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2023.11.11 J1第32節 北海道コンサドーレ札幌 vs サンフレッチェ広島

札幌のホームゲームです。
札幌は前節と同じスターティングメンバー。ベンチに小柏、スパチョークが戻っています。
広島はドウグラス・ヴィエイラが出場停止。1トップには加藤が入りました。CB中央は荒木ではなく山崎が担い、東はWBではなくCHで川村とのコンビを任されました。

広島のプレスと札幌の抵抗

開幕節の対戦はスコアレスドローでしたが、内容としては札幌が自陣から出られず、菅野のファインセーブでなんとか凌いだ、というゲームでした。広島はその再現を狙っていたでしょう。札幌の4-1-5の配置に合わせ、満田がやや前、エゼキエウがやや下がり目の5-3-2で向き合い、高い位置からプレスを行います。

ボールがサイドに出たところでパスの受け手を塞ぎ、札幌のエラーを誘おうとします。

札幌は広島のプレスに対し、浅野と駒井のコンビネーションを使って打開を図ります。
広島は前線の5人が広くポジショニングして札幌のプレイヤーを捕まえようとする一方、5バックは裏抜けを警戒してあまり動きたがらない傾向がありました。エゼキエウが対面の田中を捉えようと動いた裏にはスペースが生じ、ここを川村や佐々木が管理しなくてはなりません。札幌は、ルーカス、田中が時間を作りながら、このスペースへ出てくる浅野とタイミングを合わせてパスを通そうとしていました。
ボールキープからターンを狙う浅野のプレーと同時に、駒井が裏のスペースへ走り抜ける動きを見せます。駒井が下がって浅野が裏抜けするパターンの存在も含めて、広島の最終ラインは前後方向へ矛盾する圧力を受けていました。

札幌の左サイドでは、深い位置にいる福森から駒井へのミドルレンジのパスで広島のプレスを裏返します。右サイドと同様に駒井のターンにタイミングを合わせて浅野が裏へ抜けることで、山崎の背後を脅かします。

サイドで加速するスペース

札幌は、広島のボール保持を中盤で受け止めようとします。2020シーズンからピッチ全域でボールホルダーを追うスタイルで知られるようになった札幌は、プレスに出たWBの裏のスペースにパスが通ると、そのまま加速を許し、簡単にゴール前にラストパスを通されることが続いていましたが、最近はこの課題について意識的な修正を行っているようです。菅、ルーカスの両WBが5バックらしく深い位置に留まり、広島の2列目やWBが加速しながらパスを受けるようなスペースを消します。

また札幌の5バックの前のエリアは、馬場と荒野が監視を行います。5バックの手前でプレーしようとするプレイヤーを見つけてまず彼らCHがアプローチし、5バックは簡単に動きません。広島は、仮に馬場と荒野を背負いながら中盤でボールキープに成功したとしても、その他のプレイヤーはマークを受けた状態です。フリーで札幌ゴール側へ抜ける状況を作るためにはさらに工夫が必要になります。

札幌の振る舞いは特に珍しいものではありませんが、ここ数シーズンと比較すると、スペース管理に大きく比重を移していると言えます。特に広島は開幕節で、2列目のプレイヤーがサイドを使って札幌を繰り返し押し下げていたので、その再現をさせないようにする意図があったのでしょう。

ロングフィードで札幌を動かす

ゲームは、広島のプレスに屈しなかった札幌の優勢で始まります。
駒井、浅野が広島のプレスの背後でボールを受け、ターンを繰り返し成功させます。特に左サイドの福森からのフィードは、広島のラインを2つ飛ばして、最終ラインと駆け引きする駒井に一気に届ける鋭さがありました。
広島は高い位置で最終ラインが後手に回ると、浅野やルーカスのランニングを止められず、陣形が崩れた状態でゴール前の対応を強いられます。広島の左サイド深いエリアまでルーカスや浅野が進入したあと、逆サイドの菅や青木へ展開してシュート、という形で繰り返し札幌がチャンスを迎えます。

広島は、ボールを持っても札幌の5バックの前で札幌のプレスを受け、スルーパスがミスになったり、タックルからボールロストを繰り返しペースをつかめません。前半は札幌ペースのまま時間が経過しますが、広島は大迫のファインセーブや、塩谷や佐々木がフィニッシュの場面で適切に対応し、失点を免れます。

広島はハーフタイムにロングフィードを使う意図を共有したようです。札幌が待ち構える中盤を省略し、5バックの裏へ満田や加藤を走らせます。そのまま一気に札幌ゴールへ向かうのではなく、この動きで札幌の初期ポジションを動揺させ、中盤の密度を低下させることが目的です。

ロングフィードに競り合って札幌の5バックを後退させると、その手前にスペースが生じます。そこへWBや2列目のプレイヤー、CHが入り込みながらプレーすることで、馬場や荒野から遠ざかりながらプレーするわずかな時間を生み出していました。ボールキープに成功するとハーフスペースの縦突破や、逆サイドやゴール前の動き出しを駆使して札幌ゴールに迫ります。

ロングフィードによって札幌陣地で広島がプレーする時間が増え、交代によって広島のプレイヤーがフレッシュになると、札幌のプレスが次第に広島の攻撃を押し返せなくなっていきます。深い位置からプレスを裏返す川村のパスや、ピエロス・ソリティウのポストプレーなど、前半はタックルに阻まれていた中盤のプレーが成功するようになっていきます。

後半のペースを握った広島ですが、それほど多くの決定機を作ることはできず。むしろ札幌が前線のキャラクターを変えながらロングカウンターを狙い、いくつか決定機になりかけますが、塩谷、川村、佐々木らが適切な対応で凌ぎます。やや札幌が優勢のゲームは、スコアレスドローで決着しました。

感想

三上GMがディフェンスのアップデートに取り組んでいる、と度々公言していますが、その効果が実感できるゲームでした。一気に攻めきるのではなく、サイド〜中央と動きながら攻撃をしたい広島が相手ということで、わかりやすさがあったのかも知れません。
WBが前に出た裏をスパーンと使われて、急いで戻ったら前向きの中盤のプレイヤーに戻されて、アワアワしてるうちにゴール前にパスとFWが突進してくる…という絵はずいぶん見ましたが、それと比較するとかなり安心して見ていられるゲームでした。

結果として広島にいい展開をさせず、0にも抑えたのでディフェンスの意図としては成功、といえる面があったと思いますが、ボール奪取位置のコントロールとしては課題が残ったようにも見えました。広島が攻撃に使いたい中盤の微妙な高さの位置で待ち構えて、初手で止めないまでも次のプレーでエラーを誘う、というのは前半特に成功していたと思うのですが、「中途半端な高さから攻撃に転じる」ことに不慣れで、奪った後が非常にぎこちない印象でした。ルーカス選手がハーフウェーライン近くでボールを持って、数秒間次の展開を探すような場面があり、広島の人たちも、あれ?来ないの?みたいな時間がありました。
札幌はリスタートの前にWBが高い位置にまず上がってしまって、空間を確保してから攻撃を始める、という形で、いい意味でビルドアップのエラーの可能性を低めていました。ただそれは、流動的な状況でパスコースを連続的に作る、というプロセスの省略でもあるので、中途半端な高さに広島の選手もいっぱいいて、4-1-5のような予測可能な形もない状況から次どうする、という状況や、その経験を避けてきたという意味でもあります。
マンマークがずれると一気に相手チームのチャンスになるようなディフェンスと、4-1-5の形からリスタートできる、というオフェンスの開始点はセットになっていて、ディフェンスが変化すればオフェンスも異なったものになるということです。

普通の5バックを取り入れること自体は、とてもよいことのように思いました。今シーズンは特に裏返されっぱなしでいいことがありませんでしたから。相手の攻撃を受け止めながら、中盤やや低い位置からうまく攻撃に移行する方法が整備されてきたら、面白くなりそうです。おわり。

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