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2023.9.16 J1第27節 北海道コンサドーレ札幌 vs 湘南ベルマーレ


札幌のホームゲームです。
札幌は、岡村、菅野をベンチに置いて、CB中央に宮澤、GKに高木が入りました。中断期間中はタイ代表の活動で忙しかったスパチョークもスターティングメンバー入りです。また駒井がメンバー外になりました。
湘南は、2週間前のゲームに出場していた田中、岡本、畑が札幌入りしていません。12日に体調不良者が多く出たということで練習が中止になっており、風邪か何かの影響が残ってしまったでしょうか。そのほかソンボムグンは怪我で離脱中、ディサロは詳細がわかりませんがメンバー外です。

中央を封鎖してエラーを待つ

湘南の狙いは、広くポジショニングする札幌の誘いに乗らず、中央に留まってプレーする点にあったように見えます。ボール保持、非保持いずれにおいてもスペースを晒すリスクを負わず、ブロックの外側で札幌のエラーを誘って勝ち点を拾いたい、という考えでしょう。
札幌のボール保持に対しては、5-3-2で向き合います。

湘南のディフェンスは、ブロックの外側を経由するボールの移動に対しては寛容です。2トップは前線で奪いきるよりも、サイドチェンジや中央方向へのパスコースに立って、ブロックの外側へボールを誘導します。
中央では小野瀬、奥野、平岡がボールサイドへスライドし、前線から降りてくる小柏や、サイドで待つ田中や中村に圧力をかけます。可能であればここで札幌をサイドに閉じ込めて奪い切る、というイメージでしょう。
札幌が中央の圧力を嫌ってディフェンスラインの裏へフィードをすると、今度は素早くリトリートして、札幌の攻撃を受け止めるモードに移行します。中途半端な高さではプレスをあえてしないことで、札幌のサイドチェンジに翻弄されることを避けることができます。夏以降定番になった札幌対策としては、標準的なものと言えそうです。

このゲームの札幌の初期配置は小柏を1トップに置く3-4-2-1でした。そのため湘南の3バックは札幌の前線に対し、小柏 - キムミンテ、浅野 - 大野、スパチョーク - 館、とマッチアップの関係を作りやすい状況にあります。また中央では荒野ひとりに対して、小野瀬、奥野、平岡の3人で対応する関係になります。札幌のプレイヤーが初期ポジションから移動して、中央に1人、2人くらいが関与してきてもカバーする余裕があります。
このゲームの札幌は前線のマッチアップを嫌ってか、小柏がOHのように振る舞う傾向がありました。小柏が前線からピッチ中央方向へ移動し、浅野が裏へ抜けると、湘南の3バックから離れる方向にプレーできるためです。しかしこの傾向は、狭く守りたい湘南にとって有利に働いたように見えます。湘南は裏へボールが出ると同時に後退を開始し、浅野がボールに追いつく頃には自陣ゴール前に構えるため、小柏をブロックの内側に留めることができます。

札幌は最近も、G大阪やルヴァン杯の横浜FMとのゲームでかなりの数の得点を挙げていますが、それはWBのルーカスが中盤で時間を作ることで、ディフェンスラインの背後へ走り込む2トップに対し、高めの位置からパスを供給するプレーによっています。ディフェンダーを置き去りにしてゴール方向に走る小柏の移動は、札幌の得点を支えています。

このゲームでも札幌は湘南の背後を狙う意図は持っていたと思いますが、WBを経由するのではなく、最終ラインの宮澤や馬場から直接前線へ送る長いパスが多くなっていました。パスを供給する始点が下がると、湘南にブロックを下げる時間的猶予を与えることになります。また背後を狙うことで活きる小柏のスピードが、中盤に下がるプレーによって無力化されてしまいました。マッチアップの関係も構造的にキムミンテとの1on1が崩れないため、マークを背負いながらのプレーが続きます。札幌は頼りの小柏の能力を湘南のブロックの中に埋没させてしまっていました。

中盤の優位性の行方

ゲームは、札幌が繰り返しチャンスを迎える状況から始まりました。
湘南は手数をかけずに前進しようと、人数を集中させた中盤にフィードを送り込み、そこから札幌ゴール前のスペースへ入っていこうとします。しかしこのプレーには湘南側にも相応のリスクがあり、これが札幌に利益をもたらしていました。
湘南がピッチ上のどこかへ人数を集中させるということは、人の位置を基準に守る札幌のディフェンダーも同じ場所へ集まってきます。局面が湘南のボールから始まっても、セカンドボールを中盤で奪い合う状況で札幌が上まわれば、ショートカウンターを受けるのは湘南、ということになります。札幌の中盤にいる馬場、荒野、田中は、湘南の小野瀬、奥野、平岡がプレーしようとするタイミングを狙ったタックルで、ボール奪取を繰り返しましした。これがゲーム序盤の札幌の優位を作ります。
札幌は中盤でボールを奪うと、時間をかけずに浅野やスパチョークのディフェンダーの裏へ抜ける動きを使って湘南ゴールへ迫ります。

しかし、札幌が決定機と呼べそうな場面を作ったのはゲーム冒頭だけで、次第にトーンダウンしていきます。札幌はビルドアップにおいては湘南のプレスに屈し、ロングフィードでボールを捨てるようなプレーに終始します。滞空時間の長いボールに対しては湘南も準備ができており、札幌の攻撃が不発に終わることが増えていくと、今度は中盤の密集が湘南を利するようになっていきます。

攻撃時に4−1−5の配置になる札幌は、中盤には荒野ひとりを置くだけです。湘南は奥野、平岡、小野瀬の3人で中盤を管理しており、札幌が重心を上げていく途中でボールが湘南に渡ると、中盤に大きな人数の差がある状況で湘南のカウンターの局面へ移行することになります。

前半42分、この構図から湘南が先制します。
札幌の左サイドで小柏のポストプレーがミスになり湘南に渡ると、一気に前線の大橋へパスが通ります。大橋がドリブルでペナルティーエリアへ持ち込み時間を作ると、ペナルティーエリア手前で平岡がフリーに。平岡のシュートモーションに大橋が丁寧に合わせるパスを出し、難なくゴールします。
札幌はこの時間帯、自陣で湘南のプレスを受けてサイドに追い詰められ、あまり見込みのないまま後ろ向きの小柏へパスをする、という悪い形を繰り返しており、それがそのまま失点につながりました。札幌が低い位置でボールを失えば、平岡、奥野、小野瀬のいずれかに時間が生まれる構造があり、湘南がそれを活かして得点します。

後半に入っても状況は変わらず、札幌はさらに元気がなく湘南のプレスにつかまりがちになります。湘南は前線をタリク、福田、茨田らに入れ替えてプレスの強度を維持しつつ、逃げ切りを図ります。攻撃の道筋を見いだせない札幌は、終盤には大森、岡村などをターゲットにして強引にゴールに迫ろうとしますが、逃げ切りが現実的になってきた湘南のディフェンスは活性化し、前線へのボール供給もままなりません。そのまま0−1で湘南が勝利しました。

感想

札幌はリーグの中断期間中に、ルヴァン杯準々決勝で横浜FMと2ゲームを行っています。1週間前、横浜FMのホームで行われた2ゲーム目の時点でかなり体力的に厳しそうに見えましたが、このゲームでもその傾向があったように感じます。7月の新潟戦までにすっかり元気がなくなり、8月の鹿島戦から持ち直していた(暑い時期のコンサドーレとしては相当頑張ってる)ように思っていたのですが、カップ戦敗退のショックや、夏の蓄積した疲れなどもあるのでしょうか。
精神的、肉体的にコンディションが悪いと、ごまかしがきかないために、チームの苦手とする部分がそのまま露出しやすくなるでしょう。このゲームでは湘南のプレスがものすごく強かったというより、札幌の元気がなく、ビルドアップにおけるプレス耐性が低くなっている印象でした。

前半冒頭の宮澤選手は、中央を切ってくる大橋選手をピッチ外側方向を向いて背負い、右利きであることも利用して、体の左方向(湘南ゴール方向)へロングフィードを蹴っていました。これが降りてくる小柏選手や、大野選手の脇を上がっていく浅野選手へうまく使い分けて配球され、この箇所だけみると湘南のプレスに対して抵抗できていたように思います。
なのですが、それ以外に湘南の脅威になるプレーができずにいると、湘南も問題になる箇所に対応してきます。馬場選手が早めに前線に送ってしまう、荒野選手の位置が低くて高木選手のパスの選択肢になれない…といったプレーが積み重なって湘南のプレスに屈していったように見えました。深井選手が終盤に出てきたときには中央にとどまって、高木選手がそこへパスを通す場面が見られましたが、そういったプレーも全体の状況が悪ければ焼け石に水です。

ミシャ監督のすごいところは、高い位置にポジショニングするWBに象徴されるように、現場に能動的な姿勢、「強気」をもたらすことだと思います。ほとんどJ1に残留した経験のなかった2018年頃の札幌にとっては、強気こそチームに最も足りなかったものだったでしょう。メンタリティの転換によって札幌は多くのものを得てきたはずです。
湘南とのゲームを通して、攻撃をうまく作ることができず、ボールを持ったり、攻撃から逆算した動きをしよう、という前向きの姿勢が失われ、それが攻撃を迫力ないものにしていく、という悪循環があるように見えました。ビルドアップの停滞は、能力のあるなしというよりも、慢性的な攻撃のダイナミズムの停滞の結果であるように見えます。
シーズンを通して同じような形で失点が続き、対戦するチームによる札幌対策も確立してきて、カップ戦でも敗退、という状況の中、チームがしょんぼりしてきているのは否定しがたいでしょう。さすがのミシャ監督も嘆き節が増えてきていて、いろんな不利に打ち勝って、彼がチームにもたらしてきた根幹の部分、強気を維持することに苦労し始めている、という印象です。
夏場の疲れであれば時間とともに回復していくはずですが、自信喪失となると、簡単ではなさそうです。ミシャ監督が稼いでくれた時間的猶予は決して少なくないものでした。勢いのあった時期に、どれだけ本質的なクラブ力の向上をできていたか、これから問われることになるのでしょう。おわり。

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