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小さなあかり。

「電話、電気、ガス、水道」
これは、僕が一人暮らしをする中で知った大切な知識なのです。
公共料金を滞納した際、止まっていく順番、それが「電話、電気、ガス、水道」なのです。
今は違うのかもしれませんが、90年代の半ば頃は、この順番で止められていきました。
全て、自分で経験したことなので間違いありません。

電話、電気辺りまでは、簡単で、コンビニで振り込めば、その瞬間に復旧しました。
笑っていられるレベルです。
そこを越えて、ガス、水道に至ると、大変で。
まず生活自体がめちゃめちゃ不便になります。
ライフラインってよく言いますが、無くなってみると命綱だと実感しますよね。
そして、復旧についても払い込めば終わりではなく、開栓に立ち合いが必要でめんどくさかったです。
しかし、その開栓業務を担当された方にとっては、本当に余計な仕事なわけで、めんどくさい仕事をさせてしまったのは自分なのだ。
あーあ、当時は、そんなことに思いが至らず、しょうもない若者だったなぁとつくづく思う。
今は、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

家賃が上がった。
たった2000円なのに、その当時の僕には、たえきれなかった。
それまでだって、ぎりぎりだったのに、もう限界だ。
そのうえ、どうしてもバイクがほしくなった。この状況では購入は不可能。この部屋からの脱出を決めた。

そろそろ部屋探しをしようかなと考えだしたころ、ちょうど大学の先輩から声がかかった。
「僕のとなりの部屋空くけど…。」
家賃を聞くと2万円。
即決だった。

そのアパートの名前はさつき荘。
いかにも、ぼろアパートっぽい名前だが、いやこれが、たいしたぼろアパートなのだ。
6畳、流し、トイレ、風呂付き。
これだけ聞くと、すごくいいカンジなんだけど、実際、壁はぼろぼろ崩れてくるし、日の光は全く入ってこないし、洗濯物は乾かないし、冬は外の方があったかいし、夏は暑さで一睡もできないし。
そんな部屋でした。

この部屋に住みだして、僕はバイクを買うことができた。
中古バイクをローンで。よくある話。
そのローンのせいでお金がない、これもまた、よくある話。

ある夜、家に帰ってきた。部屋のまん中まで手探りで進む。何度か空振りをしながら電灯のヒモをつかむ。かちかち。
おかしい。
引っ張っても電気がつかない。
周りを見渡すとビデオのタイマーも消えている。
部屋中の電気が止まっている。
そう。料金不足で電気を止められたのだ。

しばらく、どうしたものかと途方に暮れていたのだが、あることを思い付いた。

延長コードを手に部屋を出た。
おもむろに隣の部屋の外にある洗濯機のコードをコンセントから抜くと、そこに延長コードを差し込んだ。
そして、延長コードを部屋まで引いてくると、小さな電気スタンドにつないだ。
部屋が、ぽわっとオレンジの光に照らされた。
心の中にも小さなあかりが、ともったような気がした。

電気ってありがたいなーって、しみじみと思いました。
そして、先輩ってありがたいなーとも思いました。
朝、そっと延長コードを抜いておいたので気付いていないと思うけど。

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