2023.11.25 J1第33節 FC東京 vs 北海道コンサドーレ札幌
FC東京のホームゲームです。
札幌は、馬場が出場停止。ルーカスもメンバー外となり、右WGには浅野が入ります。また小柏が復帰して1トップに。最近トップを担っていた駒井は2列目の右に移動です。GKには久々に高木ではなく菅野が入っています。
FC東京は、エンリケ・トレヴィサンと松木が出場停止、バングーナガンデ佳史扶が負傷で離脱しました。出場できないメンバーの影響を受けていそうなポジションはそれぞれ、左SB徳元、CB木本、OH渡邊がスターターを担います。
中盤の不確実性
FC東京は、前線のディエゴ・オリヴェイラ、アダイウトン、仲川に対面の札幌ディフェンスを崩すプレーを期待し、そこまでいかにボールを届けるか、という視点でゲームに臨んでいたように見えました。森重、木本、小泉が低い位置でボールキープをしながら、一気に前線へ進む経路を見つけようとします。
前線まで到達する経路を創出するためのアイディアは、中盤に不確実性を作り、札幌のマークを混乱させようというものでした。長友が内側やや高い位置へ移動し、札幌のマークを引っ張ります。このサイドのスペースへ木本が進出することで、キックに必要な時間を稼いだり、渡邊や仲川がそこでパスを受けるプレーを可能にしようとします。
混乱させた中盤を持ち上がる役割を担うのは渡邊です。ボールを得るとドリブルで札幌のディフェンスの注意を引きつけながら、前線のアタッカーが動き出しを見定めて、ラストパスを送ります。右サイドでは仲川やディエゴ・オリヴェイラを走らせるパスを狙う一方、アダイウトンが左サイドにポジショニングして、別のエリアで詰まった場合の回避先として構えています。アダイウトンは長いパスでボールを得たところから、個人で左サイドを打開するようにプレーします。
ゲームの構図は、札幌が、前線のアタッカーを加速させようとするFC東京とどのエリアで向き合おうとするかに委ねられることになります。札幌には選択肢があり、攻撃の起点に圧力をかけてボールを捨てさせる、中盤を進もうとするドリブルを狙って奪い返す、ゴール前のスペースを埋めて迎撃する、などが可能です。
アタッカーの温存、あるいはディフェンスの孤立
ゲームは、両チームの中盤の密度が低く、前に残った前線のプレイヤーが互いにカウンターを仕掛ける展開で始まります。
札幌は、FC東京のアイディアをコピーしたように振る舞っていました。小柏、駒井、浅野が前線に留まりがちになり、中盤でボールを得ると、一気に加速してFC東京のディフェンスを脅かそうとします。後方のプレイヤーは離れていく前線をサポートすることが難しく、また次のカウンターに備えてゴール前を離れづらい、という循環で、チームは前後に分断し、中盤の密度が低い状況が生まれます。
前半を通して、両チームとも自らのディフェンスラインを孤立させながら直線的な攻撃を続けますが、なかなか決まりません。人数の関係ではディフェンスにとって難しい状況と見えやすいものの、ほとんどが直線的にゴールに向かう攻撃で、キーパーやディフェンダーにとっては攻撃の経路を予測しやすい面があったでしょう。両チームカウンターを耐え続ける時間が続きます。
41分、ディエゴ・オリヴェイラが先制に成功。FC東京が1点リードでハーフタイムを迎えます。
前線を削って中盤を厚くする
札幌は後半から、菅と福森に代えてスパチョークと中村が入ります。駒井を左FW、スパチョークをその背後に置く3−4−1−2に変更。青木は1列下がって左WGになりました。
札幌の変更は、中盤を厚くする効果がありました。左サイドの端にキープ力のある青木を置きつつ、スパチョークは中盤でパスの受け手として振る舞います。
スパチョークが中盤でボールをキープすると、駒井と青木が裏抜けを狙ってスルーパスの選択肢をつくります。またスパチョークの後方には中村がポジションをとって、ブロックの外側からドリブル、サイドチェンジなどを狙います。札幌は、FC東京が長友を押し上げてスペースを作ろうとした右サイドで、スパチョークを中心にした攻撃の体勢を作り、圧力を強めます。
後半の札幌は、速攻ばかりだった前半とは違い、時間をかけた攻撃を行うように変化しました。特にキーパーからのリスタートの場面で時間をかけて、FC東京を帰陣させようとします。
このときスパチョークが、FC東京のブロックの内側でパスの選択肢になっていることは重要でした。FC東京のブロックの内側、外側にパス経路を複数つくり、圧力の少ないエリアへ選んでボールを移動させる時間をつくります。
札幌の変化は、ゲームの構図に対して、FC東京の前線のアタッカーのプレー位置を下げ、中盤の密度を高める効果を与えました。4-4-2のブロックに加わったディエゴ・オリヴェイラ、アダイウトン、仲川は本来仕事をしたいエリアから遠ざけられ、渡邊はドリブルで運ぶためのスペースが得られません。
札幌を押し戻しす必要があるFC東京ですが、そのための手段が見つかりません。
中盤の密度が高くなり、前半のようにドリブルで運んだり、自由なキックモーションに入るためのスペースが消えても、森重、木本、小泉は、前半のようにボールを動かしながらタイミングをみて渡邊へ、あるいは前線へ直接パスを出そうとします。しかしパスの受け手が札幌のマークを背負っていて、前半のようにプレーできません。最終的には、時間や空間を作るプレーを経由しないまま、ディフェンスを背負った状態のディエゴ・オリヴェイラやアダイウトンになんとかしてもらおう、というパスが送られますが、札幌のディフェンスが待ち構えている状況ではさすがに成功しません。
FC東京が自陣で札幌の攻撃を受け止める状況が長くなりはじめてまもなく、札幌が連続得点で逆転します。51分には浅野、57分には小柏へ、左サイドからFC東京のブロックへ進入した中村が、ディフェンスラインの裏へ斜めのパスを送り、先に動き出した札幌のFWが追いついてダイレクトでゴールに流し込みました。
リードした札幌は、今度は後ろに重心を移していきます。攻撃をスピードアップするための前方のスペースを失ったFC東京は、中盤でボールを持たされた状況になります。ポゼッションから利益を得たいところですが、5バック化した札幌のマークを動揺させることができません。むしろカウンターの機会を伺う札幌に対し、後方に大きなスペースを晒していることによるリスクが大きくなります。
91分、札幌陣内深い位置から戻ってきたボールを、ハーフウェーライン付近でクリアしきれず。途中出場の大森がキーパーの野澤を超えるロングシュートで得点。ゲームを決定づけます。そのまま1−3で札幌が勝利しました。
感想
FC東京には高給取りの人が多いイメージがありますが、前線にかかっている金額はどれくらいなんでしょうか。前半は中盤が省略され、アタッカー vs ディフェンスラインのぶつかり合いを見せるショーのようになっていたので、お金のかかっているFC東京のアタッカーにやられてしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤでした。もっと差が開いていてもおかしくなかったところ、なんとか1点で凌ぐことができたので、後半に挽回するチャンスが残ったと思います。
後半はFC東京が嫌な位置でプレーする、FC東京をいたい場所から遠ざける、という意味で札幌がゲームをコントロールした、という表現がふさわしい内容だったんじゃないでしょうか。
駒井選手が左FWになって裏抜けを狙いつつ、宮澤選手がブロックの外に立ってパスを出し入れすることで、FC東京を自陣深い位置に閉じ込めます。また菅野選手がボールを足下に置いて、立ち位置を整える時間を作っていたのも効果的でした。さらにその状況へ中村選手が突っ込んでいく意外性から、得点が生まれています。
逆転してからも前を急ぎすぎずに、札幌が確実にボールを保持できそうなタイミングでWBが上がっていく様子も見えました。うまく押し戻し、ゲームのテンションを下げられたということだと思います。もっと早い時間からこれをできたら、前半のようにお金のあるクラブに優位な展開を許さずに済みそうなので、期待したいです。
FC東京は苦しそうです。速攻だけじゃなく、ポゼッションして相手を動かすこともしなければ、という意識で取り組んでいる感じでしょうか。長らくそういうスタイルではなかったでしょうから、チームの現状とのギャップが大きくて大変そうです。
札幌としては、問題を抱えているチームに対してしっかり勝っていくことが重要で、それができたのはひとまずよかったと思いますが、程度の差でしかなく、あまり他人ごととも思えません。この日のFC東京を、怖いのは中途半端な高さからのショートカウンターなので、遅い攻撃をしてゴールから遠ざけたり、自陣に構えてポゼッションさせておけばあまり脅威はない、と表現してみると、上位チームに対して札幌が置かれている状況にもそのまま当てはまりそうです。やっぱり基礎力がないと、リーグの中での地位を安定させるのは難しいんだなと実感します。おわり。
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