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豊岡のお坊さん

豊岡演劇祭ストリート、初めての参加でした。
旧豊岡市役所前で各日バーバラビット二回ずつ、閉会セレモニーの後、旧市役所内の稽古堂にてかたわれ。
再会や出会いが沢山ありました。

初日の夜、夕ご飯を買いにナイトマーケットに行ったらどこも売り切れで、ひもじい思いですぐ向かい側にあった焼肉屋さんで牛丼のテイクアウトを頼んだ。
牛丼を待っていると
「ちょっと一杯飲ませてやー。チューハイ。」
と勢いよく入ってきたカジュアルお洒落なおじ様。
「なんかそこで大道芸やってたからちょっと観て1000円入れてきたわー。演劇祭いうて、どこ行って何見たらいいか分からんね」
「そうなのよねえ、観てみたいけどねえ」と焼肉屋の女将さん。

「分かんないですよね、私も大道芸で来たんですけどよくわからなくて」
思わず言うと
「おおお姉さんも大道芸で来たんか!」
「明日もやります、そこで」
市役所前を指差す。
「明日はなあ、豊岡市内はみんな、運動会なんよ」
「大道芸は夜やりますよ」
「夜はなあ、大人は慰労会なんよ。」
「そうですか、残念。また来ますね。」
(運動会に慰労会かあ…明日はお客さん少なめかしら)と思いながら出来立ての牛丼と共に席を立とうとすると、
「ちょっと一杯飲んでいかんか。綺麗な女の子のいるとこ。すぐそこや。」
カジュアルおじ様はお坊さんだと言い、今日は吉祥寺に行って来たそうな。
面白そうなので着いて行ってみると、フィリピン人の美人ママさんが一人でやっているカラオケスナックだった。
「腹減っとるんやな。ここ豆腐しかないから、ママ、豆腐出したって。牛丼もほら、ここで食べたらええ。何飲むか?」
ウーロンハイをもらってカウンターで牛丼を食べていると焼肉屋のマスターもやってきた。
「坊主なんてな、変わりもんばっかなんや。わしもそうや。」
「ああ、そう言えば私、昔ゴールデン街で会ったお坊さんに呼ばれて栃尾のお寺の法会の時にショーやりました」
「そういうのええな!檀家さんも坊主の話なんか聴くより喜ぶかもしれんな!」
カジュアルな坊さんは嬉しそうに笑って、
「ほらほら、このお姉さん東京から演劇祭に来たんやて。市役所のとこで大道芸やってるんと!」
とカウンターの皆さんに私を紹介した。

「わしはなあ、豊岡の飲み屋が吉祥寺の、ほれ、なんやったっけ…」
「ハモニカ横丁ですかね」
「そう!ハモニカ横丁みたいになったらええなあと思ってるんや。飲みに来たら色んな人がおって、あんたみたいな芸能人もおって」
「芸能人じゃないです、芸人です。能がないほう。」
「ははは。飲みに来たらあんたみたいな芸人もおってさ、色んな話したら楽しいやん。豊岡がそんな風になったらええなあと思って、だから平田オリザさんを応援しとるんや。
…演劇祭はな、チラシ見てもどこ行ったらいいかよう分からんけどな!」

私も、雑多な人が集う酒場が色んなところにあったらいいなと思う。
例えば私はとてもしんどい時、ゴールデン街に救われた。たまたま隣り合わせた見知らぬ人とのなんでもない会話やら、ひとときの意気投合やら、喧嘩やら、聞こえてくる他愛もない会話やら、諍いやら笑いやら濃すぎるウーロンハイやら、そんなものたちに救われた。

「歌わんの?あ、でも疲れとるやろうから好きな時に帰り。」

ママさんの達者なコブクロの後に中島みゆきの「永久欠番」を歌った。3年ぶりくらいのカラオケだった。

ひとは永久欠番。

「ちょっと、帰る前にな、パントマイム?ちょっとだけ見せてくれんかなあ」

飲みの席での「ちょっとパントマイム見せて」は基本的に割と苦手なのだけど、なんだか不思議と嫌な気がしなくて、少しだけ壁をやった。
「おおお、すごいなすごいな!」
お坊さんがおひねりをくれた。
「気をつけてな。次来たら、宿なかったらうちの寺に泊まったらええよ。広いからな。」

ほろ酔いで永久欠番を口ずさみながら静かな夜道を歩いてホテルまで戻った。
来てよかったな、と思った。

30年ぶりに再会した平田オリザさん、杉山至さんと。

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