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ブックレビュー 【これは水です】

デヴィッド・フォスター・ウォレス(1962~2008)

原題 『THIS IS WATER』

この本は、2005年アメリカケニオン大学の卒業式にてデヴィッド・フォスター・ウォレスのスピーチ(祝辞)を書籍化したものである。

アメリカの大学では卒業式に著名人を招きスピーチをしてもらうというのが伝統的にあり、同年2005年スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチは有名だろう。
どちらも素晴らしいスピーチではあるが、2010年のタイム誌では「最も素晴らしい卒業式スピーチ」としてこのデヴィッド・フォスター・ウォレスを選んでいる。

つまりこの本は書いたものではなく、口頭でのスピーチを文字起こししたものだ。
なので卒業式という門出を迎えた人たちへのメッセージとなっている。

メッセージの伝え方

内容としては、リベラル・アーツ(本書では人を自由にする学問と訳している)を軸に、ものの考え方、何を選ぶかということを「初期設定」という概念を用いて展開していく。
このメッセージに関しては私が説明するよりぜひ原文を読んでいただきたい。

私が今回特筆したいのは、このメッセージの伝え方というか姿勢である。
全体を通して感じるのは説教臭くない、押しつけがましくないという点であった。


念のために言っておきますが、
僕はあなたがたに
訓戒を垂れようなんて思っていません。
こう考えるべきだなどと
教えようとしているわけでもない。

『これは水です』 p.97



こんな優しい姿勢を持ちながら、時に「どうでもいい修辞をすべて取り払った裸の真実です」と、厳しい視点で自己中心的になりがちな初期設定の中で君たちは何を選ぶのかと説く。
それでありながら「当然のことながら、あなたがたはお好きなようにどうとでも考えることができます」と締める。

こんなメッセージの伝え方にしびれてしまいました。

訳者解説

そして巻末には訳者である阿部重夫氏の「訳者解説」が載っており、これがまた素晴らしい。
正直スピーチだけならYouTubeなどの動画で見ることも、音声だけを聞くこともできるが、この解説を読むために本として残す価値はあると思う。

本のあとがきや解説が好きっていう個人的な趣向もあるんですけど。




最後まで読んでくださりありがとうございます。サポートいただいたお気持ちは、今後の創作活動の糧にさせていただきます。