めぐりあひ 上北沢

大学で別れた「こうちゃん」と私は高円寺の喫煙所で再会した。そして、また再開する。

私は養成所を経て西武新宿線沿線の下井草に暮らしていた。バイト先は世田谷の上北沢であり、金もなかったので毎日自転車を漕いで職場に向かった。

甲州街道を渡ってすぐに開かずの踏切りがあった。『戦争と平和』を読み終えられるほど待たさせられることがほとんどだった。

ごくたまにすんなり通れることもあった。そんな時は、踏切りを渡ってすぐにあるコンビニの前でタバコを吸ったものだ。時間待ちを見越して家を20分ほど早く出てきたので、時間はまだある。良いことがありそうな予感。私はタバコに火をつける。火をつける。火をつける。火を、、、。

ガス切れだ。

職場に行けばライターはあるのでわざわざ買うのはシャクである。だが、この貴重な時間にタバコを吸えないのもシャクに触る。一人の男がコンビニから出てきてタバコを吸いはじめる。私は男に声を掛ける。

「火を貸して貰えますか?」
「はい、どうぞ」

私は「こうちゃん」からライターを受け取る。

、、、こうちゃん?

「こうちゃん!」
「あれ?」
「なにしてんの、こんな所で!」
「いや、タバコ吸ってんだよ。そっちこそ何してんの?」
「タバコ吸ってんだよ。いや、吸ってないよ。ライター貸してよ」
「ああ、はいはい」
「久しぶりだな、何年ぶり?」
「2年? ここら辺に住んでるの?」
「そこのアパート」
「ふうん」
「嫁さんがうるさくてさ」
「結婚したの?」
「まあ。2人もいると家で吸えないから」
「何が2人?」
「子ども」
「展開が早くねえか?」

我々は少し談笑して別れた。その頃は2人とも大学からも演劇からも遠く離れていた。奇遇なめぐりあひである。

我々は会うたびに「二度と会わないだろう」と思い別れるが、別々の道を歩いているようで、お互いの道はエッシャーの騙し絵のようにどこかで一本に繋がっているのかもしれない。

早稲田・高円寺・世田谷と少しずつ西に向かっているので、次にめぐりあふのは八王子辺りだろうか?

もしかしたら、この話はつづくかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?