それは突然やってきた③

 いつも通りの朝がきた。
 いつも通り、母とラジオ体操を済ませ、母と朝食をとった。いつもと違うのは二人に会話はなかったことくらい。

 父を起こしに行くといつも通りシャツとズボンは濡れている。夜の間、オムツの中に手をいれて掻いたりするので、尿のがオムツの中にうまく収まらないのだ。もちろん、尿の多さもあるけれど。

 父は、すでに起きていて、右手でベッドの手すりを握ってみたり、さすったりしてぼんやりしている。これもいつも通り。
 「おはよう」と声をかけると「おはよう」と答える。
 
 「俺は、青海の風(施設の名前・仮称)に行くんか?」

 父はすでにわかっていた。
 私は父の着替えを済ませ、ベッドに腰掛けさせてからゆっくりと話した。
これからは青海の風がお家になること。ショートステイではないこと。もうお家に帰ってこれないこと。母一人では父の面倒が見られないこと。私は働かなくてはいけないこと。でも会いにはいくこと。
 
 「ええよ、かまへん、行くよ」
 父はあっさりと答えた。私は涙が止まらなかった。

 この期に及んで、私は『THE-W』の準決勝があったので東京に戻らなければならなかったので、手続きとか契約は姉がやってくれ、これからの緊急連絡先も姉が引き受けてくれた。

 あれよあれよという間に手続きが進み父は入所した。
「面会してきたけど元気そうにしていたよ」電話で言った母の声はどことなく寂し気だった。

 あれから私はまだ父に会っていない。




 

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