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日本株は上昇余地あり、忍耐がカギ

デフレサイクル脱却への期待感

日本の株価上昇は落ち着いてきたようだが、上昇の原動力となった要因の一部は、今後も長期的に株価を押し上げるかもしれない。

上場投資信託(ETF)のiシェアーズMSCIジャパンETF<EWJ>は、2023年10月下旬~2024年3月下旬の間に25%急騰した。日本政府が30年にわたるデフレサイクルを脱却させるとの期待感で、海外投資家が、低い株価収益率(PER)の日本株に投資するようになったからだ。その後、MSCIジャパンETFの価格は4%下落している。

理由は多岐にわたる。日本銀行は政策金利の引き上げを0.1%にとどめているが、経済活力の兆候とは言い難い。岸田文雄首相の内閣支持率は26%と低く、また選挙の裏金スキャンダルで苦境に陥っている。

マネックス・グループ <8698> の在京グローバル・アンバサダー、イェスパー・コール氏は「日本の個人投資家は依然として米国の証券を好む。外国人投資家の、いわゆる『限界的な買い手』(価格が一定水準よりも高くなったら真っ先に市場から退出する買い手)としての影響力は、ほとんど出尽くした」と言う。


KIYOSHI OTA/BLOOMBERG

根本的な構造変化はまだ進行中か

しかし、日本株強気派は、根本的な構造変化はまだ進行中だと主張する(本誌2024年1月7日付「注目集まる日本株。投資に最適のファンドは」)。パインブリッジ・インベストメンツのマルチアセット戦略責任者、マイケル・ケリー氏は「日本の企業経営者は、手元資金確保と超保守主義の時代をもたらした1990年代の市場崩壊のトラウマ(心的外傷)をようやく克服してきており、30年間のデフレマインドを脱しつつある」と指摘する。

主要労働組合との春季賃金交渉(春闘)は、記録的な最大級の賃上げが実現し、健全で緩やかなインフレが持続的に定着する可能性を示すもう一つの明るい兆しとなった。

一方、日本の政策担当者は円安を好むようになっている、とケリー氏は続ける。2023年初来で対ドルで通貨が18%も下落すれば、他の国では悪い兆候だろう。しかし日本国内の、世界的巨大メーカーにとっては収益増大につながる。日経平均株価の構成銘柄最大手であるトヨタ自動車 <7203> の直近四半期の利益は、前年同期比で81%急増した。

資産運用会社GMOの日本バリュー株投資責任者、ドリュー・エドワーズ氏は「円安の影響で高付加価値の雇用が、主として中国から日本に戻っている。日本は低コストの生産センターになりつつある」と言う。

日本銀行は最近、円相場が1ドル=160円に近づいたため為替市場介入を行ったが、現状維持におおむね満足しているようだ。

日本企業のガバナンス改革も後押し

エドワーズ氏は、日本企業全体に徐々に浸透しつつあるガバナンス改革に特に注目している。日本企業は長い間、迷路のように複雑な株式持ち合いと、変化を受け入れない古い考え方を持つ取締役会を通じて、厄介な投資家から自社を守ってきた。エドワーズ氏は「われわれが不満に思っていたことが、ようやく改善され始めた」と主張する。

東京証券取引所は昨年、継続して株価純資産倍率(PBR)が1倍割れとなっている企業に改善策を要請するというキャンペーンを展開し、旧弊な経営陣から注目を集めた。今年初め、金融庁は、大手保険会社4社に対し、カルテルや談合といった独占禁止法抵触行為が明らかになったことを受けて、株式持ち合いの解消(「政策保有株」の売却)を事実上要求した。エドワーズ氏は、1兆5000億ドルの運用資産を有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が水面下で企業業績の改善を働きかけていると話す。

ガバナンスの変革を受け入れる企業は、劇的な成果を生み出せるかもしれない。エドワーズ氏の日本株保有トップは三菱電機<6503>だ。エドワーズ氏は、三菱電機の最高経営責任者(CEO)が「三菱系取締役をコングロマリット内から追い出し(社外取締役を半数以上にするなど)、企業文化と戦略を180度転換した」と評価する。もう1社はIT大手のNEC<6701>だ。NECは日本の他社に先駆けて赤字部門を整理し、また欧米各国政府が中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を排除する中で通信機器部門を拡大するという、相当な機敏さを持っている。両銘柄とも過去1年半で株価が2倍になった。

「もしトラ」のシナリオ

ケリー氏は、日本は少なくとも一つの外的脅威に直面していると語る。ドナルド・トランプ前米大統領の再選だ。トランプ氏は日米貿易赤字の抑制のために円高に向けた圧力をかける可能性が高いからだ。

ケリー氏は、「トランプ氏が勝てば日本株は世界の市場並みで推移し、トランプ氏が負ければ他の市場をアウトパフォームするだろう」と予測する。

原文 By Craig Mellow
(Source: Dow Jones)
翻訳 エグゼトラスト株式会社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。