レイダウン・ユアハンド -Lay Down Your Hand-
「賭けをしよう」
俺の対面に座る初老の男が言った。
ジム・ラズロー。このカジノの主だ。
「賭け? いいね。大好きだ。特にポーカーには――」
俺の言葉を遮るように、ジムが指をさす。
カジノの入り口。
「次に、あの扉を開けて入ってくる客。そいつが、『男』か『女』か、賭けたまえ」
ジムが言った。
「当てたら、話を聞いてくれるのか?」
「まさか。――当てれば、君はこのカジノを無事に出ていける」
「外したら?」
尋ねた瞬間、俺の背後と両脇を囲む、ジムの五人の護衛が、銃を抜いて突き付けてきた。五つの銃口が、俺の頭を睨む。
「冗談だろ? 他に客が大勢いるのに?」
「このカジノは私の家だ。何も問題はない。この程度の見世物は、客も見飽きてる」
近くのバカラのテーブルに座る客と目が合ったが、退屈そうに視線を逸らされた。どうやら、ハッタリじゃないらしい。
「……煙草を吸っても?」
「構わんよ」
安物のライターで火を点ける。ゆっくりと煙を吐き出してから、俺は言った。
「――賭けよう。『女』だ」
「女だな」
「そうだ。長い栗色髪で、胸と尻が信じられない程デカい。飛び切り美人だが、氷みたいな表情の、黒いドレスを着た女だよ」
「貴様、視界を――」
その時、入り口の扉が開く。
ジムと護衛たちの視線が、そちらを向いた。
入って来たのは、白いスーツを着た、小太りの紳士だった。
「残念。俺はギャンブルに向いてないな」
五人の護衛達が、全員、糸の切れた操り人形の如く、その場に崩れ落ちた。
「何を――」
ジムが銃を取り出そうとした。
その手が、そっと、止められる。
いつの間にか、先ほど俺が話した通りの女が、彼の傍らに立っていた。
「やめておけ」俺は忠告する。「こいつらも、彼女がやった」
ジムは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……何が聞きたい?」
「〈AX-Cella〉」俺は言った。「この街で流行ってる、電子ドラッグの事について」
【続く】