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2024.5.25 J1第16節 北海道コンサドーレ札幌 vs 鹿島アントラーズ

札幌のホームゲームです。
札幌は、負傷が発表された青木のほか、宮澤、近藤が新たにメンバー外になりました。浅野、鈴木も離脱中です。しばらく青木と近藤が担っていたWBは菅と田中宏武、CBの左右には中村と髙尾が入り、馬場と駒井をそれぞれ1列上のポジションに置く配置です。
鹿島は、ミロサヴリェヴィッチが負傷でメンバー外になりました。概ね最近のベストメンバーを揃えていますが、水曜日のカップ戦に濃野、仲間、知念を除くメンバーが出場しており、コンディション面では万全とは言えなさそうです。


中盤の管理能力

このゲームの札幌は、鹿島のバックライン、特にCBの対人能力からいかに逃れるかについてのプランを持っていたようです。ロングフィードを頼らず、中盤に拠点を作ってから、アタッカーに優位な形を作って鹿島ゴール前へ進もうとします。

初期状態では鹿島は4−4−2で中盤のスペースを埋めており、佐野と知念の管理下にあるスペースへスパチョーク、駒井が降りるだけでは自由になることができません。

札幌は鹿島のブロックに隙間を作るためにダミーの前進パスを使っていました。ブロックを迂回し、サイドの中村、髙尾まで届けると、対面の師岡と仲間がアプローチに動きます。同時に2列目のスパチョークと駒井が低い位置まで移動すると、そこへのパスを警戒して佐野と知念も初期ポジションから移動します。
鹿島の4バックはこの動きに追随しないので、師岡の背後にはスペースがあり、佐野もカバーするポジションにはいない状況が生まれます。

札幌はこのスペースが消える前にボールを戻し、岡村と馬場からの縦パスを通そうとします。初期ポジションでは菅が降りることでパスの受け手を担い、ポジションを入れ替えた場合は中村、スパチョークも選択肢になります。
札幌は師岡と濃野の間に拠点を確保すると、そこからディフェンスラインの背後へパスを送り、鹿島ゴールに迫ります。キム・ゴンヒが植田と関川の背後へ動きながら、逆サイドの駒井と田中宏武がスペースへ移動してフィニッシュを狙います。

鹿島はよりダイレクトに前線のアタッカーを使います。
4−4−2で構える札幌に対して、早川、関川、植田が横パスを使いながら前線の動きを待ちます。

名古は中央、鈴木はサイドに流れながらのポストプレー、師岡と仲間は背後へのランニングの選択肢を持って、札幌の最終ラインの監視を外そうとします。札幌は初期ポジションでは岡村と馬場が2CBを形成しますが、サイドに流れて4−4−2のスペース管理に不均衡を作ろうとする鈴木に対して馬場をマンマークをつけて対抗していました。

鹿島は、鈴木や名古のポストプレーが成功すると、佐野と知念を経由するスルーパスで一気に前進しようとします。このとき、師岡、仲間、名古はそれぞれ、ディフェンダー裏への動きと、味方のアタッカーを背後からサポートする動きの両方を選択肢に持っており、札幌のディフェンダーを前後矛盾する方向へ引っ張るよう互いをサポートします。スルーパスからそのままシュートへ持ち込めない場合も、その背後のプレイヤーへつなぐことで攻撃を継続することができます。

いずれのチームにも共通するのは、中盤からのスルーパスをきっかけに素早くゴールに迫るという点です。札幌の攻撃は、ディフェンスラインの裏のスペースへ素早く進入する、ショートカウンターのような構造を持っています。鹿島は、前線のプレイヤーに360度どちらへ進むかを判断する裁量が与えられていて、少人数であっても味方と違う方向へ動き、ディフェンダーから逃れる動きの連続で攻撃を成立させようとしていました。
ディフェンスの観点からは、まず中盤でスルーパスを送るための拠点を明け渡さないことが必要で、札幌にとっては鈴木のポストプレーや知念や佐野のボールへのプレーを阻むこと、鹿島にとってはディフェンスラインの前で札幌のスペースを与えないことが重要になります。中盤をいかに管理するか、所定のポジションをいかに維持できるかが、ゲームの流れを左右することになります。また、セットした状況であってもスルーパスを完全に防ぐことはできないので、裏へアタッカーが走る状況が生まれたときに、いかにディフェンダーやGKが個人として対応できるかも重要になります。

デリバリーを待つ前線へ

ゲームは、ボールを保持しながら前進を試みる札幌に対して、鹿島がカウンターを繰り返す状況で始まります。
札幌は、特に左サイドで鹿島の1列目のプレスを外し、師岡の背後まで繰り返し到達することができていました。菅がライン間でボールを得ると、駒井やキム・ゴンヒへのスルーパス、逆サイドでフリーになっている田中宏武へのサイドチェンジ、スパチョークを経由するなどの選択肢が生まれます。しかしほとんどがミスパスとなり、ゴール前へ迫ることができません。

札幌は、リスタートの場面から鈴木のポストプレーを使おうとする鹿島を、馬場のマンマークによって退けることができていました。しかし、ボール保持を保持しても中盤まで持ち上がるたびにパスミスが発生し、鹿島に繰り返しカウンターの機会を与えてしまいます。札幌がほとんどシュートの場面まで到達しない一方、鹿島は札幌のボール保持が途絶えるごとに札幌ゴールに迫り、チャンスを作ります。

39分、鹿島が先制します。
仲間が札幌陣内をドリブルで持ち上がると、札幌が回収してカウンターへ移行。サイド深くまで持ち込んでスパチョークがクロスを上げますが、ここから互いにクリアボールを蹴り合って、いずれのチームのボール保持なのか不明確な時間が生まれます。最終的にボールを得た鹿島は、バックパスを使って密集から逃れ、陣形を整えながら重心を上げ始めます。このとき、札幌は守備陣形を崩しており、4−4−2のタイトなブロックを形成することができませんでした。サイドの師岡、前線の仲間、中盤の鈴木とパスがつながる間、ディフェンスのアプローチが遅れ続けます。最終的にはゴール前で名古がフリーになり、そこへ師岡が精密なパスを通します。フリーの名古から放たれたシュートは菅野が一度セーブしますが、再び蹴り込み、鹿島が0−1とします。

ビハインドになった札幌は左サイドからの前進を続け、中盤から前線へ展開する機会をたびたび迎えますが、そこからのスルーパス、クロス、サイドチェンジなどがことごとくミスになり、鹿島ゴールに迫ることができません。鹿島が1点リードのままハーフタイムへ。

消える中盤

後半の鹿島は、鈴木へのポストプレーではなく、札幌のブロックの背後へのフィードを用いるようになりました。成功率は高くなく札幌にボールが渡ることが多くなりますが、鹿島はここから札幌に圧力をかけます。前半の札幌は、リスタートの状況からキーパーを組み込んだボール回しで前線を伺っていましたが、鹿島のロングフィードを回収したあとは視界と配置が乱れており、ボールホルダーから前線の動き出しを待つ余裕を奪います。なんとかスパチョークや駒井に預け、ドリブルを使って前進を試みますが、佐野や知念の圧力を背負うことになりほとんど成功しません。

54分、鹿島が追加点を挙げます。
ディフェンス裏にポジショニングする鈴木へのロングフィードを、馬場がヘディングで落として菅野が回収しようとします。ここに鈴木がプレスを行い、菅野からキックの時間を奪いました。余裕がなくなんとか当てる形になったキックは方向がコントロールされておらず、中盤の名古へ。菅野が戻りきらないうちにロングシュートが決まり、鹿島が0−2とします。

鹿島の追加点が入ったあと、両チーム交代を実施します。
鹿島は師岡に代えてチャヴリッチ。名古を右SHへ移動し、チャヴリッチと鈴木の2トップとします。
札幌は髙尾、中村、田中宏武、キム・ゴンヒに代えて、原、長谷川、田中克幸、家泉が入りました。初期配置を4−4−2として、バックラインを家泉、岡村、菅、馬場の4人、前線はスパチョークと駒井、左右のSHに原と長谷川、CHに田中克幸と荒野を置く形に変更します。

札幌は長谷川を中心に、駒井、菅がサポートして左サイドに起点を作り、反撃を試みます。中央の田中克幸を経由してサイドチェンジを加えながらディフェンスを動かそうとしてますが、スパチョークと駒井が中盤のサポートのために前線を不在にしがちになると、鹿島も中央を捨ててサイドに圧力をかけやすくなります。札幌はボールを保持しても、ほとんど中央方向へ進むことができません。

鹿島は70分にも交代。仲間、名古を下げて柴崎、樋口を入れ、チャヴリッチも加えた前線の活動量を増やすと、ボールをキープして前進しようとする札幌を押し返します。札幌は鹿島陣地に入れなくなっていきます。

87分、鹿島が追加点。コーナーキックのボールにチャヴリッチがニアでうまく触れ、ゴールマウス上隅に流し込みました。鹿島がリードしたまま札幌を寄せつけず、0−3で勝利しました。

感想

昨シーズンまでの札幌は、上位チームに対して善戦 (一方で撤退守備を選択できるチームには苦戦) してきたように思います。それは札幌の強気のポジショニングが、上位チームの準備を裏切るという意味で、厄介なものだったからでしょう。しかしこのゲームのように中盤で噛み合うような展開を選べば、そういう構図にはならず、普通の展開から、普通に実力差が露見することになります。今シーズンの札幌がそれを選んでいるという点で、昨シーズンとは前提が違っていることを含んでゲームを見る必要があるように思います。

実力といってもいろいろですが、まず撤退守備について課題が出ました。鹿島の先制点の場面は、ボールが何度も陣地を往復し、不安定な状況のあと生まれました。札幌はこのゲーム4−4−2で鹿島を迎撃する体制でしたが、この場面では陣形の回復が遅れています。同様に鹿島も乱れた状況でしたが、逆サイドにいた師岡選手が、体勢を整えようと元のサイドへ移動しながらアシストを決めているのは象徴的です。鹿島のプレイヤーは初期ポジションを回復することを当たり前にやりながら、即興で攻撃までできている一方、札幌は未整備であるところを見せてしまいました。

撤退守備だけでなく、攻撃面も同様です。このゲームの札幌はとてもパスミスが多かったと思いますが、それは1列目を超えたあと、中盤の限られたスペース、限られた時間を使ってゴール前を目指すシチュエーションで起こっていました。自陣から運んできた優位性を前線につなぐ、いわゆるビルドアップですが、これは過去の札幌はほとんどやってきていないと思います。相手を押し込み、札幌の攻撃を相手チームが受ける、という構図が確定してから金子選手がドリブルを開始したり、いろいろやっていくという場面が多かったのですが、中盤でどちらへ転ぶか、というときのプレーはサイドチェンジなどで回避してきました。なので急にできないのも仕方のないことだな、と思います。

それにしても、鹿島と札幌では、ゲーム運びやチームを構築する優先順位が、面白いほどに対照的です。鹿島は守備を整備して、まずリスクを消してから攻撃を加えていく。札幌は攻撃にフォーカスしながら守備を足していくスタイルで、サッカー界において札幌のそれが異端的であるのは明らかです。ただこれは、持たざる者の宿命なのかも知れません。どこかで無理をしないと、普通にぶつかり合ったら強者に押し出されてしまう。奇策に出るのもわかりますし、この数年間、奇策から得たことは多いでしょう。個人的にもずいぶん楽しませてもらいました。リーグにおける札幌の存在自体が奇策だったと言ってもいいかも知れません。
しかし当然この世界は奇策だけでやっていけるほど甘くなく、奇策でもなんでもやって時間のあるうちに、経営的な、サッカー的な蓄積をしなければ、結局は実力通りの地位に沈んでしまいます。そちらがおろそかだったことは否めないでしょう。

ただ遅きに失したからといって、いま「スペース管理をしようとしている」「ビルドアップしようとしている」ことが無駄とは思いません。実力の積み上げはいつやったとしても遅いということはないでしょう。このゲームも、強い守備基盤があれば、なかなか先制点が入らないとか先行された状況でも、時間を引っ張る選択肢が増えます。ビルドアップがうまければ個人のパスミスも減ったでしょう。それらの基礎を鍛えた上にしか、セカンドプランはあり得ません。先制ゴールは取れるようになってきた、あとは逃げ切れるよう守備で集中しよう、といった状況認識が甘いことの証明は、柏戦と鹿島戦を見れば十分です。奇策を表現するプレイヤーがいる頃から貯金できていればよかったのですが、それがない以上、いまからでも積み立てるしかないでしょう。もちろんそれで最低限の結果を得ることができるかどうかは、シーズン冒頭に書いた通り、時間の問題として差し迫ってはきています。おわり。

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