見出し画像

「モータープール」と中津

そう、当時わたしはお金に余裕がなかったから、東京と大阪の行き来はほとんど夜行バスだった。

次点で飛行機。歩いて伊丹空港に行ける場所に住んでいたので8,000円くらいの朝イチの便に乗ることができて、たまの贅沢として自分に許していた。
新幹線は片道の料金で東京大阪間のバスに少なくとも2往復分乗れてしまう!というわけで選択肢から除外される。
つくづく高級な乗り物だ、、という感覚、いまだに変わっていなくて驚く。

朝の伊丹空港
ガラガラで良い

結構な頻度で東京には行っていたように思うから、梅田の夜行バス発着所である「プラザモータープール」には何度足を運んだことだろう。

っていうか「プラザモータープール」って何?といつも思っていた。
どうやらこちらでは駐車場のことを「モータープール」と呼ぶこともあるらしいと、いろんな月極駐車場の看板を見てじわじわと知り得ていたのだけど、これって関西特有なのだそうだ。

大阪に住んでよかったことのひとつが、同じ都会でも東京と大阪では全然文化が違って、東京を知って全部を知った気になっちゃいけないなとか、こんなに文化が違うくらい、日本、案外広いんだなとか、そういうのを体感できたことだった。

梅田という街は広くて、駅の東西南北で全然顔が違う。
下手したら東京や新宿よりバリエーション豊かな街なんじゃないかと思う。
梅田の北西にあるのが中津という場所で、プラザモータープールは梅田と中津の境目にある。

わたしはこの中津という場所が好きで、「市内に住むなら、中津か谷町筋沿いかな〜」とよくよく言っていた。
中津には阪急と御堂筋線の駅があるのだけど、「なんで梅田まで行かずわざわざこの駅を使うんだろう?」と、同じタイミングで降車した人をチラチラ見ながら、わたしもよく降りていた。
わたしの場合は、乗車駅によっては梅田まで行かずに中津で降りると数十円安いことがあり、その数十円のために中津から梅田を歩いたりしていた。
だからあの辺りの景色はよく思い出せる。

それともうひとつ、中津は各停しか停まらない駅なのだけど、それゆえ十三から淀川を渡る鉄橋を通る時に、電車が少しずつ減速するのがいい。
自分の暮らしている街と、大都会オーサカ・シティを隔てる淀川を渡るほんの1、2分間が、いつも楽しみだった。(サムネイル画像)

中津は何だか都会から取り残されてしまったみたいな街で、梅田のすぐ先に、素知らぬ顔してふつうに人が住んでいて、こぢんまりした店ばかり並んでいるのがいい。
昼間からなんだかちょっと暗い雰囲気で、カレーとか、エスニック系の料理屋さんが多くて、阪急中津駅の階段を降りたところで売っているケーキは心配になるくらい安い(今もあるかな?)。中津は生活のにおいの色濃いところだ。

そしてわたしにとっては前述のように、「東京と大阪を結ぶ場所」でもあった。
プラザモータープールに行くときは梅田駅と中津駅、半々の割合で利用していたけど、夜行バスが朝到着して、家に帰るという時にはほぼ必ず中津駅を使っていた。
夜行バス明けの体に梅田駅のビッグスケールは少し辛くて、中津のあのどよん、ちまっ、とした感じがちょうどよかった。小さくてグレーっぽいあの駅に向かう数分が、都会や旅という空間から自分を日常に引き戻す儀式みたいなものだったように思う。
バスを降りた人たちは大体みんな梅田駅に向かうから、一瞬でひとりになれるのもよかった。

なぜかいつも、ひとりで歩いているのに満ち足りた気持ちで、冬でもなんだか暖かい、そんな感覚を覚えている。
白い息で歩きながら、その暗っぽい駅にホワ〜ンと冬の朝のか弱い光がにじんでいるのを見るとわけもなく嬉しかった。

何度目からか、「大阪→東京」ではなくて、「東京→大阪」を移動した後に「帰ってきた」と思った朝があった。
わたしが今住んでいるのは大阪なんだ、という当たり前のことにやっと気づいて胸が浮き上がるような思いだったのも、その道のりの途中だった気がする。

最近ずっと梅田駅ばかり使っていたから、今度大阪に行くときは、少しだけ時間に余裕を作って、中津駅に降りよう、と思った。


交通費にします!!!!