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2023.10.21 J1第30節 横浜F・マリノス vs 北海道コンサドーレ札幌

横浜FMのホームゲームです。代表マッチウィークの3週間、横浜FMはルヴァン杯とACLの3ゲーム、札幌はゲームなし、と対照的な過ごし方をしてきました。
離脱者が相次いでいる横浜FMは、CBに喜田が入ります。ただし喜田のCB起用はルヴァン杯(札幌とのゲーム)で実績もあり、それほど大きな不安はなさそうです。またエウベルをベンチに置いて左WGに宮市、OHに植中が入っています。こちらはコンディション、または戦術的な都合でしょう。
札幌は宮澤、荒野などがメンバー入りせず、CHは駒井と馬場が担います。


困難なエリアで敢えてプレーする

横浜FMは、宮市をスピードアップさせ、札幌陣地に進入させることから逆算したプレーをチームで共有していたように見えます。
単純に宮市にフィードするのではなく、まず右サイドの深い位置で札幌のプレスを引きつける状況を作ります。喜田、松原がポジションを移動させながら前方を伺い、ヤン・マテウスがパスの預けどころとしてセンターライン付近に立ちます。札幌にこれらのパス経路を警戒させながら、アンデルソン・ロペスや渡辺が付近で関与して追加の選択肢を作ることで、ディフェンダーに負荷をかけていました。

宮市の加速するタイミングは、アンデルソン・ロペスや渡辺までボールが到達し、キープに入った瞬間です。宮市はこの状況を見ると素早くスタートしてマークについている田中を振り切ろうとします。パサーは宮市のランニングコースを予測してパスを出すことができるため、状況を認知しながらコースを選ぶ必要がありません。このプレーは自動化されたものになっていて、札幌のディフェンスはボールが動いてからリアクションする時間はほとんど与えられていません。遅れずに対応するためには宮市の意図を読んで先回りするしかなく、大きな困難が伴います。

横浜FMは、自陣で札幌のプレスを受けることを恐れず、アンデルソン・ロペスや渡辺までボールを届けることを繰り返しトライします。札幌が待ち構えているエリアでの攻防になるため、幾分は札幌にボールを奪い返されることは覚悟していたでしょう。それでもその選択を行うのは、ラストパスの起点を中央の高いエリアまで持ち上げることで、宮市により質の高いチャンスを与えるためでしょう。すべてのトライを成功させる必要はなく、数回の質の高いチャンスによって得点していく、というチームの意志が見えます。また、仮に失ったとしても、重心が低い状態であれば札幌のカウンターを受けずに済む、という理由もあるかも知れません。横浜FMは攻守いずれにおいても、札幌が自陣ゴールに近いエリアに人数をかけている状況を恐れていなかった、と言えると思います。

WBの仕事

札幌は、WBを起点に横浜FMゴールに近づこうとします。4バックを片方のサイドに引き寄せ、逆側のWBがフリーになって前を伺うことで、相手チームのブロックを後退させようとするのはいつもの札幌のパターンです。
特に、左サイドで菅、中村、スパチョークが関与するキープを見せたあと、右サイドでフリーになったルーカスへ一気に届ける、というサイドチェンジが頻繁に見られました。

ただし、このゲームは横浜FMが重心を低く設定したため、横浜FMは札幌のサイドチェンジをある程度許容していた、というよりも、それほど嫌がっていないようでした。スライドして対応すれば問題ない、と考えていたように見えます。
焦点はルーカスが右サイドでボールを運んだ後、札幌が何をできるかということになりますが、札幌の選択肢はおよそ2つに限られていたように見えました。縦に運びながらキーパーとディフェンスラインの間へクロスを送るか、逆サイドの菅へ再び長いボールを届ける、という2つです。

キーパーの前のエリアは、横浜FMが最も警戒するところで、札幌は小柏、浅野、スパチョークと人数を揃えていると言っても、ディフェンスの備えのあるところでは簡単にプレーすることはできません。蹴られたクロスのコースにリアクションする状況では、ディフェンスの意図の裏をかくような駆け引きや、加速やジャンプ力で優位に立つような余地もほとんどなく、ボール保持側とはいえシュートまで持ち込むための優位性は、ディフェンスに対して特に大きくありません。
逆サイドの菅へ到達した場合は、攻撃がやりなおしになるか、遠い位置からのシュートでとりあえず攻撃を完結させる、ということになります。
いずれにしても横浜FMのディフェンスにとっては、背後さえ明け渡さなければ、意外なことはそれほど起こらない状況と言えます。

守備を前後左右に分断するはずが…

ゲームは、両チームの思惑通り横浜FM陣地で展開します。
横浜FMは低いエリアで、札幌はブロックの周囲のエリアで保持する違いはありつつ、互いのディフェンスも機能していて拮抗した状況が生まれます。横浜FMの縦パスはアンデルソン・ロペスや植中のポストプレーを岡村と馬場が阻み、高い位置で再び攻撃へ移行します。札幌は混雑したゴール前で時折シュートまで持ち込みますが、ディフェンスを破綻させるような決定機を作ることはできません。

19分、横浜FMが均衡を破って先制します。
横浜FMのバイタルエリアでスパチョークと駒井のパス交換が乱れ、アンデルソン・ロペスがこぼれ球に反応します。アンデルソン・ロペスはスパチョークと競り合いながらボールをスペースへ置いて確保し、前線へスルーパスを送ります。宮市がスピードを上げながらこのボールに追いつき、そのままゴールへ流し込みました。
アンデルソン・ロペスはここまでの時間、岡村に阻まれてなかなかボールを扱うことができていませんでしたが、この場面は札幌の攻撃機会で、岡村が反応できない位置でプレーすることができました。回数は多くないものの、宮市が大きな空間を得た状態でGKと1vs1、という質の高い決定機を生み出し、それを確実に得点にします。

アドバンテージを得た横浜FMはさらに落ち着いて、自陣に札幌を引き込んで耐えながら、機をみてポゼッションへ移行するスタイルで時間を進めて行きます。横浜FM陣内で有効な攻撃ができない札幌は、次第にサイドチェンジの時間をかけずに、カウンターで直線的にゴールを目指す傾向を強めます。札幌陣内で得たボールを前線へ送って、何度か浅野や小柏がロングカウンターのチャンスを迎えますが、決めきることができません。1-0で横浜FMリードでハーフタイムを迎えます。

後半も同様の傾向で時間が過ぎていきます。札幌の攻撃はさらにトーンダウンし、ボールを得てもあまり可能性のないクリア気味のフィードで、ボールを捨てるようになっていきます。ディフェンス面では、アンデルソン・ロペスや植中が簡単にポストプレーをさせず、中盤の山根や渡辺を経由しようとするプレーにも圧力をかけ続けてなんとか耐えている、という時間が続きます。

60分を過ぎると、両チーム交代を実施。横浜FMはアンデルソン・ロペス、永戸、宮市、實藤を下げ、西村、吉雄、杉本、エウベルが入り、杉本の1トップへ移行します。札幌は小柏に代えて小林を入れ、2トップに変更。
杉本は岡村との駆け引きで優位に立って、ロングフィードを収めてチームをボール保持へ移行させる場面を増やしました。一方の札幌は、中央にポジショニングする小林を使うことができず、攻撃が活性化しません。ゲームは横浜FMのペースになり、札幌が耐える構図が鮮明になっていきます。

84分、横浜FMが追加点を挙げます。
杉本が中盤でボールを収めた状況から、ヤン・マテウスが右サイドを持ち上がり、クロス。ゴールからやや遠い位置にいた杉本に渡り、シュートします。ミスキックになったボレーがループシュートのようになり、これがゴールになりました。

その後ゲームは両チームやや集中力を欠いて、ゴールラッシュになります。
90分には札幌のビルドアップをカットした場面から、ゴール前まで一気に到達したエウベルが岡村との1on1を制してゴール。92分には横浜FMゴール前の混戦から田中が押し込んでゴール。96分には札幌が前を急いだフィードを横浜FMが回収、杉本とヤン・マテウスのパス交換から逆サイドのエウベルに展開すると、ゴール前にフリーで飛び込んだ植中に送り、ゴール。
最終的には4-1で横浜FMが勝利しました。

感想

札幌のピッチを幅広く使うWBの配置や、ダイナミックにボールを移動させる攻撃は、本来相手チームのディフェンスを左右に広げ、中央に隙間を生じる圧力を与えることにあるはずです。なのですが、札幌の持つボールがブロックを超えて移動するだけで、札幌がゴールに近づいている感じがしない、という状況が起こります。その理由は、中央に脅威を作ることができていないことにあるように思います。

横浜FMのディフェンス陣は、怪我人が多く万全でないにも関わらず、非常に規律がありました。札幌に素早くゴール前まで持ち込まれた状況でも、ルーカス選手が右足に持ち替えてシュートしようかという時間で、ディフェンス間の横の並びを整え、シュートコースを限定したり、こぼれ球への反応を高めていました。(勝敗がほぼ決していた時間帯の田中選手のゴールシーンだけは、ボールに寄りすぎてサボってしまったなという印象がありましたが)
このレベルのディフェンスからゴールを陥れるには、素早くゴールに向かうだけではダメで、ディフェンスを本来いたくない場所にまで連れ出す必要がある、ということだと思います。最近の札幌は、ディフェンダーが常に監視していなければならないプレイヤーをゴール前に置くことができておらず、そのためディフェンスは、札幌がサイドで何をしてくるか、その状況に集中できる状況にあります。サイド攻撃のクオリティは高いのかも知れませんが、ディフェンスも迷わずにそれに対抗できるという構図ができてしまうと、なかなか正面からそれを突破するのは難しくなります。

少し脇道に逸れますが、横浜FMは、アンジェ・ポステコグルー監督時代と比べて、明らかに低重心かつ速攻重視になってきているようです。そしてJリーグ全体として、横浜FMのように贅沢なスカッドを保有するチームが、有能な人たちに守備を頑張らせ、中途半端なポゼッション重視のチームの攻撃を無効化した上で少ないチャンスをクオリティで奪いきる、という方法で上位を占める傾向強くなっているように見えます。今シーズンの川崎が中位にいるのも、このリーグの傾向にどう適応できたか、という視点で考えることができるように思います。
このゲームもその典型に当てはまると思いますが、アンデルソン・ロペス選手は組み立ての仕事が多くなっていて、ゴールを決める能力を発揮できる場面はあまり多くありません。しかし、決定力みたいな能力があるとすれば、アンデルソン・ロペス選手のようなプレイヤーを保有できることが、保有できないクラブに対して、やはり大きなアドバンテージになるということです。

だからこそ横浜FMは、札幌のプレスを受けてもピッチの中央を使いつづけ、ボールが出てくる機会に対して前線が準備しつづけています。低重心になったとはいえそこはさすが横浜FMで、中盤でマークを背負っていても逃げないし、ときどき札幌が隙を見せれば、そこを正確に使う技量があります。このゲーム、札幌がトーンダウンしていったのは、それをピッチ上で見せつけられ続けていたからでしょう。

中央を迂回する札幌の傾向は、これと対極的です。サイドチェンジ、カウンター、クロスというのはいずれも、ロングフィードからセカンドボールを狙う類いの、直線的にゴールを目指すプレーだと思います。
圧力を受けている状況でも、キープしたり、パスコースを作るチームとしての能力が高ければ、ディフェンスが隙を見せるまで待てるのですが、そこに自信がなければゴール方向に向けて急いでしまう、ということだと思います。横浜FMは自陣で札幌の攻撃を受け止めながら隙を伺って、実際に守り切って少ないチャンスでゴールします。Jリーグのトップとは差があるんだな、と感じるゲームになりました。

ところで、Jリーグがトランジションを重視し、パスワークを潰し合うようなリーグになってきているとして、それはそれでちゃんと見たいと思うわけですが、中継はなんとかそれを映してもらいたいなと思います。枠外シュートのリプレイで次の展開が見えないことがかなりあって、見せどころが配信に乗ってないというのはもったいないなと思います。おわり。

(32節終了後に、書きかけのレビューに手を加えて公開)

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