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クロスのボールペン

小学生のとき作文の授業で、”宝物”を書くのがあった。

宝物。
その頃、私にとっての宝物は父からもらった一本のボールペン。
もらったと言えば聞こえがいいが、いつも気に入って持っていたので、父が仕方なくくれた、というのが本当のところだろう。

「このペンはね、インクさえ新しいのに替えれば、君が何歳になってもそばにいて役に立ってくれるんだよ。」
そう、父は教えてくれた。
たぶん父はもう覚えていないだろうけれど、不思議と私の耳には残っている。

百均にいけば100円で10本は買えるボールペンだが、ブランドもののペンの替え芯というのは高い。千円はする。小学生の千円というのは、財布に入っていたら無敵になれるような額である。
母に頼んで、文房具屋さんで買ってもらうと、「こんな贅沢なの買っちゃって」なんて言われた。他の兄弟も、ほぼ同意見だ。

良いものを少なく持つ。
好きなものを肌身離さず持つ。
好きなものを愛用する。
とっておきのお手紙を書くのに使う。

モノを愛する。ということを教わったように思う。
見方を変えれば、そういうペンは不便かもしれない。
でも、便利では買えないモノをプレゼントしてくれるように感じるのは私だけだろうか。

一本のボールペンの中にたくさんの思い出を込めて、今日も私は、真っ白なノートの上にペンを走らせる。


鮑叔館 珠李


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