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2024.4.27 J1第10節 北海道コンサドーレ札幌 vs 湘南ベルマーレ

札幌のホームゲームです。
札幌は岡村、菅、長谷川がメンバー外。CB中央には宮澤、左には中村が入ります。トップには鈴木が復帰し、前節トップを務めた駒井は宮澤のいないCHに変更です。ベンチにはキム・ゴンヒが戻っています。
湘南は鈴木章斗がメンバー外で、FWに阿部が入ります。また小野瀬を負傷、田中を代表を欠いています。それ以外はいつも通りと言えそうですが、水曜日に行われた秋田との120分のゲームに出場しなかったのは鈴木雄斗、池田、馬渡のみ。大岩、奥野、髙橋、平岡、杉岡はスターター、キム・ミンテ、阿部、ルキアンも途中出場しており、コンディションへの影響は避けられなさそうです。


プレーエリア選択権の行方

このゲームは、両チームとも相手チームを自陣から遠ざけることを志向していたようです。札幌、湘南いずれも、自陣にとどまっている時間を短くするための前進を試み、それに対抗するために高い位置でのディフェンスを行います。

湘南は、4-4-2のブロックで札幌のボール保持と向き合います。中央にいる駒井へのパスをルキアンと阿部で警戒しながら、最後方にいる荒野、宮澤へアプローチします。

札幌がボールをサイドへ移動させるとブロック全体をスライドし、札幌のビルドアップを閉塞しようとします。ボールホルダー周辺のプレイヤーに圧力をかけてショートパスの選択肢を消し、ここで奪いきって高い位置で攻撃へ移行するか、札幌にボールを放棄させることを狙います。

札幌陣内で時間を得ると、サイドバックを高い位置に置いて中盤の空間を確保し、ポジションチェンジからのスペース創出を狙います。特に、縦方向の入れ替わりを使ってゴール前で前向きのプレイヤーを作り、スピードに乗って一気にシュートまで持ち込みます。阿部が下がったスペースに平岡が走り込む、などがそのパターンです。

自陣からの前進も原理は似ています。池田、平岡が自陣方向へ動いて、杉岡や鈴木が前方へ飛び出すスペースを作ります。髙橋と奥野に池田と平岡を加えた4人のプレイヤーは、SBをスルーパスに反応する位置まで移動させるため、中盤で時間を稼ぐ役割を担います。
ルキアンへのフィードを使った場合もこの点は変わらず、中盤に落ちたボールを確保して、そこから前向きにパスを出せるプレイヤーを作ることが湘南がプレーエリアを押し上げるための条件になります。

一方の札幌は、湘南のボール保持に対してマンマークの関係を作って押し込もうとします。ビルドアップでは簡単にボールを捨てずに持ち上がり、湘南陣内ではボールを失っても広く守って湘南に前進を許さない、という構えです。

湘南を押し込むことに成功すると、近藤とスパチョークまでボールを届け、そこから湘南ブロックを崩すためのプレーを開始します。
右サイドでは、近藤が縦へのドリブルの選択肢を見せることで対面の杉岡を引きつけ、浅野が活動する空間を作ろうとします。湘南から見ると、キム・ミンテは鈴木、奥野は駒井、平岡は馬場をそれぞれ背負っており、誰が浅野の対応に出るべきか曖昧さがあります。札幌は、ディフェンスが浅野の対応に出れば別の誰かが浮く、という状況を使ってフリーなプレイヤーを作り、ゴールを目指します。浅野がボールを得るとカットインからのシュート、馬場に戻すとクロス、駒井に入ると浅野を前に走らせるスルーパス、などが選択肢になります。

左サイドでは、スパチョークが中央寄りのエリアでボールを得る場面からスタートします。ここでターンなどの選択肢を見せることで、青木への監視を弱くすることができます。青木が再び鈴木にアプローチされる前にボールを届けることで、スパチョークの裏抜け、あるいは青木自身のカットインからのシュートなどでスピードアップし、ゴールを目指します。

両チームとも、ボールを簡単に捨てないボール保持志向だった、と言うこともできそうです。ボール保持とそれを破壊しようとするプレスのバランスが、どちらのチームがプレーエリアの選択権を得るか、ひいてはゲームの行く末を左右することになります。

2つの前進経路

ゲームは、札幌が湘南を押し込む展開で始まりました。札幌は湘南のプレスを突破して繰り返し前進し、湘南を押し込んだ状態からゴールに迫ります。

札幌には主にふたつの前進経路がありました。ひとつは、左サイドで青木が関わってスパチョークが裏に抜けるパターンです。髙橋はスパチョークの中盤でのプレーを警戒してブロックの内側で待っていますが、青木が低い位置でプレーした場合のスパチョークは、ディフェンスラインの裏方向へ動きます。この前後に矛盾する動きで、髙橋の監視が遅れる場面がありました。鈴木とのマークの受け渡しも間に合わない場合、スパチョークがサイドで前向きにドリブルを開始する状況が生まれます。

もうひとつは、サイドチェンジのパターンです。サイドを圧縮しようとする湘南のスライドに対して、対角方向のパスで裏返します。左サイドでスパチョーク、青木のキープの選択肢を見せつつ、中村から逆サイドの近藤へ、というパスが多く見られました。
山口監督が前半は2列目3列目が低すぎた、とゲーム後に振り返ったように、湘南はブロックの位置が低く、札幌の一つ目のパスから大きく動かされがちでした。前線で孤立気味のルキアンと阿部が中央の選択肢を消しながら、大きく開いた荒野、宮澤のプレーを同時に制限することは難しく、札幌は自陣深いエリアで自由にサイドチェンジをすることができます。ビルドアップの1つめのパスで湘南が札幌に与えた余裕は、札幌の前進の足がかりになっていました。

湘南は、自陣側でも札幌に対して十分な圧力をかけられません。
広くプレーする近藤と浅野の圧力によってブロックの密度を維持できず、CBとSBの間には度々スペースが生まれます。背後からサポートを受けられない杉岡は、対面の近藤の動きを制限しきれず、度々縦方向へのドリブルを許していました。

湘南は、近藤からボールを奪えないだけでなく、周囲をサポートする札幌のプレイヤーへの対応でも後手にまわります。平岡が浅野への対応を強いられると、馬場が度々フリーになります。札幌はフリーの馬場へ戻すことで安全なエリアから攻撃を再開することができ、鈴木や浅野がゴール方向へ走りながら、そこへパスを合わせる余裕が生まれます。

湘南はボール保持からもうまく札幌を押し返すことができません。最終ラインでボールを動かしながら中盤の奥野、平岡、髙橋らにボールを預けて前進を試みますが、札幌のマンマークの制約を受けて後ろ向きのプレーを強いられます。前線へ到達する前にパスミスになるか、急ぎすぎて前線のプレイヤーが追いつかないなど、パスのクオリティが確保できません。
自陣からの前進においても、相手陣地でのディフェンスにおいても上まわった札幌が、プレーエリアを高く保つことに成功しました。

23分、札幌が先制します。
左サイドでスパチョークが青木とパス交換をしながら縦に大きく動き、髙橋のマークを振り切って深い位置まで進入します。スパチョークがフリーで上げたクロスボールをキム・ミンテが処理しきれず、小さくなったクリアが青木へ。そのままシュートへ持ち込むとファーサイドに決まり札幌が1-0とします。

札幌ペースが続き、42分には札幌に追加点が入ります。
コーナーキックの場面で、密集エリアに落ちるボールに対応しようとした馬渡とキム・ミンテのプレーがかぶり、近藤のプレーを制約できません。ほぼ自由に放たれたヘディングシュートが決まりました。前半は札幌が湘南を圧倒し、2−0でハーフタイムへ。

マンマークの使いどころ

ハーフタイムに両チーム交代を行いました。札幌は負傷の宮澤に代わって家泉。湘南は奥野と池田を下げ、福田と山田がそれぞれ同ポジションに入ります。

湘南は、山田を中心に自陣でのポゼッションを改善し、札幌を押し返すことができるようになります。山田は、後ろ向きの湘南のプレイヤーにパスを預けつつ、ボールが移動する時間を使って自由になることでそのリターンを受けていました。マンマークを一カ所解除すると札幌はカバーのために連鎖的にマークが弱くなり、山田のプレーによって湘南はチーム全体が押し上げるきっかけをつかみます。
湘南はブロックの押し上げの意識も高まって、札幌陣内のプレス強度が上がり、札幌のビルドアップからボールを奪い返す場面も増えました。

湘南が札幌陣内でのプレー時間を増やして後半が始まりましたが、追加点を挙げたのは札幌でした。
53分、ボールを奪おうと前がかりになった湘南のプレスを札幌が右サイドで裏返します。縦パスを近藤と鈴木が後ろ向きに確保し、前向きの馬場へ戻します。馬場からの縦パスをスパチョークが逆サイドの青木へ流すと、札幌のカウンターの状況が生まれます。中村がボールを持つ青木を追い越して湘南のディフェンスを押し下げると、その手前の空間で青木がカットインからシュート。これがファーへ決まり、札幌が3−0とリードを広げます。

湘南はペースを維持しながら61分と66分に交代を実施。平岡と阿部が下がり、畑と石井が入ります。同時に配置を3-4-3へ変更しました。WBの鈴木と畑が高い位置をとることで、4バックの位置から高い位置まで移動する時間を省略することができます。前線も3枚になり、より攻撃に重きを置いた配置です。

66分、交代したばかりの畑がゴールを決めます。
鈴木が髙橋のリターンを受けて前向きになると、右サイドで裏へ走るルキアンへ長いフィードを送ります。ルキアンがこれを収め、対応に出た馬場と入れ替わってクロス。これを逆サイドでゴール前に先に入った畑が押し込みました。湘南が1点を返し3-1とします。

湘南の配置の変化によって、札幌の劣勢が決定的になっていきます。札幌は湘南のボール保持に対して守備が機能しなくなり、前半とは反対に、湘南がプレーエリアを高く保つようになりました。
特に札幌が低い位置に押し込められてからは、マンマークのリスクが顕在化していました。湘南は上下にポジションを流動的にして、各プレイヤーが前線から中盤、中盤から前線へ移動を繰り返します。このゲームの札幌は自陣でもマンマークを維持しており、アタッカーの移動についていきます。そのため湘南は自由に札幌のディフェンダーを操作して、スペースを作ることができました。プレーエリアを上げることに成功した湘南が、札幌のマンマークを操って生み出したスペースから再三ゴールに迫る展開が生まれます。

70分から77分にかけて両チーム交代を実施。
札幌はスパチョークと鈴木に代えて髙尾と小林。馬場をCHに上げ、CB右に髙尾が入ります。小林をトップとし、駒井を2列目へ移動しました。湘南は髙橋に代えて茨田。同ポジションに入ります。

84分、湘南が追加点を挙げます。
左サイド高い位置で茨田、杉岡、畑がキープした場面から、茨田が密集を抜けてボールをコントロールし、ゴール前を伺いながらクロス。高い位置をとっていた大岩が折り返すと、中央に福田が詰めてヘディングで押し込みました。湘南が3−2と追い上げます。

札幌はリードしつつもプレーエリアを押し上げられず、湘南の攻撃に翻弄されつづけます。
92分、さらに湘南が得点します。コーナーキックを茨田がニアで触れて軌道を変えると、ファーで鈴木を監視していた馬場がボールのコースに目を奪われ、マークを見失います。鈴木がほぼフリーでトラップし、そのまま蹴り込んで同点とします。

後半途中から湘南の一方的な展開のまま推移し、3得点。3-3でドロー決着となりました。

感想

湘南の畑選手の得点は、札幌の左サイドのルキアン選手vs馬場選手の場面から生まれています。このとき馬場選手は右CBで、対面は石井選手。どうして馬場選手が逆サイドでルキアン選手に対応していたのか?と思って見直してみると、直前の場面で石井選手が逆サイドへ移動し、それに対応しようと移動している馬場選手の姿が見えました。
馬場選手は左サイドに移動しつつ、途中で中村選手とコミュニケーションをとって、石井選手のマークを中村選手に任せています。そのかわりとして最後方の湘南の選手を引き取るわけですが、中村選手であれば対面は福田選手のはずです。このとき福田選手はゴール前にいて、そちらは家泉選手が対応している状況でした。札幌の左サイドでルキアン選手vs馬場選手が生まれたのはこういう事情でした。

この場面からは、いかに札幌の選手が受動的な移動を強いられ、かつスペース管理とのダブルスタンダードに陥っているかがわかると思います。馬場選手はマンマークを維持するために逆サイドまで行きましたが、その過程でふたつのマークの受け渡しが発生しています。受け渡しは、近くにいる選手を捕まえる、であるとか、最後方には家泉選手を置いておきたい、という都合も同時に考慮するために生まれています。いずれにしても札幌自身の守備方針によるもので、湘南に強いられたものではありません。ペトロヴィッチ監督はゲーム後、ゲーム終盤までプレー強度を維持できなかった、と語っていましたが、自陣でマンマークを採用しているのは札幌です。その負担が当の札幌からそぎ落とした強度がどれほどだったかについては、その評価に含まれるべきだと思います。

不思議なのは、このブログで繰り返し書いてきた通り、今シーズンの札幌は昨シーズンまでよりもずっと、スペース管理で対戦チームの攻撃をやり過ごそうという姿を見せてきたにも関わらず、このゲームからはその意志が感じられなかったことです。スペースを管理するといっても、自陣でセットプレーを与える危険もありますし、もちろんリスクはあります。それで逃げ切れなかったゲームも続いていますが、このゲームのリードは3点もありました。アタッカーが使いたいであろうスペースを先に埋めて、簡単には動かない守り方は、3点を追いかける湘南を困らせるためにこそ効果的でしょう。実際に見られたのは全く逆の、湘南の動きについてまわってスペースを晒し続ける30分と、それ故の3失点でした。

このゲームの狙いが、前に出たい湘南を押し返し、湘南陣地で時間を進める点にあったことは確かでしょう。そのために、多少スペースを生じても人を捕まえる2020シーズン式のマンマークディフェンスを使う、という選択も妥当だと感じます。ただそれをリードした時間に、しかも自陣で行うことは、湘南を利することはあれど札幌にとって良いことは何一つないように思われます。

今シーズンのゲームで、スペース閉塞のディフェンスが機能していた時間は長かったので、札幌にそれを実行する能力がないとは思えません。あり得るとすれば、後半もマンマークで湘南を押し込むつもりだったが、押し返されてしまってマンマークをやるエリアが下がってしまった、という状況でしょうか。もしそうであれば、当初プランがうまくいかないときに、現場がそれを変える判断力を持たないか、変えることを禁じられている、という可能性を考えることになるでしょうか。引いて構えたとしても湘南がそれを上まわった可能性はあり、それはそれで力及ばずと納得できると思いますが、チームが持っているオプションを引っ込めたままゲームの流れを手放してしまうのは、何とももったいないです。簡単ではないのでしょうが、時間による使い分けができるような進化を期待したいです。おわり。

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