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学習により皮質脊髄神経の活動は遷移する

大脳皮質の中で運動に関する情報処理を行う運動皮質は、脊髄へ情報を送ることで行動を制御する。
ある運動を学習していくにつれ運動皮質の神経活動ダイナミクスは変化していき、この運動皮質の可塑性が運動学習に必要であることが知られている。
しかし、最終的に運動皮質と脊髄をつなぐ皮質脊髄路が安定な出力チャネルとして働くのか、皮質脊髄路の活動自体が学習に伴いダイナミックに変化するのかはわかっていなかった。

本研究では、マウスがレバー押しタスクをしている最中に2光子顕微鏡を用いて皮質脊髄路の神経活動を測定し、その行動との対応を観測した。
皮質脊髄路の神経細胞群にはヘテロ性があり、学習に伴って神経活動パターンもダイナミックに変化していくということが分かった。

Peters, Andrew J., et al. "Reorganization of corticospinal output during motor learning." Nature neuroscience 20.8 (2017): 1133-1141.
https://www.nature.com/articles/nn.4596

手法

図1-3では、レバー押しタスク中の皮質脊髄神経の樹状突起のイメージングを行う概要が示されている。2光子顕微鏡を用いて、14日間、毎日1細胞レベルの分解能で多数の神経細胞の活動を記録している(図2D)。

結果

図4では、皮質脊髄路の神経集団が行動の異なるタイミングで活性化する神経を含むことが示されている。レバーを動かすときに活性化する神経(緑)、休んでいるときに活性化する神経(赤)、無条件に活性化する神経(黄)がクラスタリングされている(図4A)。また、全体の割合としては動きのないときに活性化する神経(赤)の方が動いているときに活性化する神経(緑)よりも多いことが分かった(図4B、C)。これは、皮質脊髄路が脊髄神経を活性化して行動を引き起こすというイメージからは意外な結果であると述べられている。一方で、マウスにおいては皮質脊髄神経と運動神経は直接つながっておらず、主に抑制性の介在神経が仲介しているため、皮質脊髄神経の活動と運動出力が逆転した関係であることは妥当なようにも思える。

図5では、皮質脊髄路の神経活動と行動の関係が学習に伴いダイナミックに変化していくことが示されている。各細胞の活動クラスは日によって変化するが(図5A)、学習が進むとクラスタリングの結果は安定化していくことが分かった(図5C)。これにより、運動皮質と脊髄をつなぐ皮質脊髄路が安定な出力チャネルとして働くという説は否定され、その活動自体に可塑性があることが示された。

図6では、レコーディングした神経集団のクラスタリング結果とそのクラスが学習に伴いどのように変化するかが示されている。活動クラスが変わる細胞集団を見てみると、動きのないときに活性化する神経が運動中に活性化する神経に変化する場合が極端に少ないなどの、非対称的な神経活動の変化パターンが観測された(図6A)。

出典: https://www.nature.com/collections/adiijbjacc

運動皮質の学習モデル

学習の成果を高めるには2つの重要な側面がある。
1つは記憶と対応する事象の結びつきを強めることである。
これは、単純には事象と結びついた神経活動を高めればよい。
もう1つは、異なる事象に対応する記憶を分けることである。
これには、異なる事象間で共通する神経活動を減らす必要がある。
大雑把には、前者は神経活動を増やす方向の、後者は減らす方向の調節が必要になるため、どのようにバランスをとるかが大切になる。

図7では、運動皮質2/3層の細胞・皮質脊髄路の細胞の活動と行動の関係が、運動学習に伴ってどのように変化するかを比較している。
運動皮質の2/3層の神経活動は学習に伴って、行動相関が大きいときに神経活動相関が大きくなるように変化していくことが先行研究により示されている。(図7A、B右側)
皮質脊髄路の神経活動は学習に伴って、行動相関が小さいときに神経活動相関が小さくなるように変化していくことが示されている。(図7A、B左側)
結論として、運動皮質2/3層の活動変化は運動記憶の強化、皮質脊髄路の活動変化は運動記憶の判別という、記憶の相補的な側面に対応しているのではないかというモデルが示されている。(図7C)
ただし、運動皮質の2/3層の活動は学習によって安定化しても、何らかの形でその情報が下流に伝わらなければ学習成果の向上にはつながらないので、そこがどうなっているのかは疑問である。

参考文献

Yoshida, Yutaka, and Tadashi Isa. "Neural and genetic basis of dexterous hand movements." Current Opinion in Neurobiology 52 (2018): 25-32.
Peters, Andrew J., Simon X. Chen, and Takaki Komiyama. "Emergence of reproducible spatiotemporal activity during motor learning." Nature 510.7504 (2014): 263-267.

運動皮質と脊髄をつなぐ細胞の活動と行動の関係が、運動学習にどのように変化するかを比較。運動皮質の2層の活動変化は、記憶の相補的な側面に対応しているのではないかという。運動記憶の判別という、記憶の相補的側面に対応しているのではないかと筆者。

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像の出典:https://www.nature.com/articles/nn.4596