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~感染症をかるめに紹介~ vol.27『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』

vol.27『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』

“人食いバクテリア”

病魔は突然現れ、たった数時間のうちに肉体から生命まで喰らい尽くす。

≪化膿レンサ球菌≫

原因となる「ストレプトコッカス・ピオゲネス」は肺炎レンサ球菌などと同じ「ストレプトコッカス属」のグラム陽性球菌で、「化膿レンサ球菌」とも呼ばれるんだ。
レンサ球菌による溶連菌感染症のうち、90%以上は化膿レンサ球菌が原因となっているんだよ。

化膿レンサ球菌は「A群β溶血性レンサ球菌」とも呼ばれ、細胞表面に含まれるタンパク質によって130種類以上の血清型に分類されるんだ。
化膿レンサ球菌はヒトの鼻・のど・消化管・皮膚などに常在していて、感染部位によって様々な疾患を引き起こす原因となるんだよ。

≪劇症型溶血性レンサ球菌感染症の流行≫

流行は世界中でみられ、日本では2019年に894人の患者が発生したんだ。
日本における最初の典型的な症例は1992年に報告され、2000年以降は患者数が徐々に増加傾向にあるんだよ。

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≪劇症型溶血性レンサ球菌感染症の感染経路≫

感染経路は上気道への飛沫感染・傷口への接触感染などとされるけれど、約50%では感染経路が不明とされるんだ。
自覚できないほどの小さな皮膚の傷口からも感染する可能性があり、静脈やリンパ流のうっ滞のある四肢から感染しやすいとされているんだよ。

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≪「侵襲性」とは?≫

侵襲性A群レンサ球菌感染症では、本来無菌状態であるはずの血液や髄液などから化膿レンサ球菌が検出されるんだ。
血液や髄液に乗って全身へ拡散した化膿レンサ球菌は、各臓器で増殖することによって四肢壊死や腎不全などを引き起こすんだよ。

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また、血液中に細菌が存在している状態を「菌血症」というんだ。
菌血症は「細菌が血液中に認められる状態」を指すもので、炎症を伴う「敗血症」とは同一の概念ではないという点に注意が必要だよ。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、侵襲性A群レンサ球菌感染症のうち敗血症性ショック・多臓器不全を呈する状態を指すんだ。
化膿レンサ球菌の遺伝子型のうち、毒素産生能が高い「emm1型」はMタンパク質を産生し、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主な原因となるんだよ。

≪劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症状≫

潜伏期間は明確でなく、糖尿病や消炎鎮痛剤の使用がリスクともいわれているけれど、明確な基礎疾患のない場合が多いんだ。
初期では発熱・悪寒・悪心・嘔吐・下痢などの非特異的な症状がみられるけれど、明らかな前駆症状がない場合もあるんだよ。

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壊死性筋膜炎を生じ、初期では四肢の疼痛・腫れ・発熱などがみられるんだ。
発赤は、通常の丹毒・蜂窩織炎に比べ軽度である場合があるんだよ。

また、説明のつかない激しい痛みや発赤のない部位にも痛みを訴え、全身状態が悪いという臨床的解離をみることがあるんだ。
数時間で進行し、病変部の知覚脱出(感覚の弱まり)・紫色の水疱・血疱が現れ、壊死に至るんだよ。

敗血症により病状は非常に急激かつ劇的に進行し、日常生活を営む状態から24時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示すんだ。
錯乱・昏睡・急性腎不全・ARDS・DIC・多臓器不全などを生じ、毒素性ショック症候群を合併する場合もあるんだよ。

致死率は30~50%とされ、ショック症状を生じた時点での診断は容易であるけれど、救命は困難となるんだ。
局所所見と全身状態は刻々と悪化し、診断の遅れは生命予後と機能予後に大きな影響を与えるんだよ。

≪劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療≫

治療は抗菌療法が中心になる。
病原診断では、無菌的な組織(血液・髄液・胸水・生検組織など)からA群溶血性レンサ球菌を検出するんだ。
また、水疱液や皮下穿刺液をグラム染色することによってもA群溶血性レンサ球菌を検出できるんだよ。

血液検査にてCPKが上昇することがあるけれど、診断的価値は高くないとされるんだ。
同様に、抗ストレプトリジン抗体(ASLO)も診断的価値は低いんだよ。

また、CTやMRIにて局所の浮腫やわずかな浸出液の貯留を認めることがあるけれど、膿瘍をみることは少ないんだ。
画像所見に特異的なものはなく、それほど診断には役立たないとされるんだよ。

早期診断・早期治療が最も重要で、外科的治療なしで治癒させることは難しいんだ。
いかに素早く外科的処置を行えるかが、患者の生命予後・機能予後に大きく影響するんだよ。

迅速かつ十分に壊死した部位の広範囲な切除を行うことが重要で、一度の手術でデブリードマンが十分に行えないことも多く、再評価の上、追加の切除が必要となることが多いんだ。
また、集中治療室で全身管理(補液・血圧維持・呼吸管理など)を行い、血圧維持には大量の輸液が必要となるんだよ。

起炎菌が判明するまでは広域抗菌剤の使用はやむを得ず、A群溶血性レンサ球菌の感染が確定した際にはペニシリンG・アンピシリンの静注が推奨されるんだ。
毒素産生を抑制するため、クリンダマイシンの併用を考慮するんだよ。

また、クリンダマイシンの併用は、大量のレンサ球菌が増殖している際にペニシリン系抗菌剤の効果が低下することからも有効とされるんだ。
ガンマグロブリン投与については、近年の研究では予後改善のデータはないんだよ。

≪劇症型溶血性レンサ球菌感染症の予防≫

ワクチンはない
傷口を清潔に保ち、傷口の発赤・腫れ・痛み・発熱などの感染の兆候がみられる場合は、ただちに医療機関を受診するようにしよう。
原則として抗菌剤の予防投与は不要とされるんだよ。

少なくとも24時間一緒に過ごした家族などでかつ65歳以上の高齢者・糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患がある、最近手術や出産をした家族についてのみ、抗菌剤の予防投与を考慮することがあるんだ。
予防投与は、抗菌剤の副作用との兼ね合いを考慮した上で決定するんだよ。

≪病は突然に≫

メディアなどでは「人食いバクテリア」とセンセーショナルに報じられるこの感染症。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、救急医療において救命が非常に困難な病気の一つといわれている。

この感染症の恐ろしさは、その悍ましいといえるほどの進行の速さにある。
些細な体調不良のような前駆症状で始まり、たった数時間で腕や脚が腐り始め、そのまま意識を失って死に至る。

また、この感染症にかかる人の多くでは、明確な基礎疾患がみられない。
基礎疾患の有無にかかわらず、誰もが発症する可能性があるということだ。

そして、病気は決してゆっくり現れるとは限らない。
この感染症は突然発症し、24時間以内に極めて重篤な状態に陥ることが多い。

さらに、この感染症では、約半数で感染経路が不明とされる。
どこからやって来るのか、推定することすら難しい。

数ある感染症の中でも、この感染症は特に理不尽極まりない特徴を揃えているといえる。
診断が容易となる時点では既に救命が難しく、生き延びたとしても腕や脚を失うことが多い。

この感染症は、いつ誰が発症するか全くわからない。
「まさか自分が」という言葉を口にする患者も少なくない。

病気と無関係な人はこの世界に誰一人として存在しない。
その事実を、この劇症型溶血性レンサ球菌感染症という疾患は如実に示している。
(紹介おわり)

≪参考≫

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/341-stss.html
https://www.kansensho.or.jp/ref/d28.html
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/survey/kobetsu/j1050.pdf

【画像】
A群溶血性レンサ球菌:http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/s-group-a/s-pyo/

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