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生物学を斬る#10 【バイオテクノロジー】

スマートフォン、コンピューター囲碁、量子コンピューター…
様々な分野においてテクノロジーが発達し、数十年前には空想の話でしかなかったことが可能になってきているが、生物学も例外ではない。
今回はドラえもんのひみつ道具に例えて、5つの画期的なバイオテクノロジーを紹介していこうと思う。

iPS細胞:タイムマシン


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時間と空間を越えて移動する乗り物。時空間に存在しているので、現空間に開いたタイムホールから乗り降りする。

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生命の個体は最初1つの受精卵から始まり、それは全能性(全ての細胞に分化できる能力)を保持しているが、発生の過程で細胞分裂を繰り返すうちに細胞は多能性(複数の細胞に分化できる能力)を失っていき、大人のほとんどの細胞はもはや他の細胞種に変化することはできない。

つまり、細胞の分化は時間のように一般に不可逆的でさかのぼることができない。

しかし、この常識を覆し、4つの山中因子を導入することで細胞の広範囲な多能性の獲得に成功したのがiPS細胞である。
タイムマシンのように不可逆的な過程をさかのぼったという点で興味深いだけでなく、研究に用いることの可能なヒト細胞や、臓器移植に使用可能な自己の臓器の構築など様々な方面への応用が期待されている。

PCR反応:バイバイン


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物体を倍々に増やせる液体。小瓶に入ったこの液体を物体に1滴垂らすと、その物体は5分ごとに倍に増えていく。

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DNAは細胞内では細胞分裂が行われるたびに2倍に複製されているが、試験管の中で複製することを可能にしたのがPCR反応で、本当にDNAに関してはバイバインが実現しているといえると思う。
実質試薬さえ混ぜ合わせてしまえば、温度を上げ下げするサイクルを繰り返すという超単純な操作だけで特定の塩基配列を数時間で10億倍程度に増やすことができてしまうため、革新的なアイデアというのはすごいなあと思わされる。
PCR反応はDNAシークエンシング(DNA配列の読み取り:病気の治療法の選択や犯罪捜査等に用いられる)など分子生物学のあらゆる実験に欠かせない技術となっているだけでなく、現在でもPCR反応をベースにした顕微観察技術であるDNAマイクロスコピーといった新たな技術の発展のもとになっており、まさに生物学の研究を加速させた発明といえると思う。

DNAプリンタ:どこでもドア


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どこでも行きたい場所へ自由自在に空間をつなげるひみつ道具。行先を音声で指定して扉を開けると、そこはもう目的地。

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PCR反応はもとからある配列を増やす技術だが、好きなDNA配列を一から化学合成する技術がDNAプリンタである。
昔は短い配列しか合成できず、正確性も低く、コストが高かったが、近年はこれらすべての面で大きく発展し、DNA配列を一般人が自由に合成できる時代も遠くないのではないといわれている。
このDNAプリンタを用いてウイルスのゲノムDNAを合成し、そのウイルスに対するワクチンを合成するといった応用がなされている。

多くのウイルスは核酸とタンパク質のみからできているため、ウイルスの核酸を読み、その情報さえ送ってしまえば、DNAプリンタとポリペプチドの化学合成でウイルスを遠隔地で合成する、一種のどこでもドアのようなことができそうに思う。
ヒトなどの生物でも、DNA塩基配列情報、トランスクリプトーム情報(RNAの総体)、プロテオーム情報(タンパク質の総体)、神経細胞のコネクトーム(結合情報の総体)などを読み取り、それらを遠隔地に送りクローン人間を合成することができれば、将来どこでもドアが実現するかもしれない。
いろいろと突っ込みどころ満載だが、実際に物理的に瞬間移動するよりは可能性が高いのではないかと感じる。

エクスパンションマイクロスコピー:ビッグライト


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あらゆる物体を大きくできるライト。これの光線を浴びたものは、途端にムクムクと大きくなる。ただし元に戻す機能は備わっていない。

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生物学の基本的な研究手法の一つは対象を観察することで、小さいものの観察には対象を拡大して見る顕微鏡が使われる。
しかし、光学顕微鏡は光の波長に解像度が制限され、それ以下のオーダーのものを見ることは厳しい。
逆にこの限界を突破すれば生物学の様々な現象を明らかにできると考えられ、実際にこれを実現した光学的手法である超解像度顕微鏡は2014年にノーベル化学賞を受賞した。

一方で、小さいものを見る方法は光学系の分解能を上げる以外にもう1つある。
それは、対象物を拡大するというビッグライトの発想で、エクスパンションマイクロスコピーが実現していることである。
エクスパンションマイクロスコピーでは、観察対象を拡張できるゲルの中に埋め込み、内部の分子的位置関係を保ったまま対象を4倍程度に膨らませる。
これにより、今まで観察が困難であった神経細胞間の接続部位であるシナプスの構造可視化などが行われている。

DNAイベントレコーディング:タイムテレビ


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時間と空間を越えて、過去や未来のあらゆる場所の映像が見られるテレビ。その映像を3Dホログラムとして投影することもできる

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生物学の基本は対象を観察することであるとすでに述べたが、ただ形態を観察するだけでなく細胞内で起こるすべての分子的イベントを記録できたとすれば、それは夢の技術である。
現在、トランスクリプトーム技術によってかなりの網羅性で細胞内の分子状態のスナップショットが得られるが、細胞状態の観察のためには細胞を破壊する必要があり、時系列情報を推定することは難しかった。

DNAイベントレコーディング技術は、人工遺伝子回路として自律的な細胞状態観測・記録システムを細胞内に埋め込み、DNAに分子イベントを記録してシークエンスにより後から読みだす技術である。
現在の応用範囲は発生系譜の構築などに限られているものの、細胞の分子プロファイルについてタイムテレビのように自由に時系列発展を追える可能性のある技術であり、夢が広がる。

ドラえもんのひみつ道具に例えて、5つの画期的なバイオテクノロジーを紹介している。時間と空間を越えて移動する乗り物「IPS細胞」は、生物学の研究を加速させた発明。あらゆる物体を大きくできるライト「ビッグライト」も挙がっている。

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像はとりんさまAI(@trinsama)により生成