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北欧ミステリ『特捜部Q―カルテ番号64』デンマーク・ドイツ映画 2020.5.15

未解決事件を追うコペンハーゲン署の「特捜部Qシリーズ」、世界的ベストセラー警察小説の、これが映画化4作目の作品です。日本では、これまでの3本同様、「未体験ゾーンの映画たち」で公開されました。

海辺のアパートの一室で、長い間閉ざされていた壁の中から、3人のミイラ化した遺体が発見され、特捜部Qが事件の捜査を担当します。

特捜部のメンバーはいつもと同じ、突っ走るカール警部補と、冷静で博識なシリア人刑事アサド。そして頭の回転が早い女性秘書ローセ。アサドに配置転換の話が起きており、残りたいアサドに対し、やや冷淡な態度をカールがみせ、ややいさかいがある、というなかで捜査が進みます。このやりとりも、シリーズならではの味。

並行して描かれるのが、1961年、デンマーク・スプロー島に実在した女子収容所での話。不良少女や軽度の知識障害のある女性を収容していた施設。ここで、行われていた人権を無視した不妊手術と、その被害にあった女性の悲劇です。

ナチス・ドイツが掲げた選民思想に似た、寒冷地に住む白人種こそ優生種、と信じる団体「寒い冬」という極右組織が、事件の背景として浮き上がります。その組織の影響力は現代のデンマーク社会の中枢部にまで及んでいる、そんな社会派仕立て。戦前からデンマークを支えてきた社会民主党の福祉政策の裏面が見え隠れします。アサドも含めて、デンマークで増えている移民の問題も見逃せません。

タイトルの「カルテ番号64」は、スプロー島の女子収容所で被害にあった女性のカルテ。不思議な飲み物がでてきます。ヒヨスという薬草を煎じたもの。スプロー島に野生しているという設定です。幻覚作用があり、大量に摂取すると死にいたる、という毒性のある植物です。デンマークの政治やら、毒物やら、いろいろ雑学的な知識も広がるミステリでございます。

この作品の監督は、クリストファー・ボー。2004年に『恋に落ちる確率』という作品で、カンヌ映画祭カメラドールを受賞したデンマークの映画作家です。脚本は、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニコライ・アーセル。カール役のニコライ・リー・カースは『恋に…』の主演という関係です。選民思想をもつやや狂った医師役のアンダース・ホヴの名前も記憶にとどめておきましょう。

これで映画化作品で日本公開されたものはすべて観ました。あとは新作を楽しみに待つのみ。細部の描写や、チーム3人や他の登場人物のキャラクターにも興味ありますので、7本の原作小説を読みはじめることにします。


2019.1.11 日本公開
原題:Journal 64 DOSSIER 64
製作年 2018年
製作国 デンマーク・ドイツ
配給 カルチュア・パブリッシャーズ
上映時間 100分
監督 クリストファー・ボー
原作 ユッシ・エーズラ・オールスン
出演 ニコライ・リー・カース/ファレス・ファレス/ヨハン・ルイズ・シュミット/ソーレン・ピルマーク/アンダース・ホヴ

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