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2021.6.6 YBCルヴァン杯PLAY-OFF 1st Leg 北海道コンサドーレ札幌 vs 横浜F・マリノス

オールコートマンツーマンと表現されることの多い札幌の2020年式にとって、2020年7月26日の横浜FM戦は最も象徴的なゲームでした。ゲーム後のペトロヴィッチ監督の「1974年のアヤックス」発言もそうですが、おそらく実質的に重要なのは、2020年式はそもそも、横浜FMや川崎のようなリーグのトップレベルのクラブと互していくために存在している、という点にあるように思います。目標とするクラブに対して新しい方法でいきなり結果を出した、というわけです。実はそれ以降は勝たせてもらっていないのですが…。

今年も、カップ戦のグループステージを突破した両者による対戦が実現しました。プレーオフステージは180分のゲームを札幌厚別と三ツ沢で行います。札幌は負傷からアンデルソン・ロペス、チャナティップがまだ戻っていません。CFは荒野、2列目左は駒井が担います。横浜FMは前田が代表招集で離脱。今シーズン序盤のCHは喜田、扇原が担っていたと思いますが、最近は別のコンビネーションも試している状況のようです。1トップにもオナイウではなくレオセアラが入りました。

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ゲーム構造

2020年7月26日の記念日?からまだ1年も経っていませんが、両者はそれ以来5度目の対戦になります。互いにスタイルの大枠は変えないだろうと想定できるチーム同士です。対戦を重ねるごとに予測できる程度が大きくなり、このゲームは特に、スタイルの単純なぶつかり合いというよりは、互いのやりたいことを知っている中での睨み合いの傾向が強かったように見えます。

横浜FMは、自陣で札幌のプレッシングを受けることを避けようとしません。畠中、岩田、ティーラトンがパスをつなぎ、プレスを引き込んだ上で、札幌陣内の広いスペースを使おうとします。プレスの脱出口を担うのはエウベルとボールサイドに寄って行くマルコス・ジュニオールで、金子と田中の裏を狙う意図が見えました。札幌陣内に侵入した後は、仲川、小池、渡辺らが中央〜逆サイドでフリーになるためのランニングをして、素早くフィニッシュを狙います。

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札幌は、オールコートの1on1とよく言及されますが、その中でも重点を作ることで少しずつその効率を高めています。高岡、チアゴ・マルチンス、畠中にはボールを持たせつつ、横浜FMのビルドアップの経由地になろうとする岩田と、出口になろうとするマルコス・ジュニオールには特に厳しく寄せて奪い切る姿勢を見せます。

また、ボールと反対のサイドのWBがCBのラインまで下がる「振り子式」の対応は、考え方として2020シーズンから変わっていないのですが、そのタイミングはより割り切ったものに変わってきているように見えます。青木は、小池をフリーにしても、仲川を監視できるポジションへ早めに移行しているようでした。

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札幌はボールを持つと、横浜FMの4バックの前後のスペースに集中的にプレッシャーをかけました。MFタイプの駒井と荒野の2人が横浜FMの4バックの手前のスペースでボールを受ける動きを見せ、一方で小柏が頻繁に裏抜けを仕掛けることで裏のスペースを意識させます。

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横浜FMは札幌のビルドアップに対して4-4-2で構えます。4バック化した札幌に対して2トップとSHがプレッシャーに出ると、中央は岩田と渡辺の2枚が残る形になります。札幌は通常、中央を空洞化させ、深井+チャナティップ(このゲームでは駒井)くらいしか顔を出さないのですが、このゲームでは深井に加えて駒井、荒野の3人が近い位置でプレーをします。
横浜FMの4バックは小柏、青木、金子の裏抜けに備える意識が強く、下がっていく荒野や駒井をケアしません。中央で2on3で優位に立った札幌が、頻繁にボールを収めることになりました。

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横浜FMには、下がって行く荒野や駒井につられてディフェンスラインを乱すことはしたくない、ラインを高く保つことで渡辺と岩田の孤立を防ぐ、というスペース管理の考えがベースにあると思います。
札幌が荒野と駒井をピッチ中央へ移動させても、横浜FMが空間を圧縮すれば自由は得られません。しかしピッチ全体を圧縮することはできないので、中央のスペースを埋めるということは横浜FM陣内のスペースを増大させることを意味します。札幌は、中央が狭いとみれば直接4バックの背後へボールを送ることが意識されていました。ここへ小柏が走り出します。

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札幌のフィニッシュのアイディアについて。裏抜けの場合はそのままシュートを狙いますが、荒野、駒井、深井の3人が中央で起点を作った場合は、横浜FMゴールまでまだ距離があり、これを攻略する必要があります。
WBの青木と金子がピッチの幅をとった状態にポジショニングして、横浜FMの4バックの幅に対してストレスをかけるのがその基本的なアイディアです。中央からWBにパスが通ると、ドリブルで横浜FMの4バックの脇に仕掛け、ラインを乱した後のクロスを狙います。ひとつ前の場面で起点を作った荒野と駒井には、WBがボールを前進させる時間を使ってゴール前までポジションを上げ、フィニッシュの場面に関与することが求められています。

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相手ディフェンスが乱れた状態でない場合、この中央での起点作り〜ゴール前でのフィニッシャーを連続して実行するパターンが、唯一2020年式が再現できている得点パターンだと思います。そしてそれを担うことができるのは誰なのか。密集の競り合いでボールを失わず、次の展開に繋げるパスやドリブルができ、さらにゴール前に顔を出す運動量を持っている荒野がこの役割を担う、というのは納得です。

横浜FMは4バックの対人能力と機動力に自信を持っており、それを信用するスタイルを採用しています。前線が広く攻撃を展開できるのは、4バックが広大な自陣側で危険な場面を素早く判断してケアしてくれることが前提です。
この日の札幌は、横浜FMの4バックに機動力があることを前提に、前、後ろの2つの選択肢で揺さぶりをかけ、さらにWBで左右の幅を突きつけ、「機動力をどちらの方向に使うか」の判断に負荷をかけようとしていたように見えます。
横浜FMのディフェンスは札幌の動きに対してきちんとリアクションしてくるだろう、という前提の振る舞いですし、横浜FMも札幌がそうしてくることはある程度わかっていて、それでも札幌の判断以上に素早く対応することで上回ろう、と考えているように見えました。

ゲーム展開

札幌が荒野、駒井、小柏の機動力を使ってピッチ中央でのボールキープと裏抜けを使い分け、横浜FMゴールへ向かう場面を繰り返す状況からゲームが始まります。横浜FMは、岩田、マルコス・ジュニオール、エウベルが厳しいタックルを受けてボールロストし、ビルドアップが出口まで到達しません。

札幌が優位に立ったままゲームが展開していた27分、青木のミドルシュートで札幌が先制します。この場面は、菅野からのロングフィードが高い位置の福森まで到達した状況から始まっています。小池が背走する形にはなりましたが、横浜FMには十分な人数がいました。しかし、荒野の近くにいたチアゴマルチンス、青木の近くにいた渡辺は、いずれも荒野と青木から遠ざかって彼らをフリーにします。

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4バックと2CHが意識していたのはゴール前中央のスペースで、そこへ一気に戻ろうとしているように見えました。次の瞬間にはゴール前のスペースを埋めることができた一方、青木が少しボールを横に動かしてシュートコースを作り、踏み込んで思い切りシュートを打つためのスペースと、数秒の時間を自ら明け渡しています。

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ペトロヴィッチ監督がさほど喜んでいたように見えなかったのは、横浜FMの振る舞いによって生まれたスペースを使ったゴールで、能動的に作ったチャンスと思えなかったからかも知れません。しかし横浜FMのディフェンダーはここまで30分もストレスに晒されており、ゴール前に走り込む小柏や荒野に対応し続けていました。その展開を予想して後手を踏まないように帰陣しようとするのは正しいように思えます。
一方、ゴール前を塞げばミドルシュートが飛んでくる、という危険を札幌が突きつけられていたかというと、そこまでではないでしょう。敵味方いずれにとっても意外な?クオリティのシュートが決まった、それほど再現性のない場面だったように感じます。

札幌の先制から間もなくの30分、深井の膝が痛んで菅と交代します。菅が左WBに入ると、青木が2列目左、深井の担っていた右CHには駒井が入ります。

結果的にこの負傷交代が、ゲーム開始後30分横浜FMを困らせて先制点まで奪った流れを変えます。荒野、青木、駒井が密集を作ることなく、離れた位置でプレーするように変化し、横浜FMはひとりずつ対処できるようになりました。特に、青木と駒井に対して渡辺と岩田が同数で対応。横浜FMは中央を組織的にケアする必要がなくなり、4バックは荒野をディフェンスラインの守備範囲に吸収し、裏抜けへの警戒に集中できるようになりました。

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札幌は中央を経由できなくなり、低い位置からのカウンターが増えます。金子、菅がサイドのスペースを縦にランニングしてチャンスを作りますが、前半30分と比べると大味で体力任せの単騎のチャレンジになります。プレーエリアが低くなると、横浜FMのビルドアップに対するプレッシャーも弱まりました。
札幌が攻守にトーンダウンすると、横浜FMはポゼッションを回復。右サイドの小池や仲川を使ったビルドアップも試みるようになります。また、エウベルが低い位置まで顔を出して、ドリブルでボールを運ぶようになり、札幌のディフェンスはより苦しくなっていきます。
札幌のディフェンスによるプレーエリアのコントロールを失った状況で、両チームカウンターが増えて行きます。

41分、チアゴマルチンスが菅を突いてしまい、札幌がPKを獲得。横浜FMのスローインの場面から札幌がボールを奪ったショートカウンターの場面でした。駒井がドリブルで運ぶと左サイドに流れた荒野に渡り、菅のオーバーラップへラストパス。遅れてケアしようとしたチアゴマルチンスのファウルになりました。PKは高岡が弾いて得点にはなりません。

横浜FMにも繰り返しカウンターのチャンスがある中で46分、仲川のゴールが決まって同点とします。駒井の仕掛けたドリブルが渡辺に引っ掛かり、横浜FMのカウンターになります。レオセアラが宮澤のプレッシャーを背負いながらも耐えてボールを残し、次の場面でエウベルが高嶺と入れ替わります。2つ連続して札幌は人を捕まえることに失敗しました。結果としてボールは逆サイドの仲川まで通り、小池の追い越しを囮に使いながらのシュート。左サイドから持ち上がって逆サイドで待つ仲川が決める、というパターンはこのゲームで何度か再現しており、ついにこれが決まりました。
ただこの土壇場でも、宮澤、高嶺がカウンターの経路のうち少なくとも2カ所にアプローチできており、ディティールが違えばストップする可能性はありました。失点の原因は、ゲームコントロールとして、1on1守備が苦手とするカウンターを繰り返す状況を作ってしまったことに求めるべきかと思います。1−1で後半へ。

後半から、横浜FMは2CHの岩田と渡辺がポジションを交換します。渡辺を左CHに置き、左サイドからの持ち上がりの解決を図ったと思われます。

58分、高嶺と交錯した福森が歯を折る負傷。同時に小柏も筋肉系のトラブルでプレーが続けられなくなってしまいます。それぞれルーカス、ドウグラスと交代し、トラブル対応に交代枠を3枚も使うことになりました。ドウグラスの1トップ、金子と青木の2列目、ルーカス右WB、菅左WB、CHは荒野と駒井、福森の抜けた左CBには高嶺、という配置になります。

札幌はすでにゲームプランを維持できなくなっていましたが、負傷交代でその流れが決定的になります。後方でキープはするものの、前線や中央での駆け引きがなくなり、縦パスから単純に個人でシュートまで持ち込む展開に。ただ、ゲームのコントロールができない状況で、人数をかけすぎずにリスクなく攻撃を終わらせると言う意味では、単騎の攻撃も効果的だったかも知れません。

69分、横浜FMは仲川に代えて水沼。75分、渡辺、マルコス、レオセアラを下げて、扇原、天野、オナイウが入ります。

札幌の状況が悪い割には横浜FMも大きなチャンスを作ることができず、ファーストレグは終了。1-1の状況で三ツ沢でのセカンドレグを迎えることになりました。

感想

横浜FMは、札幌のフィニッシュをずいぶん警戒して、中央ではなくゴール前を塞ごうとしてくるな、という印象でした。中央に人数をかけてバチバチやり合った方が、横浜FMのショートカウンターのチャンスも増えたような気がします。バックラインのギャップを生じることが、どれくらい札幌の有利につながるか、という視点では正直なところ、今の札幌はあまりうまく使えないかも…と思ってしまいました。

メンバーについては、ダイゼン・マエダがいませんでしたが、選手特性が違うエウベルの使い方がだんだん定まっていった印象もありました。ボール持たせてドリブルした方が、エウベルは札幌の脅威になるように思います。同点の場面もエウベルのボールゲインがありました。渡辺と岩田のコンビはまだ何か作ってる途中という印象です。札幌のプレスに苦しんだ前半は、扇原と喜田だともう少し運んだかも?という気もします。

札幌は30分まで、川崎戦で見せたような落ち着きと、ディフェンスライン前後の駆け引きが良かったと思います。このあたりが2020年式の最新バージョンだと期待したいです。そうであるだけに、深井の交代後、荒野の単体の裏抜けや駒井のドリブルの仕掛けが増え、前に急ぐことでマリノスのカウンターを自ら引き出してしまったように感じられました。
やらなくなったのか、深井を欠くとできなくなってしまうのか…そのあたりが気になるところです。できるならやっとるわ、という可能性が高そうですが。あと、気のせいだといいのですが、深井くんがトラブルになったゲームはスタジアムもチームも、奮起するよりはションボリしてしまう傾向があるかも知れません。自分はとりあえず、大宮戦だったか、札幌ドームで腰が抜けたようになった経験があります。

チームスタイルがぶつかり合って、毎度違う部分で勝負が分かれている印象の札幌vs横浜FM。1週間後のセカンドレグは、どこが焦点になるでしょう。楽しみです。おわり。

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