見出し画像

生物学を斬る#5 【数】

生物に対する定性的説明ばかりでは実体から遠ざかってしまう可能性があるので、様々な数値をもとに生命についてのイメージを膨らましていきたい。

生命のゲノム情報を担う物質であるDNAは太さ2nm(2*10^-9m)でヒトの場合、長さは伸ばすと約2mになる。これが細胞内では非常に高度に折りたたまれ、直径約10μm(1*10^-5m)の核の中に収納されている。DNAを100万(10^6)倍拡大すると、DNAの長さは約2000kmで東京-沖縄間の距離程度、DNAの太さは約2mmで500円玉の厚さ程度になる。DNAがどれだけ細長い構造をしているかのイメージが持てるのではないだろうか?

また、野球のボールの直径を約7cmとしてDNAを7000倍拡大すると、DNAは1.4kmとなる。東京スカイツリーの高さが634mなので、スカイツリー2本以上の長さがある糸状の物体が野球ボールの中に絡まらずに収納されていることになる。これは、イヤホンのコードなどがすぐに絡まってしまうことを考えると驚異的なように思われる。

ヒトはゲノムサイズが約30億塩基対であり、遺伝子数は約2万といわれている。この数値の大きさの感じ方は人それぞれだと思うが、ヒトの多様性と複雑性を考えると生命の設計情報がすべて含まれるゲノムがCD-ROM約1枚分のデータ量であり、遺伝子が2万というのは少ないという印象を持たれることが多い。(コムギは遺伝子数が12万ある。)生物が比較的少ない構成要素から様々な組み合わせや修飾によるパターン数の増加を通して複雑な環境への対処を可能にしているということが分かるのではないだろうか?

定量的なものの見方は様々な方面に応用可能で、例えばウイルスの基本的な特性を用いて、パンデミックを引き起こしたコロナウイルス感染に関する以下のような問を定量的に見積もることができる。

一人の感染者が100万人を感染させるまでにどのくらいの時間がかかるだろうか?

2020年の古い情報であるが、適切な対策をとらなければ1人の感染者は2-4人の新たな感染を引き起こすとされている。また、潜伏期間の中央値は3日程度で、その後4日ほど最大に近い感染力がある。よって、6日で4人に感染させると近似すると、3日ごとに感染者が2倍となる計算となる。2^10が約10^3であることから、30日ごとに10^3倍に感染者が増えていくことが分かり、2か月で一人の感染者が100万人を感染させうるという推定が得られる。

もちろん、この推定は実際の感染パターンを非常に簡略化したものであり、スーパースプレッダー、群れ免疫、検査の不完全性などを完全に無視しているのだが、適切な感染対策を行わなかった場合にウイルスが指数関数的に驚異的な拡散をみせるということが分かる。

他にも以下の記事にはコロナウイルスに関する多数の数値が記載されており、その特性を知ることができる。

DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.57309

参考文献

Yinon M Bar-On, Avi Flamholz, Rob Phillips, Ron Milo (2020) Science Forum: SARS-CoV-2 (COVID-19) by the numbers eLife 9:e57309
DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.57309

生命のゲノム情報を担う物質であるDNAは太さ2NMでヒトの場合、長さは伸ばすと約2Mになる。細胞内では非常に高度に折りたたまれ、直径約10Mの核の中に収納されている。6日で4人に感染させると近似すると、3日ごとに感染者が2倍となる計算となる。

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像はとりんさまAI(@trinsama)により生成