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『ヒヤマケンタロウの妊娠』で辛くなる


6月はPride Monthでした。明日で終了してしまうギリギリにどうしても書いておきたかった。

先日、ヒヤマケンタロウの妊娠をみた。原作は知らなかったが、Netflixで配信告知が流れてすかさず配信アラート登録をした。男性が妊娠する話し、というざっくりした内容だけで見たら、ドラマの中で当たり前に話されている会話に勝手に辛くなった。

父親との対話(第五話)

ドラマの中で、35歳フリーライターの亜季が妹の結婚式のため田舎に返って到着したばかりのシーンで、こんな会話が繰り広げられる。

父「いつまでもフラフラと。妹に先を越されたんだ、ちょっとは恥ずかしいと思え」
おじ「なんだ、亜季はまだ一人か」
亜季「まあ」
おじ「そりゃ急がんとな。東京なら男もたくさんいるだろう」
いとこ「女もたくさんいるから、選んでもらわないと」
父「ま、それはちょっと無理だろうな。こんな自分勝手なやつは誰も選ばん」
亜季「選ばれるとかね、そういう問題じゃないんじゃない」
父「屁理屈を言うな」
母「まあまあふたりとも」
おば「でも、子どもが産まれる歳ならまだもらってくれる人いるんじゃない? ねえ、あんたもさ子どもは欲しいでしょ」
亜季「それはでも、あの……。相手がいないとね」

結婚しないと「恥ずかしい」と言われ、男性に「もらわれる」ことが救いだという価値観。今の時代に心から、結婚しなくても子どもがいなくても焦らなくてもいいと言ってくれる親世代は、果たしてどのくらいいるのだろうか。

私の母は「あんたは好きなように生きればいいんじゃない」と私が金髪にした3年前に言ってくれたし、父親は恋愛に対して何か言ってきたことはなにもない。が、交際相手の話しをするたびに「えー、そんな人と結婚するの?」と言われるし「素敵な相手だね」と言われた試しはないので、結婚するということに対する母親のハードルが高すぎて「好きなように生きればいい」は、今すぐ結婚をしなくてもいいけど相手を選べという意味だったのかと解釈する他ない。


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私はドラマの中に出てくる35歳フリーライターの亜季女史とはまた違うタイプの父親を持っている。父から直接何か言われたことはこの歳だと少なくなってきた(別々で暮らしているのもあるし)が、父の母親に対する態度を見ていられないくらいいつも苦しくて悲しい気持ちになる。

母には自分が生きたいように生きるべきだという提案を、私が高校生くらいのときから何度も提案しているが、生きたいように生きてるよ?という返答がいつも返ってくるばかりで自分がおかれている境遇に妥協しているだけだった。母には母なりに、今から環境を変える煩わしさがあるのだろうか。未だに本音を話してくれていないような気がする。

なんとなくそんな辛さを思い出したのが、亜季が妹の結婚式のため田舎に返って到着したばかりのシーンである。

父親の亜季に向ける言葉が、私の母に対する態度にも重なり、一家の大黒柱で発言権は父親にしかない、というような描写がひどく辛かった。


同窓会での価値観の相違(第五話)

これも5話に出てくるシーン。

板倉「瀬戸は? 彼氏はいないの」
亜希「まあ いるっちゃいるけど、結婚とかそういう感じじゃないかな」
板倉「えっ どういうこと? 何 結婚とか考えてないの?」
早苗「東京だと色々あんだよねぇ 亜希仕事に生きてんだからね」

何気ない近況報告で、彼氏がいたら結婚が当たり前とか、彼氏がいるとかいないとかでステータスを判断されているようだ。亜希はなんの気にもしない顔をして食事を続けているが、結婚しない=仕事に生きているという女友達のフォローの言葉さえも痛く感じる。

さらにそこから、

客「ねえねえねえ 男がさ、子どもを産むなんてのはさ」
いずみ「あ〜 ニュースの?」
客「そうそう」
客「バケモンだよな」
客「普通よ、子どもを産むのは女の仕事でしょ?」
いずみ「ままま、そうですね」
客「妊娠なんかする男なんかさ〜 気持ち悪いよ〜」
いずみ「キモいかどうかは分かんないすけど、実際旦那が妊娠したら私は産ませる勇気はないかな」

と、同級生と客の会話が続く。亜希は医学的にはどんな男性にも可能性がある、と続けるが同級生と周りの客は圧倒的に反対派の意見をぶつける。

子どもを産むのは「女の仕事」と定義するが、リアルなこの世の中では産める身体かそうじゃないかだけの違いで、産んで当たり前と思われているこの世の中をデフォルメして偏見を顕著に表現しているシーンだ。

ありえない設定だが、女性に対する偏見も含めて明らかになっているように思えた。
女が産んで当たり前という世界があるからこそ、産まない選択肢をとっている人、不妊治療を受けている人に優しい世界にいないと思う。

4月から人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」についての保険が適用されるようになったが、社会としてのサポート体制はまだ追いついていないように思える。
私は当事者ではないから、あくまで不妊治療を経験してきた人の話しを聞いてきただけではあるが、会社勤めをしながら不妊治療をすること(クリニックに通う頻度とか)はまだ難しそうに感じる。費用の面だけではなく、社会としても各企業が変わっていく必要があると思う。

不妊治療の話しを聞くと、自分は何も知らないまま歳を重ねてきたと実感する。避妊の方法は習っても、具体的な妊娠の仕方は「卵子と精子が受精する」くらいの知識しか習っていない。

妊娠に関しては色々な選択肢があって、産まないという選択肢があること、産むために卵子を凍結する選択肢があること、不妊治療があること、産み方などすべての知識を男女平等に習えれば良かったのに、それなら「産むのは女の仕事」なんていうセリフは出てこなくなるんだろうと思う。


女性の身体で産まれたが故の生き方


30歳をすぎて「結婚」「妊娠」について考える機会が増えた。自分がどう生きるのか、選択していかなくてはいけないが結果的に仕事や今の生き方を優先して後回しにしてしまっている。

「こうしたい」という明確な決定を自分に下すことはまだまだできなそうだが、たまにこう向き合わせてくれるコンテンツに触れてもう少し考えたり調べたりしたい。


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