現実逃避からの~

今日は、見たけど全く覚えていなかった作品

脳男

あらすじ――――――――――

精神科医 鷺谷真梨子(松雪泰子)は被害者遺族と加害者とで話をさせることで、加害者は自分の罪を自覚し、遺族はうつ病などの心の病を安定させる研究をしていたが、他の精神科医たちは懐疑的だった。

鷺谷は、自分の弟が髪と眉を剃られ、弄ばれた末に殺された過去を持つ。そして母親は重度のうつ病に罹り、良くなる兆しも見えない。そんな経験からこのプログラムの実用化に向けて日夜、研究していた。

そんな最中、鷺谷真梨子が乗るはずだったバスが、爆破される事件が発生。被害者の一人は舌を抜かれていた―――――――

その手口から無差別爆破事件だと断定し、その事件を追う茶屋(江口洋介)と新米刑事

犯人のアジトを突き止める。そこにいたのは”鈴木一郎”と名乗る人物。

事件以外のことは一切話さず、身元不明の人物。

猟奇的事件の犯人と思われる鈴木一郎(生田斗真)の精神鑑定を鷺谷に依頼する。

精神鑑定を行う日々の中、鷺谷の元に一本の連絡が―――――――

鷺谷はある一人の少年の元へ・・・彼は少年院出所間近だというのに、他の少年に手を挙げてしまったという。その動機は今回の連続爆破事件で幼い子どもが犠牲になったことに対して、自ら犯した罪の意識が大きくなり、嘲笑う他の少年に腹を立てたという・・・鷺谷は少年を宥めた。少年の母親も少年の変わりように驚きつつも、鷺谷に感謝していた。

鷺谷が会った少年は、弟を殺した犯人の少年だ。研究者であり、被験者となる事で自らの研究の成果を証明しようとしていたのだ。


精神鑑定をする中で、鷺谷は茶屋が言っていたある言葉が気になっていた。

背中にガラス片が刺さっているにもかかわらず、痛がる素振りも見せずまるで痛みを感じていないようだった。

様々な検査をし、その見立て通り、鈴木一郎は痛みを感じていない。そして感情の欠落と体内時計の異常な正確さを指摘し、鈴木一郎は”常人”ではないと結論づけた。

鷺谷は鈴木一郎が気になり、鈴木の過去を知る人物にコンタクトを取る。

一方、無差別爆破事件の犯人たちも自分たちを殺そうとした鈴木一郎の素性を調べようと、鷺谷のかばんに盗聴器を仕掛けていた。

鈴木の過去を知る人物 精神科医の男に話を聞くと、自分が営む精神科は小児科や精神科で診きれない子どもが多くいた。その中で入陶大威(いりすたけきみ)は違ったと語る。呼吸以外には自発的行動がなく、まるで捨てられた人形のようだったと――――――――続いて大威の両親はひき逃げ事件に遭い、死亡していた。元々経営の苦しかった精神病院を引き払い、大威の専属医師として、大威の祖父の家で働いていたと・・・・

大威の祖父は資産家で、大威に人並みの事を教えようとしたところトイレの慣習を習得するのに1か月もかかった反面、一度見たものは記憶し、再現できる驚異の能力を持っていることも判明する。そして男は、入陶大威の事を”脳男”と名付けた――――――

祖父は大威の能力に気づき、英才教育に力を入れる為、自分はお払い箱になったと言う。
大威のその後を知る人物にも話を聞く為に、茶屋に声をかけ一緒に話を聞きに行くことに・・・

彼は、開口一番 ”大威は人を殺したのか?”と・・・・・・なぜそう思ったのかと問いかける茶屋。

大威は人を殺すために教育されたのだと―――――――

男は、大威の体を鍛える為の家庭教師をしていた男だった。祖父は息子夫婦を殺され、未だその犯人も捕まらない現実に徐々に精神を蝕まれていった。そして悪には必ず鉄槌が下されるということを証明するべく大威に殺人に関する教育を行うことにしたと・・・しかし男は大威が人間として扱われていないことに心を痛め、登山に連れ出すことにした。その際、男は足を踏み外し落ちそうになる。このままでは二人とも落ちてしまう危険があった為、男はロープを切れと大威に命じるもそれを無視し男を助けた。その時自発的な行動がない人形のような大威に初めて、”意思”を感じたという。それから祖父の元を離れ、少しの間二人は山で暮らすことにした。しかし祖父はそれを良しとはせず元の殺人ロボットにするべく連れ戻したと。ある日祖父は強盗に襲われ瀕死の状態。そして大威が強盗を殺した。祖父が願った殺人ロボットの大威がそこに現れたことに満足して死んでいったと。その後、大威は行方不明になった――――――

大威の過去を知った鷺谷と茶屋――――――

茶屋はここ最近、犯罪者が何者かに殺される事件が起きていることに注目し、もしかしたらこれらの事件は、”己の正義”を貫こうとする大威の仕業ではないかと思い始める。

鈴木一郎こと、大威は本庁に護送されることになる。連続爆破事件の犯人たちは、鈴木一郎を気に入り、護送途中に襲撃する。
犯人は女性二人組で、一人はこの襲撃で死ぬももう一人は逃走。大威も逃走。

もう一人の犯人 緑川(二階堂ふみ)は鈴木一郎をこの手で殺そうと、鷺谷の勤める病院に爆弾を仕掛ける。そうすれば、鈴木が現れると思ったからだ。

鷺谷を拘束し、先の襲撃の際に負傷した茶屋の部下の新米刑事の首に爆弾を巻き付ける。

鈴木一郎が病院に現れた。緑川は、鈴木一郎を殺せば新米刑事は助けてやると茶屋に言い、茶屋は鈴木を殺そうとする。鈴木はこの爆弾は解除不可能だと進言するも、茶屋は聞く耳を持たない。攻防の末、新米刑事は爆弾により死亡。茶屋は目の前で部下を失くしたショックで狼狽する。

緑川は鷺谷を連れて、地下の駐車場に―――――

そこへ鈴木が現れる。茶屋との攻防の際に右足を拳銃で撃たれており、思うように戦えないながらも、必死に緑川を殺そうとする。その様子を見ていた鷺谷は、大威に”止めて!!誰も殺さないで!!”と懇願する。

その感情を理解した大威は緑川を殺す手を止める。最後のチャンスだと思い、緑川は鈴木を殺そうとするも茶屋に撃たれ、死亡した。

そして続いて茶屋は鈴木に銃口を向けるも―――――玉切れ。
茶屋は大威の逃走を見逃した。

数日後、鷺谷の元に一通のメールが―――――――

それは、少年院から出所したあの少年を殺すと書かれていた。鷺谷は少年院から出て、一人暮らしをすると言ってた少年の部屋に急いで駆けつけるも少年は死亡―――――

そして
風呂場に髪と眉を剃られた幼い子どもがいたのだ―――――

少年を信じていた鷺谷はその事実に愕然とする・・・
自分が行ってきた研究は一体何だったのか・・・少年の何を見てきたのか・・・自らも被験者となったプログラムは何の成果も生まなかったという事実に足元から崩れる感覚に陥った。


ある日、鷺谷の元に一本の電話が――――――

それは鈴木一郎こと大威からだった。

少年を殺したのは、大威だと確信していた。

大威は言う。先生の過ちを見過ごすことはできなかったと。

鷺谷は問う・・・何故気づいたのかと・・・鷺谷の勤める病院に出所したての少年が訪ねてきた時だった。大威は鷺谷と少年が話している様子を見ていた。その際に少年の腕にあった真新しい歯形に気づき、少年は反省もしておらず、犯行を繰り返していたと言い、少年は鷺谷を裏切ったと指摘。

鷺谷は自分の全てが否定されたような気持ちとそれを見抜けなかった悔しさを抱きつつも、どんな理由であれ、人を殺してはいけないと大威に訴える。

先生は僕の為に泣いてくれました。そんな人は先生だけでした。感謝しています。

そう言って、大威は微笑む―――――――――――――――――


っていうことなんだけど・・・

結局、性善説を唱えた鷺谷は何の解決にもならず、遺族、加害者どちらも救われない展開。

ダークヒーローとして存在する”鈴木一郎”と鷺谷や茶屋の性善説を唱える存在との対照的な比較。

この話では、性善説を唱えていた茶屋、鷺谷は誰も救えなかったし、鷺谷の弟を殺した少年が大威に殺され、そのニュースを見ていた鷺谷の母親はこれで前に進めると言って、晴れ晴れしたような表情を浮かべ、娘が提案していたプログラム参加を断り続けた母親がそれを受けると言った描写からやはり日本の死刑制度問題へ切り込んだ要素もあったと感じた。

世界では死刑制度は倫理上良くないという風潮で、撤廃された国も多い。
しかし日本は未だ死刑制度が残っている。その為日本は米国、韓国としか犯罪者の受け渡し条約を結んでいない。それは日本では死刑になる可能性があるからから、自国法で代理処罰する方が倫理的に望ましいとの見方もある。
これは俯瞰的な見方だが・・・しかし遺族の立場から見れば、犯人は捕まっても刑務所の中で生きており、大切な誰かは帰って来ない。その痛みは一生消えない。遺族の痛みはどこへいくのだろうか・・・個人的な意見だが、罪を償うということは死ぬまでその十字架を背負うという事。生きる事自体が苦行、その上で十字架を背負うという事がどれだけの事かは想像できない。しかしこれは猛省している人ならそれでいいと思うが、反省も後悔もしていない犯罪者には意味ないのではないかと思う。十字架を背負う行為そのものがないからだ。人によっては、社会より刑務所の中の方が居心地が良いという人もいるだろう。
今回の作品の中では、人の良心に訴えかけ、犯人に償えと、生きろと問うていた鷺谷と躊躇いもなく犯罪者に死刑を執行することができた大威の対比が非常に色濃く出ていたし、死刑制度の議論の一端はまさにこのことだと思う。罪を償う事と死という同じ苦しみを与える方法。どちらが正しいとかそういう事ではないが、作品の中ではどちらも”自分の正義”を全うしていたにすぎない。
しかし、その”正義” が果たして本当に”正義”なのか?という疑問を感じさせてくれる作品だった。

生田斗真さん演じる大威はセリフは少ないながらも、目の演技は本当に素晴らしい!”人間味”を感じさせない所作。呼吸する際、胸が上下しないように浅い呼吸法を取り入れ、瞬きをしないという徹底ぶり。肉体改造にも力をいれ、シックスパック上等の完璧な体とスキのないアクション!!
感情を持たない大威を見事に演じていらっしゃった。

後半の鷺谷の声に、殺すことを躊躇うシーンの表情は感情を理解し、意思を持ったという事がこちら側にもひしひしと伝わる目で、感情を理解しづらかった大威がこんなにも切ない顔をするんだと・・・涙した。本当に生田斗真さんの素晴らしい目の演技だった。

最後、鷺谷に感謝していますと言い微笑むのだが・・・それは大威の本当に笑顔だったんだろうとも思う。その後すぐに元の無表情に戻ることから”自分の正義”を貫こうと決めた瞬間でもあったと思う。自分の為に涙を流してくれた人の存在を認識できた事を嬉しくも思う反面、自分にはこの生き方しか知らないという大威のはっきりとした意思表示だったんだと。

彼の家庭教師が言うように・・・殺人ロボットではなく、彼には”意思”が存在し一人の人間 入陶大威(いりすたけきみ)だったのだ。



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