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2023.10.28 J1第31節 北海道コンサドーレ札幌 vs 横浜FC

札幌のホームゲームです。
札幌は小柏、スパチョーク、中村がメンバー外になった一方、荒野、青木、宮澤が戻ってきました。前節のスターターから、1トップの駒井、2列目左の青木、CHの荒野、左CBの福森がそれぞれ変化しています。
横浜FCは山下がプレーできない状態にあるようでメンバー入りしていません。同ポジションの2列目左には小川が入ります。


発火役を担うカプリーニ

このゲームの横浜FCは、札幌陣地深い位置で一気に加速して攻撃を完結させるプランを共有していたようです。
主にマルセロヒアンへのロングフィードで前進しますが、合わせてディフェンスをハーフウェーラインまで上げ、全員が札幌陣内に入る状況を用意していました。この密度の高い状況を活用してセカンドボールを確保し、カプリーニまでボールを届けることで、高い位置から攻撃を開始する狙いでしょう。

カプリーニはボールを得ると、ターンや短いドリブルなどを駆使してチームメイトの動き出しを見極める時間を作り、ペナルティエリアを脅かすスルーパスを狙います。マルセロヒアンや小川が反応し、マーカーを振り切ってスルーパスに追いつくと、横浜FCに優位なゴール前のシーン(札幌のディフェンダーがリアクションを強いられる状況)が生まれます。

カプリーニのパスを受けたアタッカーはボールをさらに深い位置まで運び、クロスからのフィニッシュを狙います。前線のプレイヤーが最初の選択肢になることに加え、ファーサイドにWBが入ってゴール前に厚みを作るところまでが横浜FCの狙いとして見えました。カプリーニのパスで札幌の最終ラインを裏返してから、一気に仕留めようというイメージでしょう。

横浜FCは札幌のプレスを受けることを嫌って、攻撃に手数をかけることを避けていた、と見ることもできそうです。ボール保持者が優位に立つ状況を2つ、3つ程度連鎖させてゴール前まで到達させたい、ただし長い距離を運んだり、ロングフィードで競り合うのは不利とみて、短い、少数のパスで札幌のディフェンスから逃げ切りたいということだったのでしょう。そのため、中盤より手前のエリアでボールを動かすプロセスを省略し、カプリーニが最初から高い位置にいる状態でゲームを展開しよう、というアイディアだったのでしょう。

浅野の裏抜け

札幌は、カプリーニを高い位置に置いてプレーしようという横浜FCの意図に反応したのか、最初から決めていたのかはわからりませんが、ディフェンダーの裏へ走る浅野へのフィードを徹底して使います。高木、岡村など低い位置からだけでなく、中盤の青木からもスペースを狙ったパスが送られていました。

札幌のボール保持に対して横浜FCは、高い位置からプレスを行っていました。初期配置の3-4-2-1から小川を1列前、カプリーニを1列下げた5-3-2で、正面にあるボールは様子見しながら、ボールが移動するとサイドに閉じ込めるように人数をかけてアプローチします。
この形から札幌のビルドアップにエラーが起こると、カプリーニは中盤に、マルセロヒアンと小川は前線に残っている状況で、ゴール方向に仕掛けることができます。また札幌に初期のプレスを突破されると一気に帰陣し、ゴール前のスペースを埋める形を整えます。中盤で加速しようとする札幌に対して後手にまわらないように配慮していたのでしょう。いずれも、手数をかけずにカプリーニを高い位置でプレーさせる、というゲームプランと整合します。

シンプルに浅野を走らせる札幌のプレーは、横浜FCがプレスを準備しているエリアを素通りし、カプリーニを自陣へ後退させるという意味で合理的なものだったと思います。横浜FCが意図的にショートカウンターの形を作って完結させられるか、札幌がプレスを克服して横浜FCの望まない後退を強いることができるか、という構図が生まれます。

影のストライカーの影

ゲームは、両チームの意図は見えるものの、パスがつながらずなかなか攻撃が成立しない展開で始まります。横浜FCはプランに忠実に高い位置でボールを回収しますが、札幌ゴールに迫ろうとする縦パスが通らなかったり、パスが流れて札幌にボールを渡してしまう場面が多く、シュートまで持ち込めません。札幌は浅野を走らせようとしますが、長距離のパスが浅野のランニングになかなか合いません。

どちらのチームが優位とも言いづらいゲームの流れは、18分に札幌が先制したことをきっかけに札幌へ傾きます。
浅野が中盤へ下がりながらパスを受けてボールを確保すると、左サイドの菅へ大きく展開します。横浜FCは帰陣しますが、再び菅から逆サイドのルーカスへボールが移動すると、林がルーカスにアプローチしきれません。ルーカスがシュートまで持ち込み、キーパーが弾いたこぼれ球を駒井がヘッドで押し込みました。

その後も横浜FCは札幌のサイドチェンジに動揺させられる展開が続きます。
浅野のプレーに対してはンドカ・ボニフェイスと吉野が、ルーカスに対しては林が対応しようとしますが、そのまま前進させないまでも奪い切るようなディフェンスができません。横浜FCは5バックですが、ンドカ・ボニフェイスは中央で待つよりもボールサイドへ関わろうとする傾向などもあって、逆サイドのケアが万全ではありません。札幌は右サイドで時間を得ると、逆サイドでフリーになっている菅を使うことができていました。

菅が縦に持ち運ぶ頃には、ゴール前で駒井と浅野が、菅に近いエリアでは青木がポジションを整えて待っています。札幌は、ファーサイドでは浅野がクロスに備え、青木は低い位置でリターンを待つことで、横浜FCの5バックに前後に矛盾する圧力を与えることができていました。さらに駒井は、ディフェンダーの死角のスペースを狙ってポジションをとることで、シャドーポジションとされる青木と浅野のシャドー、影の影のように振る舞っていました。

札幌優位の展開の中、31分に札幌が追加点を挙げます。
札幌を押し込んだ状況で横浜FCは攻撃をやり直そうと林へボールを戻しますが、札幌の圧力を受けてトラップが大きくなります。これをルーカスが回収して持ち上がり、裏のスペースへ走る浅野へスルーパスを送ります。それを受けてゴールに迫る浅野にンドカ・ボニフェイスが追いつきますが、立ち位置を誤り、背後に流れるボールに対応できず浅野とキーパーの1on1の状況が生まれます。これを浅野が制しました。

横浜FCがサイドチェンジの対応に苦慮し続け、優位に立った札幌の2点リードでハーフタイムを迎えます。

ビハインドの横浜FCは、後半から小川に代えて坂本を入れます。高い位置からのプレスの強度が上がり、逃れようとする札幌が前線へ向けてボールを捨てるようになります。横浜FCは札幌を押し込んでペースを回復し、前半とは逆の展開が生まれました。60分を過ぎると、横浜FCはマルセロヒアンと林に代えて伊藤と近藤を入れ、1トップに伊藤、左WB山根、右WB近藤という配置に変更しさらに攻勢を強めます。

札幌はキム・ゴンヒとミラン・トゥチッチの2トップに変更するなどしながら守勢を挽回しようとしますが、前線にボールを返すのが精一杯で、ロングカウンターもポストプレーもままならず攻撃機会が得られません。一方的な展開に持ち込んだ横浜FCは、坂本のサイド突破からニアで伊藤が合わせるなど、何度か決定機を迎えますがゴールに至らず。アディショナルタイムにセットプレーからンドカ・ボニフェイスがゴールしますが追い上げは1点まで。札幌が2−1で逃げ切りました。

感想

札幌の攻撃に対応するサイドのプレイヤーには大きな負担がかかる、ということが印象に残るゲームでした。横浜FCの左WBの林選手は、1点目はルーカス選手へ渡るサイドチェンジのボールに対応が遅れ、2点目はカウンターの起点になるボールロスト、と失点に絡んでしまっていますが、ルーカス選手が林選手を上まわって攻撃力を発揮した、と表現することもできます。ひとつ前のポジションの小川選手は何度かサイドでいい状態でボールを受け、仕掛けるチャンスがありましたが、田中選手につかまるか、十分なクオリティのパスを展開することができず、フィニッシュまで持って行くことができませんでした。これも小川選手が田中選手のディフェンスを上まわることができなかった、と言うこともできるでしょう。
このサイドの力関係によって、横浜FCは、プラン通りのシチュエーションを作ったり札幌を押し込みながらも、複数あった決定機に至りそうな展開をシュートまで持ち込めず、サイドチェンジとロングカウンターから失点、という結果に終わったということでしょう。

J1リーグは、札幌に中盤でスピードアップさせないように素早く帰陣するチームばかりになってきました。帰陣したチームに対して、札幌はブロックを飛び越えるサイドチェンジで動揺させようとするシーンが今シーズン繰り返されてきました。
サイドチェンジによってブロックが崩れるか、我慢できるかの差は、やはりサイドにおけるローカルな力関係によります。サイドチェンジに伴う移動によってディフェンダーの負担が増え、結果として札幌のWBの攻撃的な能力を抑えきれなくなると、そこからブロックが決壊してしまいます。このゲームや、16節の柏vs札幌の前半などは、サイドで守備が成り立たず、柏が札幌に対して劣勢になってしまうという典型的なゲームでした。逆に言えば、攻守にわたって能力の高いプレイヤーがサイドにいると、札幌のサイドチェンジに耐えて、攻勢に出ることができるという意味でもあります。
ただ今シーズンまで、札幌がサイドで全く歯が立たずにボロボロに負ける、ということはあまりないように見えます。札幌が予算の割に頑張っている、というより、優秀なプレイヤーを優先的にサイドに配置している、ということでしょうか。

それから、後半にかけて前進手段がなくなる札幌を見ながら、駒井選手のトップ起用の理由を想像しました。キム・ゴンヒ選手やトゥチッチ選手と比べて駒井選手が優れているのは、動き直しの速さや、方向転換の俊敏性のように思います。ある意味ではゴールを決める直接的な能力より、そちらを優先しなければならない状況にあるのでしょう。
マーカーを引きつけてブロックに隙間を作るというよりは、サイドチェンジやロングフィードによる大きな展開に頼ることが多い札幌にあって、2次攻撃、3次攻撃によって生まれる相手ブロックの混乱は貴重な機会です。この点は三上GMもラジオでコメントしていました。
純粋なフィニッシャーとしてはキム・ゴンヒ選手などのほうが引き出しが多いのかも知れませんが、駒井選手のような状況に対するリアクションに長けた選手に、セカンドボールの回収などを前線でやってもらわなければいなければ2次攻撃が成立しない、という面があるでしょう。

前節の横浜FM戦は、ブロックの外側でボールを動かしても崩れてくれず、前線中央に強力な選択肢がないことがゲームを落とす要因になっていたように見えます。横浜FCはセンターラインは強いもののサイドがやや弱く、サイドチェンジによって崩れてくれる、という点で大きな違いがありました。
札幌がより上位を目指していく上での課題は、駒井選手のような俊敏な人でなければ務まらないような前線のタスクを減らすことのように思えます。中盤以下のポジションでより大きなリスクを引き受けなければ、前線のプレイヤーによりストライカーらしい仕事をしてもらうことは、難しいと思われます。おわり。

(32節終了後に、書きかけのレビューに手を加えて公開)

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