカード。そう、それこそがかの暴君《無双竜機ボルバルザーク》だ。

 《無双竜機ボルバルザーク》が殿堂入りした12年後、2017年11月に、ボルバルザークはその姿を一新させて帰ってきていた。

 呪文《無双と竜機の伝説》。《無双竜機ボルバルザーク》から特殊敗北効果を排除し、かわりに「カードの効果で得た追加ターン中に《無双と竜機の伝説》を唱えることは出来ない」制約を追加した以外、効果、コスト、文明はそのままの呪文である。
 実のところ、《無双竜機ボルバルザーク》は、マナのアンタップだけ行う《ボルバルザーク・エクス》や、場のドラゴンを全てデッキボトムに送ることをエクストラターン取得の条件とする《キング・ボルバルザーク》など、リメイクカードは複数存在している。

 だが、これまで数度存在したボルバルの復活と、この《無双と竜機の伝説》が決定的に異なるところはただひとつ。
 「可能な限り《無双竜機ボルバルザーク》に近似させたリメイク」としての復活なのである。
 パワー6000のクリーチャーの破壊、そしてエクストラターンの取得。赤緑、7マナ。
 ただ「エクストラターンを得る」ことに関して言えば、このカードはまさしく《Time Walk》であった。

 だが重要なのは、「エクストラターンを得て何を為すか?」ということだ。ここで重要なのが、「相手のターンを経ることなく自分のターン開始時を迎えられる」「相手に一切の干渉をさせずにターンをまたぐことができる」という利点だろう。これを最大限に活かせなければ、無為にエクストラターンを迎えただけであり、ゲーム上大きな意味を見いだせない。そう、もうひとつのファクター「踏み倒し」を行うためのカードが要る。

 そして、そのカードは唐突にやってきた。
 生ける《母なる大地》、《最強虫 ナゾまる》だ。

 この《最強虫 ナゾまる》は、通常使用する分にはかなりリスキーだ。能力がトリガーするタイミングは自分のターンの開始時点。また、そのパワーは1000と脆弱であり、何らかの火力点やマッハファイター、パワーダウンなどで容易に対処されてしまう。しかし、無事に自分のターンさえ迎えることができれば、この《最強虫 ナゾまる》はその名に恥じぬ強さを見せつける。時が来るまでマナゾーンに置いておき、相手が処理できないと確信したタイミングでおもむろにナゾまるを出す、時限式の母なる大地。そして、ここに《無双と竜機の伝説》によるエクストラターンを加えると、ナゾまるは確実にコスト踏み倒しを行ってくれる。加えて、マナから僅か2コストを支払うだけで出てくれるのも大きい。序盤はマナに置いて、安全が確保できればマナからおもむろに出すだけでもプレッシャーが与えられる。

 DMEX-02のスポイラー情報が発表されたタイミングで、この《最強虫 ナゾまる》と《無双と竜機の伝説》を利用した基本コンセプトは思いついていた。だが、まだ足りない。手札を如何にして確保するかという一点だ。【ボルバルブルー】の《エナジー・ライト》や《サイバー・ブレイン》に相当するカードを見つけなければならない。それも、現在の環境で使用に耐えうるカードだ。

 果たしてそれは、あった。《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》と、《時の秘術師 ミラクルスター》だ。

 《無双と竜機の伝説》を主軸にする段階で、呪文がコンセプトに深く食い込むことはわかっていた。だからこそのこの2枚だ。

 《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》は、呪文を手札から唱えた場合にその呪文を墓地からもう一度唱えられる常在効果がある。つまり、《無双と竜機の伝説》は場にいる《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》の数だけ追加ターンを増加させるのだ。無論、《無双と竜機の伝説》は同一ターンに複数回唱えることまでは禁じていない。元祖ボルバルが成し得なかった「複数回のエクストラターン」がここに成就する。ナゾまるが1体以上いれば、ナゾまるがマナゾーンとバトルゾーンを往復しながらマナにいる重めのクリーチャーをどんどん引っ張り出してくれる。

 さらに、《時の秘術師 ミラクルスター》は墓地に落ちた呪文を回収できる。コストの異なる呪文を1枚ずつという制約はあるが、それは呪文のコストを極力バラけさせてしまえば、それだけ回収する呪文も増える。これ1枚だけで大量呪文回収も夢ではない。
 加えて、これもナゾまると相性がいい。マナに《時の秘術師 ミラクルスター》があれば、9マナ溜まった状態でボルバルエッジを1回唱えてナゾまるを出すだけで、次のターン、ボルバルエッジを含む呪文を回収し、さらなるアクションに繋げることも容易だ。手札を増やす手段はドローのみに非ず、墓地回収もまた手札増強

 ギミックは固まり、フィニッシャーのゾルゲとアパッチも搭載。あとは、これをどの方向に伸ばしていくかを考える必要がある。

 例えば、コントロール寄りにするのであれば、環境ごとに対処を変えていく必要があるし、速度重視にするならば、可能な限りすばやく9マナにアクセスする手段を整える必要がある。

 だが、呪文が多く、なおかつゴクガ・ロイザーやミラクルスターを採用している以上、コントロール寄りになるのは必定。速攻とミッドレンジ型のデッキに対して強く出れるデッキに仕上げる必要がある。

 そこで白羽の矢が立ったのが、シノビである。
 シノビの中でも汎用性の高い怒流牙 佐助の超人》や一発逆転メーカーとして名高い《怒流牙 サイゾウミスト》などは取り回しが容易で、採用に値する。もちろん、《怒流牙 佐助の超人》の相棒、《霧隠蒼頭龍バイケン》も採用する。《時の秘術師 ミラクルスター》と併せて採用したことで、ハンデスには滅法強くなったはずだ。昨今流行りの【黒緑デッドゾーン】が仕掛ける大量ハンデスにも強気で返すことができる。

 シノビは《偽りの名 ゾルゲ》とも極めて相性がいい。《偽りの名 ゾルゲ》が場に存在するときのシノビは、出た瞬間に任意のクリーチャーに火力点を叩き込むようなものだ。とりわけ《怒流牙 佐助の超人》から《霧隠蒼頭龍バイケン》を出す場合は、この2体のクリーチャーのバトルとバイケン元来のバウンス効果を併せて使用することで、最大3体のクリーチャーを足止めできる。もっとも、《偽りの名 ゾルゲ》のみを出して相手にターンを返す局面がやや限定的である上、大型クリーチャーが複数体並ぶ状況や、効果で選べないクリーチャーが存在する場合なども考えられるため、過信は禁物だ。

 速攻系、ミッドレンジ系のビートダウンを仕掛ける相手に対する回答はこれで用意できた。あとは、同じようなコントロール系やループ・コンボ系への回答だ。こちらの状況完成まで、相手の足を適度に引っ張る必要がある。

 今回、相手への妨害のために採用したのはランデスだ。とりわけ最近はマナからの回収を行うカードが多い。そこで、《焦土と開拓の天変》を採用した。相手とのマナ・アドバンテージを広げられるという意味では優秀だ。ゴクガ・ロイザーとはシナジーを形成しているし、色もしっかり合致している。相手のマナの色を抜いてしまえば、それだけ相手の動きも鈍るだろう。何より、ミラクルスターで回収できる5マナのカードだ。他に5マナの呪文は採用していないので、迷うことなく手札に戻すこともできる。

 徐々に組み上がっていくデッキに、私は知らずあの「暴君」──【ボルバルブルー】の姿を重ねていた。

 《無双竜機ボルバルザーク》は《無双と竜機の伝説》となり、《母なる大地》は新たな生を得て《最強虫 ナゾまる》として再誕した。【ボルバルブルー】の発展形【バジュラズブルー】で採用された《バジュラズ・ソウル》の役目は、《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》の力を得た《焦土と開拓の天変》が果たす。そして、当時は存在し得なかった各種シノビや呪文の墓地回収を果たす《時の秘術師 ミラクルスター》。さらには、《黒豆だんしゃく/白米男しゃく》によるマナ回収、《アクア・サーファー》を超えるバウンスを実現した《深海の伝道師 アトランティス》が加わる。

 ここに、【ボルバルブルー】再誕は成った【紅蓮ゾルゲ】と【ボルバルブルー】、いずれもかつてそれぞれの環境で猛威を奮い、ついには「殿堂」にその名を連ね、葬り去られたデッキたち。交わるはずのなかった二者が今、禁断のタッグを組んだのだ

 これら2つのアーキタイプに敬意を表し、私はこのデッキをこう名付けた。

 【ゾルバルブルー】、と。

第2章 【ゾルバルブルー】大地に立つ

 では、完成形のデッキレシピをご覧いただこう。

3 x 偽りの名 ゾルゲ
4 x 黒豆だんしゃく/白米男しゃく
2 x 無双と竜機の伝説
3 x 怒流牙 サイゾウミスト
4 x 怒流牙 佐助の超人
3 x 斬隠蒼頭龍バイケン
2 x 時の秘術師 ミラクルスター
2 x 最強虫 ナゾまる
4 x 焦土と開拓の天変
3 x 激流アパッチ・リザード
2 x 深海の伝道師 アトランティス
3 x フェアリー・シャワー
4 x 龍装艦 ゴクガ・ロイザー
1 x 超次元ホワイトグリーン・ホール

1 x 勝利のプリンプリン/唯我独尊ガイアール・オレドラゴン
1 x 勝利のリュウセイ・カイザー/唯我独尊ガイアール・オレドラゴン
1 x 勝利のガイアール・カイザー/唯我独尊ガイアール・オレドラゴン
1 x 時空の指令 コンボイ・トレーラー/司令官の覚醒者 コンボイ
1 x 紅蓮の怒 鬼流院 刃/バンカラ大親分 メンチ斬ルゾウ
1 x ヴォルグ・サンダー/雷獣ヴォルグ・ティーガー
1 x 遊びだよ!切札一家なう!/カレーパン・マスター 切札勝太
1 x ウコン・ピッピー/星龍王ガイアール・リュウセイドラゴン

 実のところ、《フェアリー・ライフ》の採用は最後まで悩みどころではあった。しかし、デッキのスロットが思ったよりもカツカツになっていたことがネックになり、今回は見送ることにした。初動を《黒豆だんしゃく/白米男しゃく》に任せ、そこから3→5で《焦土と開拓の天変》につなげていく。こうして、《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》までたどり着けば、そこから先は呪文の効果を強化して、不足しているパーツを整えた上で紅蓮ゾルゲのコンボを決めにかかる。

 8マナまでたどり着いた先の《黒豆だんしゃく》が非常に強力で、当時流行の【チェンジザダンテ】に強く出れるのは追い風だった。《時の法皇 ミラダンテXII》や《龍装艦 チェンジザ》は場に残ることが許されず、マナへと飛んでいく。中核となるクリーチャーはcip効果持ちが多いので、非常に厄介な状況を作り出せることは間違いない。もっとも、先に相手に動かれてしまい、呪文・シノビ両面で対処されてしまうと面倒ではあるのだが。

 また、【ジョーカーズ】相手のテクニックとしては、《無双と竜機の伝説》を打ち込むことで《アイアン・マンハッタン》の制約を余裕で回避できる点がある。これに限らず、《無双と竜機の伝説》のエクストラターン獲得能力は、「次の相手のターンの終わりまで」続く制約効果を事実上無に帰すことが可能だ。

 そして、幾度かの調整を経た私は、このデッキは実戦に耐えうると判断した。Vaultのノックアウト式大会で3回戦・4回戦まで勝ち進めるだけのポテンシャルがあったからだ。

 2月6日。私はこのデッキリストを手に、ついにCS会場に乗り込んだ。

第3章 決戦、第22回DM193浜松CS

 当日、私は会場で想定される対面の最適解を何度も確認した。【ジョーカーズ】、【青単ムートピア】、【5cコントロール】、【赤単轟轟轟】、【黒緑デッドゾーン】、【ブライゼシュート】、そして我が世の春を謳歌していた【青赤バスター】と【チェンジザダンテ】。

 これら全ての最適解はすでに用意した。後は運を天に任せるだけだ。

 1st Game 【5cコントロール】

 対戦相手の次元から、5cコントロールであることは容易に読み取れた。もはや私の地元ではお馴染みの対面だ。

 序盤から《白米男しゃく》→《焦土と開拓の天変》が綺麗に決まり、相手の5c体制を崩す。何の妨害もなく《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》にたどり着く。そこからはゆっくりと体制を整える。なんとか6マナまで届かせた相手が《龍仙ロマネスク》を立て、こちらのターンをまたいで《ニコル・ボーラス》を投下するも、《斬隠双頭竜バイケン》と《時の秘術師 ミラクルスター》を捨てて影響を最小限に抑える。《龍仙ロマネスク》は残し、相手のマナは徐々に対処不能な状況にまで減っていく。

 《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》が追加され、《焦土と開拓の天変》の連打で一気に伸びたマナから放たれる《無双と竜機の伝説》3連射。3ターンのエクストラターンを得た状態で《最強虫 ナゾまる》が何の妨害もなく効果を発揮し、《偽りの名 ゾルゲ》と《激流 アパッチ・リザード》の揃い踏みを果たした。最後の仕上げに《紅蓮の怒 鬼流院 刃》が《激流 アパッチ・リザード》とバトル、こうして出てきた《遊びだよ! 切札一家なう》が《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》とバトルして、《ヴォルグ・サンダー》を連射する。掟破りの3ターンのエクストラターンは、それを見ていたギャラリーをして「あれとやりたくない」と言わしめるほどの壮絶さだった。

 2nd Game 【ブライゼシュート】

 対戦相手は、この193浜松CSでも何度か優勝歴を持つたると選手。普段からよく顔を合わせるプレイヤーではあるが、ここで異変が発生した。

 なんと、この試合がフィーチャー席に選出され、動画が撮影されるというのだ。

 考えてみればこれはチャンスだ。この動画で勝てば、【ゾルバルブルー】の雄姿を何らかの形で残すことが可能だ。敗北は許されない。
 これまで、自分は何度も選手たちをフィーチャーする立場だった。かの史上最大規模のCSとして名高いアカレコCSを皮切りに、静岡CS、浜名湖CS、超ガチCS、レジェンドCSと、様々な選手の戦いを実況してきた。

 だが、名高い探偵小説『大いなる眠り』のフィリップ・マーロウがいみじくも語るように、「撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけ」だ。自分も選手である以上、いずれはフィーチャーされる運命にあるのだ。だが、それがまさか、この【ゾルバルブルー】を手にした大会で起こるとは。何たる僥倖、何たる奇蹟。

 私は若干の緊張と極度の高揚感と共に、カメラの前に座った。

 試合はたると選手の先攻で始まった。たると選手はサイゾウミストを、こちらはゾルゲをそれぞれマナセット。お互いに3色を出せる状況だ。しかし、そのまま互いに3ターン目まで動きがなく、マナセット、ゴーを繰り返す。先に動いたのは私だった。《怒流牙 佐助の超人》でマナを増やしたのだ。これに呼応するように、たると選手も《フェニックス・ライフ》でマナを伸ばす。マナゾーンに落ちた《偽りの王 ヴィルヘルム》。だが、黒マナはそれだけだった。あれさえ対処できれば次のターン、たると選手が動くことはほぼない。《焦土と開拓の天変》でスナイプする。と、ここでマナゾーンに落ちたのは《最強虫 ナゾまる》。マナはすでに7にまで伸びており、あと2マナ使用できる。迷うことなくマナゾーンから《最強虫 ナゾまる》をバトルゾーンに送り込む。マナには《時の秘術師 ミラクルスター》が待機しており、次のターンも《焦土と開拓の天変》を打ち込む。

 たると選手は苦しんでいた。黒マナが落ちない上、2枚目以降の《黒神龍 ブライゼナーガ》を引くことも出来ない。黒マナが落ちたところで、《焦土と開拓の天変》が容赦なくランデスしていく。相手は《最強虫 ナゾまる》で《時の秘術師ミラクルスター》を出して、《焦土と開拓の天変》を回収しているのだ。相手は手が伸びる一方だ。このままではジリ貧になる。決め手が欠けている今、チャンスをものにしたい、そう信じて《コクーン・シャナバガン》や《トライガード・チャージャー》を使用してマナを伸ばしながら、《黒神龍ブライゼナーガ》を探す。後1手だ。後1手で勝利が見える。

 だが、私がそれを許すはずもなかった。そして、それはデッキも同じ思いだったようだ。

 何度めかのマナゾーンを巡る攻防の果て、《最強虫 ナゾまる》は《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》と《偽りの名 ゾルゲ》をマナゾーンから送り込んだ。そして、《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》の登場時効果とターン開始の規定ドローを含めた3枚のドローカード、それが《激流アパッチ・リザード》を手札に導いたのだ。マナゾーンにはアンタップマナがジャスト7枚

 私は、ついにカメラの前で吼えた。それは勝利の雄叫びであった。

「カレーパンはどこじゃあああああああ!!」

 試合の模様は、以下の動画で確認可能だ。最後の魂の咆哮を、是非とも見届けてほしい。


3rd Game 【青単ムートピア】

 対戦相手は同じTeam静岡の強プレイヤー、Dieリーグ選手。私が担当していたスコアキーパーとしての活動にも意欲を燃やす有望な男であり、プレイヤーとしては先輩でもある。

 序盤から呪文やドローカードを駆使して手札を整えていくDieリーグ選手。手が早く間に合わないだろうと思われたが、私はこのデッキに対する唯一の勝ち筋を思い描いていた。

 その性質上、青単ムートピアは限界まで山札を掘り進める。G・ゼロ持ちの《超宮兵 マノミ》や、呪文に反応して1枚ドローする《歩く賄賂 コバンザ》などのクリーチャーは、山札をがっつり削っていく。これに加えて1マナの《ガード・グリップ》や《卍獄ブレイン》、各種青の魔道具、《ストリーミング・シェイパー》など、山札を削る要素には事欠かない。こうして山札を削りながらも場を制圧し、《次元の嵐 スコーラー》でエクストラターンを得て、一気にビートダウンを仕掛ける。シールドトリガーやシノビは《「本日のラッキーナンバー!」》で止めるべきものをしっかりと止める。

 その意味では、「あれ」さえマナに落ちなければ良い。そうすれば、よもやそのカードが属するコストを宣言されることはよっぽどのことがない限りありえないはずだ。

 果たして。

 Dieリーグ選手は案の定、大量にクリーチャーを並べ、スコーラーを限界まで出し、山札を残り4枚にまで減少させた状態で一斉攻撃を仕掛けた。《「本日のラッキーナンバー!」》で宣言された数は4。こちらが《怒流牙 佐助の超人》を見せていたことから、それを止めることが肝要と考えたようだ。

 2回目の攻撃で、私は満面の笑みを浮かべてブレイクされた2枚のシールドのうち1枚をバトルゾーンに送り込んだ。

《深海の伝道師 アトランティス》です。1体選んで残り全部バウンスで」

 Dieリーグ選手は一瞬フリーズし、その効果に従いまだアタックできるスコーラーのみを残して残りをバウンスした。こちらはシールドを全て割られたものの、生きてターンが返ってくる。

 ダメ押しとばかりにブロッカーである《龍装艦 ゴクガ・ロイザー》を召喚。再びターンはDieリーグ選手に渡るが、残りデッキの枚数を回復させることもできず、スコーラーはもはやエクストラターンをもたらさず、再度カードを並べることも難しい。

 Dieリーグ選手はにっこり笑って握手を求めてきた。私はそれに応じた。

 その瞬間、それを見ていたギャラリーの一人がぽつりと呟いた。

「ラッキーナンバーの正解、『10』かあ……こんなもん読めるかぁ!!

 4th Game 【クローシスグレンモルト】

 相手の序盤の動きからなんとなく【墓地ソース】か? と判断をしながらプレイを重ねていく。しかし【墓地ソース】にしては、場に《禁断 ~封印されしX~》が置かれていることが不気味だ。

 《停滞の影 タイム・トリッパー》がこちらの動きを鈍らせている。あれを処理するのは難しく、マナブーストも遅れがちだったがなんとか《怒流牙 佐助の超人》のニンジャ・ストライク達成条件までマナを伸ばした。

 ところが、ここで相手は《Dの禁断 ドキンダムエリア》を設置。まごついている間にDスイッチによる禁断解放を行い、《伝説の禁断 ドキンダムX》が打点となってこちらのシールドをブレイクする。もう後がないが、どうにか佐助の超人や《怒流牙 サイゾウミスト》を抱え込み、次の攻撃を耐えきろうとする。

 だが、相手が一枚上手に立っていた。こちらが手札を整えた状況を見越したのか、3マナが倒され、《単騎連射 マグナム》が投下される。シノビを封じられた状況で、為す術なく負けを認めるしかなかった。

 この敗北がきっかけで勢いは失速し、最終的に予選ラウンド3-3で私の大会は終了。苦い結末となった。だが、同時に、最初の段階で3連勝できたことが自分にとっても大きな自信につながっていた。このデッキはやれる。ポテンシャルは十分にある。だからこそ、悔いが残る。

Epilogue

 第22回DM193浜松CSが終わり、それから1ヶ月半の間、このデッキをさらに改良すべく試行錯誤は繰り返していた。黒を入れてハンデス要素を加えたり、呪文軽減を加えたりするなど、より呪文活用に寄せた形にシフトしようとしていたのだ。

 まだ、このデッキは進化の余地を残している。【ゾルバルブルー】はまだ強くなれる。そう確信していた。

 だが、2019年4月14日。

 幕張で行われたDMGP8thの会場で、私が手にしていたのは、確かに【ゾルバルブルー】ではあった。しかしそれは、もはや【紅蓮ゾルゲ】ではなかったのだ。

 時に2019年4月。超天篇第1弾「新世界ガチ誕!超GRとオレガ・オーラ」がカードプールに加わる。そして、そのカードプールを見たとき、私は戦慄し、こう呟いた。

 【紅蓮ゾルゲ】は、ここで終わりだ。新時代が来る。

──1st Season 紅蓮ゾルゲ回顧録・完 
     2nd Season【ゾルバルブルー】血風録へ続く

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