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孤舟《こしゅう》

今の舟にはエンジンが当たり前
昔は、長い櫓《ろ》で漕いでいた
小さい頃、教えてもらった漕ぎ方
船端にある「ヘソ」に
櫓の穴を載せ
手元のハンドルと舟を
ロープでつなぐ

5メートルはあろうかという
長い櫓
櫓先が8の字を描くように
手首を返して漕ぐと
舟は前に進む

押す時に強くすると
舟は右に
強く引くと左に進む

広い海の上
船の向きは大きな弧を描いて曲がる
真っ直ぐ進むときも
船首は少しだけ左右に揺れる

裸足になって船底をしっかり踏ん張って漕ぐと
スイスイ スイスイ
滑るように走る

もう半世紀もの間
舟を漕いではいないけど
体で覚えたことは
今でも忘れてはいまい

自転車と同じ
体で覚えた技は
みんなそうだという

体で覚えるまで
稽古を積むのだ

職人さんたちの技は
例えば針仕事でも
毎日毎日の稽古の
積み重ねなんだ

もやってある舟が
ゆっくり揺れていた

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