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2024.3.2 J1第2節 サガン鳥栖 vs 北海道コンサドーレ札幌

鳥栖のホームゲームです。
札幌は開幕節でスターターだった宮澤、近藤を負傷で欠くことになりました。それぞれのポジションには中村、浅野が入っています。キーパーの高木も長期離脱が発表になりました。
鳥栖は樺山が外れ、ヴィニシウス・アラウージョが入り、マルセロ・ヒアンとの2トップを担う4-4-2に変更しています。IHの堀米は右SHに、右WGの長沼は左SHにそれぞれ変更されています。


スペース管理 vs ビルドアップの巧みさ

札幌は、第1節と同様に中盤に重心を置き、相手チームを引き込むことにトライしていたようです。札幌は中盤に1人を置く4-1-5が基本ですが、このゲームでは4−4−2で駒井と荒野が2CHを構成します。前線に小林と長谷川という中盤タイプを置くことで、ここに起点を作ろうという意図が伺えます。
札幌のボール保持と向き合う鳥栖は、マンマークを基本にしつつ、河原の周辺に曖昧さを持っている形でした。福田が荒野のマークにつき、キム・テヒョンと山崎の2CBがオフサイドラインの管理を優先する状況の中間を、河原が管理します。駒井へのマークを基本にしつつ、そこへ降りてくる小林、長谷川に状況に応じて対応するタスクを担います。

札幌が鳥栖のブロックの外側を通ろうとする場合は、基本的に鳥栖の対人マークの視界の中でのプレーになり、大きな困難が伴います。そのため札幌がビルドアップの経路を見出すためには、曖昧さのあるブロックの内側にパスコースを作り出したいところです。流動的なタスクを担う河原の負担を増大させる選択肢を作り、鳥栖がその経路を消す前にプレーする必要があります。

流動性があるのは、キム・テヒョン、山崎、河原と、小林、駒井、長谷川の3vs3ということになります。初期状態では小林と向き合うキム・テヒョンは、最終ラインを維持する役割も担っています。そのため小林が河原のエリアまで下がると、キム・テヒョンは前に出るのか残るのか、判断を迫られ、同時に河原にも、駒井と小林のどちらを消すか判断する負担が生じます。

同様に長谷川が中盤に関与すると、山崎と河原の間に曖昧さが生じます。

ただし鳥栖も札幌のプレイヤーが中盤に降りてくることは当然想定しており、その上で、河原と2CBは札幌のビルドアップとの駆け引きで上まわることができる、と判断していたのでしょう。鳥栖の中盤のスペース管理と、そのエリアを使おうとする札幌の駆け引きが、札幌のボール保持局面における両チームのプランのかみ合わせになっていました。

札幌の前にボールを晒す

鳥栖は、札幌のマンマークを動かし、その背後を狙う方法をいくつか用意していました。キーパーからのリスタートの場面では、2トップを残して全体が低い位置に構えつつ、深い位置でボールを動かします。このとき狙いは自陣でのボール保持ではなく、札幌のディフェンダーを引き出し、その背後にスペースを作ることにあります。特に両SHは意識的に札幌のSBを引き込んでいるように見えました。

こうして作り出したスペースを使うのは、主に左サイドのマルセロ・ヒアンでした。ディフェンダーから離れていくようにスペースへフィードすると、マルセロ・ヒアンに優位な状況が生まれやすくなります。疑似カウンターと呼ばれる形です。

鳥栖は、中盤からの前進手段についても、札幌のディフェンダーを動かしてから背後、という原則を運用していました。長沼がキープしてドリブルの可能性を見せることで、対面の馬場に対応させ、その背後にマルセロ・ヒアンを走らせる形です。
このとき、丸橋と河原が長沼のサポートに入り、プレーのやりなおしや、ボールを失った場合に札幌のカウンターに対処できる体勢を作っていました。一方の札幌は馬場の背後にサポートがなく、マルセロ・ヒアンが走ればゴール前から岡村を動かすこともできます。鳥栖にとってはリスクが少なく、メリットが大きい状況です。
長沼が時間を作ることで左サイド方向へ札幌のディフェンダーを引きつけ、中央や逆サイドではヴィニシウス・アラウージョや堀米、福田が動き出す。そこでディフェンダーよりも一歩早くボールに触れることができればゴール、というイメージでしょう。

深いエリアではパク・イルギュ、中盤では長沼を使って、ディフェンスを前向きにさせる手間をかけ、札幌により深いダメージを与えようという意図がうかがえます。

行き止まりの迂回路

ゲームは、札幌がボールを放棄する状況から始まります。CBやキーパーから、浅野や小林を目がけたロングフィードが送られますが、前線にその準備ができているようには見えませんでした。鳥栖としては、札幌が中央に入ってくるところでいかに食い止めるか、と想定していたところ、ファーストプレスから逃げていくような振る舞いで、拍子抜けだったのではないでしょうか。

札幌は、鳥栖のブロックの中央へパスを入れることがほとんどできていませんでした。ブロックの周囲を迂回して右SHの浅野まで到達しますが、サイドから中央へ戻すパスは河原にとって予測しやすいものです。丸橋、河原、長沼が浅野の周辺に密集を作ると、浅野に残された選択肢は自らドリブルで前へ抜けていくことに限られてきます。鳥栖がここで繰り返しボールを奪うことになりました。

札幌がビルドアップを放棄すると、鳥栖の前向きの圧力を札幌が受け続ける展開に。札幌がプレーできるのは、鳥栖がプレスに屈して自陣からの脱出に失敗した場合のショートカウンターや、そこから得たセットプレーに限られていきます。

13分、中盤で河原が拾って左サイドへ送ると、岡村のマークを逃れたマルセロ・ヒアンが独走。そのままゴールへ流し込んで鳥栖が先制します。
30分、コーナーキックの流れから鳥栖にハンドがあり、札幌がPKのチャンスを得ますが、これは失敗。1−0でハーフタイムを迎えます。

後半も流れは変わらず、札幌は劣勢のままです。54分のプレーで中村が退場になると、前線からのプレスも不可能になりました。長谷川に代わって鈴木が入ると、札幌は自陣で耐えて鈴木を走らせるのが精一杯に。鳥栖がボールを保持する流れに変化します。

60分には鳥栖の右サイドのポジションの入れ替わりについていけず、スルーパスに遅れて反応した青木がペナルティエリア内でファウル。ヴィニシウス・アラウージョが決めて鳥栖がリードを2点に広げます。
82分、前線へのパスが2度ほど裏返った場面から、右サイドで富樫がフリーで抜け出し、クロス。これを自陣方向にクリアしようとした岡村のプレーが、オウンゴールに。
94分、左サイドで横山がドリブルを繰り返し、札幌ゴール前まで運ぶと、バイタルエリアにいる原田に圧力がかかりません。札幌は無抵抗のままシュートを許し、鳥栖が4点目を挙げます。

札幌はゲームを通してパフォーマンスが低く、最後はアタッカーの正面に立つこともできないほど疲労困憊。鳥栖が危なげなく4-0で勝利しました。

感想

札幌のマンマークを操作して生まれたスペースを使う、というのはもはや古典と言っていいプランですが、第1節の札幌は中盤で我慢強くプレーすることで、背後を消す、ということができていました。このゲームでもおそらくそれを志向したのだと思いますが、まったく表現できず、スコア以上の大敗ということになってしまいました。

ゲーム前、三上GMはラジオで鳥栖戦についてコメントを求められると、前半はリスクを負って得点を取りに行き、先制できたら逃げ切るというプランを繰り返し話していました。それが離脱者などを考慮して直前に変更になったということで、チームのプランの理解度が低いままゲームに入ってしまった可能性がありそうです。

また荒野選手がコメントしていましたが、ピッチ環境の影響がありそうです。前半風下で、ロングフィードが使いづらい状況があったように見えます。サッカーボールというのはふわふわしていて、向かい風方向に浮き球を蹴るととんでもない軌道を描くもので、ピッチ外に転がっていかないだけプロ選手はとんでもなくうまいなと思いますが、それでも鳥栖にとってはブロックの裏の選択を消すような、大きな効果があったでしょう。

また、最終ラインのプレイヤーの特性については考えないわけにはいかないでしょう。田中駿汰選手、過去には高嶺選手が抜け、期待の髙尾選手も出られないなか、宮澤選手も怪我で離脱。中盤に受けられる人はいても、そこを良いタイミングで使うパサーがいないという状況があるように思います。中盤へ直接通すパスをもつ高木選手が怪我をしてしまったのも、大きそうです。

また、熊本キャンプ中のチームのコンディションもあるでしょうか。岡村選手はオウンゴールの場面含め、思うように足が伸びない、体を思うような位置に置けないような感覚があるように見えました。チーム全体に活力が足りない印象です。

このあたりがひとつひとつ裏返っていけば、もう少しできることはあるように思います。リーグには、鳥栖よりも、中盤に強力なプレッシングを備えたチームがいくつもあります。整備を急ぐ必要がありそうです。おわり。

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