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最終出勤日前日、午後休の港区散歩

2022年末、4年勤めた会社を辞めた。
その年の春からちらほらと辞める話をしていて、ちょうど仕事が締まる12月まで続けますねと双方合意。
少なくとも半年の猶予があり、かなり準備した上での辞職だった。
こんな良い子な辞職者は滅多にいないのではないかと思っていた。

そう思いながら続けた仕事も、とうとう明日で最終日、という日のこと。

午前中、田町のオフィスへクライアントに挨拶に行った後、有休を使い切るべく午後休になっていた。
多くの人が選ぶ、退職した後にドカンと丸1〜2ヶ月休みを取るパターンではなくて、秋からちょっとずつ有休を取って平均週3勤務くらいでゆるゆる働いていたのだった。

ちなみにこれ、かなりよかった。いらない仕事を少しずつ削いでいけば、働く時間は週3くらいでも大体業務は回るし、何より自分がとても健やかだった。
飲みに行った次の日に午前休を取ったり、午前で上がって午後には飛行機に乗っていたりするのもよかった(そうすると飛んだ先でゆっくり飲みに行ける!)。

東京で過ごす時間も残りわずか、行きたいと思いつつずっと行けていない西荻窪で飲もうかと考えていたのだが、いかんせん距離が遠かった。あと二日酔いだった。
今日は酒はやめとこうかな…と思い、挨拶後しばらく残務処理をするために滞在していた27階のスカイラウンジでしばしたたずむ。

その日は天気は良いものの風が冷たく、スカイラウンジにいれば良い景色と暖かさの両方が備わっているので、仕事を畳んでからもなかなか外に出る気持ちになれなかった。椅子がどれもおしゃれで座り心地が良くて、東向きのお台場方面を臨む席に腰掛けて、仕事が終わってから1時間半くらい、日記を書いたりぼーっとしたりして過ごした。

ふと、友人に「東京にいるうちに環状線を1号線から順番に歩いてみたかったのだが叶わなくて」と話していたことを思い出して、2号線なら今日歩けるんじゃないか?と調べてみることにした。
するとなんてタイムリーなのだろう。ずっと不通になってた2号線のトンネルがつい昨日開通したことがニュースになっていた。しかしよく読むとそのトンネルは通常時、歩行者通行不可で、踏破することは叶わないようだ。
トンネルは諦めるにしても、一区間だけでも歩こうかなと地図を見て、新橋から虎ノ門方面に抜ければいいことを知る。

なんとなくそっち方向に歩き出してみよう、と、15時手前になってようやくラウンジから降りることにした。

田町駅に戻り、駅を抜けて逆側に立つ。
大通りを避けて、1本入った商店街を歩き始めると、新橋方面つまり北東にではなく、このまま北に向けて歩きたい気がした。
帰宅はなんにせよ新宿か池袋から西武線に乗るので、気ままにそっち方面にぶらぶら歩いてみよう。
結果、環状2号線コースは諦め、港区散歩になったのだった。

closeしている広場
東京っぽいなと思った

やがて大通りに行き当たり、三田を越え、外国人が多くなる。
東京タワー(今スカイツリーと混ざって東京ツリーって書きそうになった)があまりにもでかい。「富士吉田市で見る富士山」的なインパクトだ。

外国人の家族が、子供を立たせてタワーと一緒に写真を撮っているのを見守る。人が写真を撮っているところを見るのが好きだ。
平日の昼間でも、人は意外と歩いている。しかも仕事の途中で歩いているような雰囲気。よそゆきじゃない港区の顔を知る。

神谷町に差し掛かって、この辺りは初めて来るなぁと思った。
バターコーヒーのお店が気になって立ち止まった時、あ!と思い出す。
神谷町には、以前天草で立ち寄った美味しいコーヒー屋さんがスタンドを出店しているはずだ。
慌てて地図を調べると5分前くらいに通り過ぎてしまっていた。バターコーヒーと悩んだが、そのお店、「赤い月珈琲」はとりわけ美味しかった記憶がある。3種類あるブレンドのうち1種類だけ飲んだことがなかったので試してみたいな、と、来た道を戻ることにした。
しかもよくよく見たら営業時間は平日のデイタイムのみで、この辺りに働いていない限り来ることはまず不可能な感じだ。すごいタイミングに驚きながら、お店のドアを開けるとお兄さんがひとりで営んでいるお店だった。

新月、三日月、満月の3種類のブレンドの他にも東京限定のブレンドなどもあることを教えてもらったが、元々飲んでみたいと思っていた満月ブレンドを注文。
淹れていただいている間に、天草のお店に行ったことがあり、豆を買って家でも飲んでいることを伝えると驚いていた。そういえば天草で食べ損ねたまあるい鯛焼きも食べたい!と追加で注文。500円だった。高級鯛焼きである。
わざわざ持ってくるから高いのかな。値段を考慮しなければ、とてもおいしかった。

適当に歩いていた道で、知っているものごとに出会えると嬉しいものである。
仕事とは切り離された午後の時間に、仕事で行っていた熊本で出会ったコーヒーを、東京で飲んでいる、その不思議な時空間にいる感じが愉快であった。

わたしは嬉しい気持ちを抱えたまま、さらに虎ノ門、赤坂方面へと歩く。
赤坂見附の駅前のアパホテルを何の気なしに覗いたら、ロビーでアパの社長が誰かと話しているところで驚いた!ベタに「東京だ!」と思った。

四谷に着いたときに17時、ここから先はびっくりするくらいの速度で日が落ちるので寒いだろうなと、歩くのはやめにすることにした。
本当は新宿まで歩けるかなとも思ったのだが、さらに1時間かかる。

マジックアワー。
ここから暗くなるのはあっという間

幾度となくどこかで飲んでいこうか迷ったものだが(懲りないね)、それもいいけど、今日は早く帰って明日の午前中また歩くのはどうだろう、と思いついた。
最終日は送別会があるので、午前休で午後から出勤になっていたのだ。

帰りの車中で、明日は有楽町線に沿って、これまで電車で通勤していたルートを歩くのはどうだろう、と思いついた。
有楽町線を豊洲まで乗るのが本当に本当に遠くて辟易していたのだけど、最後に歩いたらいい思い出になるかもしれない。何より「会社に歩いて行く」っていうのが楽しくていい。
最終出勤日が、朝からスペシャルな日になることを確信した瞬間だった。

最終出勤日のおはなしは、またいつか。

→後日譚、書きました!


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