見出し画像

めぐりあひ 早稲田

楽しい所と聞いていたのに話がまるで違うのである。友達も全くできなかった。

大学の話だ。

仕方がないので、授業中は関係ない本を読んでいた。1コマも欠かさず4年間。そのおかげで貴重なことを1つ学んだ。

「ながら作業は身につかない」

授業の内容も本の内容も一つも覚えていない。あげくの果てに友達もいなけりゃ、彼女もいない、サークルにも入っていない。大学の4年間の記憶は総合して15秒くらいである。

唯一といっていい友達が「こうちゃん」だった。1年生の第二外国語の授業で隣になり、授業終わりに飲みに誘われた。何で誘われたのかはよく覚えていない。それから、ことあるごとに2人で飲みに行き、下らない話をよくしたものだ。

だが「こうちゃん」は夏休みが明けると授業に来なくなった。私はキャンパスで「こうちゃん」の姿を探したが、1年たっても姿は発見できなかった。

私は2年生になった。その日、私は電車に乗り遅れてトボトボと早稲田通りを大学に向けて歩いていた。松の湯の前辺りで、見知った顔がこちらに歩いてくるのが見える、「こうちゃん」である。約1年ぶりの再会だった。

「こうちゃん」
「あれ?」
「久しぶり」
「いま退学届を出してきた」

嘘みたいな偶然である。私たちは奇跡的な再会を喜び、酒を飲むことにした。授業? 知ったことか!

「やめてどうするの?」
「知り合いのコンピューターの会社で働くことになった。君はどうすんの?」
「俺はまだやりたいことも見つかってないから、もう少し大学にいるかな」

というわけで、我々は互いの将来にエールを送り合い高田馬場で別れた。「もう会うことはないのだろうな」と思うと少し寂しかったが、「こうちゃん」の決めた道である。友達として応援しよう。

「いつかまた、どこかで」
「うん。お互い頑張ろうな」

そして、我々は別々の電車に乗り込んだ。

さよなら、こうちゃん!

つづく!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?