進化は脳の形態そのものではなく発生の設計図に対して起こる
ヒトの神経細胞の数はおよそ860億個で、神経細胞間のつながりであるシナプスはその1000~10000倍存在する。よって、30億塩基対のヒトゲノムに神経回路の設計図をエンコードするのは不可能である。
また、われわれの神経回路は可塑性を通じて一生を通じて変化し続ける。ここからも、進化により神経回路そのものを規定するのはナンセンスであることがわかる。
遺伝子変異と脳への影響
ヒトには2万以上の遺伝子が存在するが、そのうち70%~80%は脳で機能するとされている。選択的スプライシングを考えると、さらに多くの種類の遺伝子が脳の形態・機能に寄与しているだろう。例えば、発生過程で神経が分化する際に、周囲の化学物質の濃度勾配が重要であることが知られており、この形成にかかわるタンパク質をコードする遺伝子がある。ほかにも、神経の成長、シナプスの形成、神経伝達物質の生成などの多くのプロセスを担う遺伝子が存在する。
発生は進化を繰り返す?
ヘッケルは、「個体発生は系統発生を繰り返す」(発生反復説)と述べた。ヘッケルの発生反復説は過度の単純化であると考えられているが、脳の発生の時系列が脳進化の歴史をある程度反映していることも事実である。それは、発生初期への変異はのちの発生のカスケードに影響するので適応的になりにくいためである。
また、進化の過程で神経で働く分子そのものは保存されているが、その発現位置や時期が異なることで、異なる構造・パターンを持つ神経回路が形成される場合がある。このような進化における分子の使いまわしはよく行われるようで、一般に神経回路の構造そのものよりも、分子マーカーで特定される神経細胞種のほうが保存度が高いとされている。
参考文献
Insights from the brain: The road towards Machine Intelligence
Cortical Evolution: Judge the Brain by Its Cover: Neuron (cell.com)