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2024.6.15 J1第18節 京都サンガF.C. vs 北海道コンサドーレ札幌

京都のホームゲームです。
京都は左CBの麻田がメンバー外。同ポジションに鈴木が入っています。その他は前節と同じスターターです。
札幌はスパチョーク、菅が怪我の影響で新たにメンバー外になりました。左WBには田中宏武、2列目右には小林が入ります。また右CBは西野で、馬場を1列前に置いています。


行き着く先は同じ

このゲームは、京都はよりダイレクトに、札幌はより手数をかけるという点で違いはありましたが、いずれのチームもサイドチェンジからゴールに迫る狙いを持っていました。京都の振る舞いから見ていきます。

リスタートの場面の京都は、前線の原へのフィードを行い、札幌に自陣でのプレスの機会を与えません。札幌は、近藤と田中を低い位置に下げた5−2−3の配置で対抗します。

京都は、原の競り合いの状況を左サイドに設定していました。セカンドボールを回収して金子や平戸が時間を作り、右サイドへ展開します。展開先には川崎、豊川、福田など運動量に特徴のあるプレイヤーが待っており、札幌のディフェンダーから遠ざかるプレーで前進を試みます。

右サイド深いエリアまで到達すると、ディフェンダーの背後へグラウンダーのクロスを送ります。逆サイドの松田がシュートを狙いつつ、やや低い位置では原や豊川がセカンドボールを狙います。

一方の札幌は、京都のプレスを引き込むことを厭わず、重心の低い状態からプレーをスタートします。京都は4-1-2-3の配置のまま、高い位置で札幌と向き合います。原に松田と豊川を加えた3人が札幌の最終ライン+GKと3vs3で対峙しつつ、平戸と川崎は中盤を管理する役割を担います。
京都のプレスはGKまで追う積極的なもので、後方では4バックと札幌の前線5人が向き合う状況が生まれます。札幌はこの4vs5の関係を活用して、京都に後退を強いることを狙っていたようです。

札幌はプレスに出ようとする京都の背後に圧力を作るために、鈴木へのフィードを使います。鈴木は左サイドに流れてポストプレーを行い、高さのない宮本とのマッチアップを作ります。荒野がその背後をサポートする動きもセットになっており、セカンドボールを確保してから逆サイドの近藤を使って前進する狙いが見えました。

近藤へのサイドチェンジから前進に成功すると、逆サイドの田中へもう一度サイドチェンジを行います。田中はカットイン方向へのドリブルや縦突破で京都のブロックを引きつける時間を作ってから、ファーサイドへクロス。ターゲットは中央の鈴木よりも、逆サイドの近藤でした。佐藤の背後からゴール方向へ飛び出すことで、ディフェンダーの圧力を逃れてフィニッシュまで持ち込もうとします。

ファーサイドへのクロスでゴールを仕留めようとする両チームですが、京都は札幌のプレスの局面を省略した前進を志向し、札幌は京都のプレスの局面から始める、という意味では対照的でした。京都が札幌にボールを返しながらプレーすることで利益を得るか、札幌が京都のプレーエリアの管理を上まわってゴール前に到達するか。札幌のボールプレーと京都のプレスの強度の力関係が、ゲームの行方を左右しそうです。

WBの移動に必要な時間

ゲームはロングフィードの応酬で始まります。京都は原、札幌は鈴木をターゲットにして前進を図りますが、ペースをつかんだのは京都でした。セカンドボールの奪い合いにはそれほど差はなかったものの、京都が中盤の川崎、平戸、金子のプレーで時間を作ってから右サイドの豊川や福田を走らせようとする一方、札幌は前線の鈴木への単純なフィードに終始し、前進が安定しません。札幌は次第に後ろ重心になっていきました。

札幌の問題はWBの位置にありました。セカンドボール回収時の近藤、田中は、5バックを形成するために自陣深い位置にポジションをとっており、前線まで距離があります。イーブンなボールを回収できたとしても、すぐに鈴木目がけて蹴ってしまうと、近藤や田中が前線まで移動する時間がありません。京都の4バックに対して札幌の5バック、という構図は生まれず、鈴木や小林が前線で孤立します。一方の京都は攻撃時も守備時も4-1-2-3の配置が基本で、大きな変形を必要としていません。この差が序盤のゲームの趨勢を決定づけていました。

京都ペースが続いた16分、京都が先制します。
京都は左サイド深い位置の原へフィード。原が落としたボールを、平戸が馬場を背負いつつ確保し、さらにサポートに入った金子へ落とします。前向きでボールをコントロールした金子は右サイドの福田へ大きく展開し、そこから川崎、平戸を経由して福田へスルーパスが通ります。駒井と田中のマークが中途半端になり、フリーになった福田はゴール前の状況を確認しながらクロス。逆サイドの松田が西野の背後から反応し、押し込みました。1−0とします。

19分、京都が追加点を挙げます。
札幌のリスタートの場面から菅野が岡村へのショートパス、岡村は中央の荒野へつなぎます。荒野が京都のディフェンスの背後に抜けたかに思われましたが、荒野はここでバックパスを選択。札幌は岡村、菅野、馬場とパスをつなぎながら広いエリアへ逃れようとしますが、それぞれ原、豊川、松田の圧力を受けており、馬場のトラップが乱れたところを松田が詰めてルーズボールに。これを豊川が蹴り込んで2−0とします。

ビハインドの札幌は、駒井を中盤に下げてビルドアップの改善を図ります。駒井のターン、ドリブルで時間をつくってから、対角の近藤へのフィードを狙うようになりました。リードした京都が最終ラインへのプレスを弱めた影響もあり、札幌はこの時間になってようやく前進ができるようになります。

札幌は近藤のサイドから前進すると、逆サイドへ展開。京都のブロックを左右に動かしてから、田中のクロスボールで再び近藤へ戻してシュート、というパターンでゴールを目指します。近藤は数度チャンスを迎えますが、京都のブロックを飛び越える長距離パスを何度も正確に通すことは難しく、決定機を多く作るには至りません。2−0でハーフタイムを迎えます。

札幌は後半から西野に代えて長谷川。馬場と駒井をそれぞれ1列下げ、2列目の右に長谷川、左に小林を置く配置に変更します。

後半の札幌は、右サイドからの前進を活性化させました。長谷川が馬場、近藤とパスを交換しながら京都の守備網の内側でボールをコントロールしたり、自身の裏抜けによってチームを前進させます。しかし、48分に田中のクロスから近藤が迎えた決定機をク・ソンユンがセーブすると、これが最大のチャンスに。京都が浮き球のフィードを使って札幌の攻撃の開始地点を押し下げ、セカンドボールの奪い合いからファウルを得て時間を進めると、札幌の攻撃は次第にトーンダウンしていきました。

京都はゲーム終盤には平戸に代えてアピアタウィア久を入れ、5バックへ移行。札幌は荒野に代えて家泉を入れ、パワープレーに訴えようとしますが大きなチャンスを作ることはできず。危なげなく京都がリードを守り、2−0で勝利しました。

感想

札幌の2失点目は、非常に印象的でした。
菅野選手、岡村選手と渡ったボールは、豊川選手の背中側に立つ荒野選手まで到達し、京都のディフェンスの1列目(原選手、豊川選手、松田選手)を超えたかに見えました。本来中盤を管理する役目の平戸選手と川崎選手も、西野選手と中村選手が気になっていたのか、荒野選手を捉えられるようなポジションにはいません。あとはターンすれば、荒野選手の前には数歩、数秒プレーするためのスペースが広がっているはずでした。

しかし荒野選手が選択したのは、岡村選手へのバックパス。これで、原選手、豊川選手、松田選手の前までボールが戻ってしまいます。ボールが岡村選手、菅野選手、馬場選手と渡る過程で札幌の最終ラインは追い詰められ、馬場選手がボールをトラップする頃には松田選手に捉えられてしまいました。
この失点の原因として「札幌のビルドアップにミス」があるのだとすれば、馬場選手のトラップではなく、荒野選手のバックパスの判断がそれに当たると思います。

札幌のボール保持の基本形4-1-5の中央を担うプレイヤーが、ビルドアップの過程でパスコースを提供できない、というのはこのゲームに始まったことではなく、ペトロヴィッチ監督がこの形を採用して以来ずっと、慢性的なものです。ですからこの失点場面がミスかという問いに対して、残念ながら札幌の標準的な状態だと言わなければならない、とも思います。

かつて札幌の最後方には、守備網の反対側まで一気に届くキックを持つ福森選手や、キープに長けた田中駿汰選手がいて、こういった問題を覆い隠していた面があります。金子選手がいた頃(といっても去年の今頃まで)は、センターライン付近にいる金子選手まで届けさえすれば、強力なドリブルで相手チームのブロックを押し下げてもらうこともできました。
それでもやはり、中央を経由するパスの選択肢がない問題は当時の札幌にも重荷であって、ある程度以上のプレスの強度を持ったチームに対しては、自陣でボールを失わないまでも、前方へ向けてボールを捨てるようなことになってしまい、そこから勝ち点を失うゲームが多くありました。

この問題は、札幌が抱える戦略的矛盾のひとつの現れでしょう。矛盾というのは、WBが高い位置にあることを前提にチームが設計されているにもかかわらず、WBを高い位置に置くための時間を稼ぐ手段を持っていない、というものです。
このゲームの序盤のようにWBが低いポジションで京都のロングフィードに備えているとき、あるいは今シーズン試みられているように、後ろに人数を余らせてスペースを消すことで相手チームの攻撃を受け止め、奪い返すことに成功したときなど、後ろに重心がある状況から攻撃時の陣形を回復するためには、時間が必要になります。
このゲームであれば近藤選手、田中選手が京都のバックラインを脅かす、というアイディアを表現するために、後方の5人によって前線まで安全にボールを運ぶ機能が必要ということですが、札幌はそれをロングフィードとダッシュに依存しており、パスワークによって時間を生み出すことはあまり得意としていません。もちろん、その不足を補う形で、サイドチェンジを使ってブロックの外側を進んでいくような妥協案が採用されてきたのでしょう。

荒野選手や駒井選手のように、ディフェンス時に相手の中盤の選手を追い回し、体をぶつけ合いながらセカンドボールを回収し、そこから持ち上がり、相手ゴール前にも関与するようなバイタリティとアジリティの持ち主は、そうそういません。ビルドアップまで求めるのは酷、という話もあるかも知れません。
しかしそれは、5バックに参加しながら、走ってロングフィードのターゲットとなって自らのポジションをチームごと持ち上げ、サイドバックと駆け引きし、クロスに合わせてゴールする、という恐ろしいほど多重のタスクを近藤選手に強いることでもあります。中央を迂回したとしても、サイドチェンジによる前進の代償は結局チームとして支払わなければなりません。近藤選手はゴール前の状況に専念すれば、もっと仕事ができると思います。

失点場面は、陣形を整えるための時間稼ぎを必要としない、リスタートの場面から生まれています。中盤のスペースを使って前進することは元々苦手としてきたプレーではあるものの、さすがにここまで正直にゴール前に閉じ込められる場面は、過去には多くなかったと思います。周囲が騒がしくなっている現状で、チームが自身に対してあまりにもプレッシャーをかけすぎているのか、覆い隠していたものの不在が目立ってしまっているように見えます。
本当はこの問題を覆い隠せる力を持っている個人が在籍している時期に、戦略的矛盾を解消するための準備をしておくべきだったのでしょう。残念ながら時間切れとなり、ビルドアップを急に整備できるわけでもなく、WBを引っ込めても代替の戦術があるわけでもない、ジレンマに陥ってしまいました。リーグの残り半分、残留を目指すということで、局面を一人で変えられる個人を連れてくるのか、あるいはチームとして問題を覆い隠す策を作り出すのか。札幌がどう振る舞っていくのか、注目したいと思います。おわり。

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