犬と狼の間 -Entre chien et loup-
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犬と狼の間 -Entre chien et loup-

朽尾明核

 一閃。
 歳三の放った斬撃は、夕暮れの光を反射し、文字通り一条の線となった。閃光は、相対する魔獣を両断する。
 渾身の一撃。一瞬の後、魔獣は夥しい量の血を撒き散らしながら、どうと崩れ落ちた。絶命。

 歳三は、血振りをしてから、滑らかな動作で刀を鞘へと納めた。
 静かだった。
 三条小橋は黄昏時。本来ならば、町人たちが道を行き交っていてもおかしくはない時間帯だ。しかし、今は人っ子一人姿を見せない。

 足音がした。
 歳三が、そちらを見る。路地裏から、ひとりの青年が姿を現した。
 浅葱色のだんだら羽織。長く伸ばされた黒髪。線の細く、甘いかんばせ。沖田総司であった。

「土方さん――」総司も、歳三の姿を認めると相好を崩した。「来てくれたんですね」
「ああ。無事だったか」
「奥沢さんが殺られました」総司は下唇を噛む。「まさか、捜索中に先手を取られるとは……」
「漏らした奴がいるんだろう。前々から、微かだが、その兆候はあった」

 総司は、歳三の足元を見る。
 先ほど、歳三が斬った妖魔だ。猿のような顔。狸のような胴体。虎の手足に、尾は蛇である。数多の獣が掛け合わされたような、巨大な体躯。

「鵺、ですか」
「ああ」
「こっちは、烏天狗でした」総司は眉を顰める「宮部はこちらが思っているより、優れた術師のようですね」
「いや、いくらなんでも、ここまで高位のあやかしを、何体も使役できるとは考えにくい。手引きした奴がいる」
「そんな、いったい誰が――」

「芹沢、鴨」

 歳三の言葉に、総司が顔を凍りつかせた。

「そんな、莫迦な。死んだはずです、芹沢さんは」
「死体はなかった。死んだと思わせて、生きている。そう考えれば、辻褄が合う。内通者の存在も、会津藩の不審な動きにもな」
「でも――そうか……」

 顔を伏せる総司に、歳三が声をかける。

「どちらにせよ、宮部を捕まえて吐かせればいい。召喚陣の場所はわかったのか?」
「――はい。『池田屋』という旅籠です」

【続く】

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