五輪代表選考プロセス(カナダ/日本)
Curling Canada が次回オリンピック(4人制の)代表選考プロセスについて発表した。早くはない。すでに競争は始まっているから、検討がこれから、という国があれば明らかに遅い。新ハイパフォーマンスディレクター(強化責任者)のデイビッド・マードックの意見も入っていると考えられるから興味深い。
すでにあちこちで説明されているとおり、選考会(トライアル)は11月下旬に8チームで開催されるそうだ。予選2位vs3位の勝者が1位とベストオブ3の決定戦に臨む方式らしい。決勝を1発勝負にしないのはカナダ史上初だな。
選考会への出場ルートは3つ。
①2024または2025のカナダ選手権のチャンピオンになる(※条件あり)
②2023-24、2024-25の「2シーズン合計の」ランキング上位に入る
③予備戦を勝つ
いずれか。
③は結構狭き門で、選考会の前の月(=10月)に開催される予備戦(開催方式は本戦と同じだそうだ)で、原則1チームの出場権を争うことになる。この段階で日本代表になるより厳しそうだ!
開催時期や出場数は何が正解なのかはわからないが、カナダ的には最も競技が「アガりそうな」方式として選択したんだろうと思う。有力チームがひしめき合うカナダだから、最後まで大きな盛り上がりが期待できるんじゃなかろうか。
若干気になるのは開催時期で、11月下旬だとオリンピック最終予選(OQE)に出場しなければならなくなった場合、対応が難しくなりはしないか。前回のOQEは2021年の12月初旬開催だった。今回は開催含め未定だが…。
カナダとしては「さすがにOQE送りはない」と踏んでいるのだろうが…。
同時にBrierとScotties(男女のカナダ選手権)のフォーマットやレギュレーションも若干改正され、こちらのほうが注目されているようにみえる。
改正のひとつは、ワイルドカードを原則、前のシーズンの成績に基づき決定してしまうことだ。BrierやScottiesに直行し、ナショナルチーム候補となる「スーパーエリート」チームを複数設けるって事か。(23-24は移行措置を設けるが、24-25以降は完全に前シーズンの成績で決めてしまう)
カナダのワイルドカードは日本でいうWCTランキング枠に相当するもので、日本のワイルドカード枠=ブロック敗者復活戦に相当する枠ではない。
「現行方式だとシーズンの中盤までワイルドカードが決まらないから、エリートチームが適切な強化スケジュールを設定できない」とマードックが説明していた。
もうひとつの改正は、前年度優勝(チームカナダ)とワイルドカードにレジデンシーを適用しないというもので、これはかなり大きな論議を生んでいる。
州・準州代表チームに対するレジデンシーの適用は継続されるので「スーパーエリート」と「地域代表」の二層化を促進するかもしれない。
(ただし、メンバー変更は「1名」しか認められない。文理的な定義としては4人中3人または5人中4人が残れば同一チームとみなすそうだ。これは日本協会やその構成団体が一般的に用いている基準「3人以上残留」よりも若干厳しい。選択によっては州代表の目が閉ざされる。)
これら改正は総体として、複数の「スーパーエリート」チームの育成を狙っていると考えられる。これは日本が採用している枠組みに近い。ただ、程度としては日本より低いものだといえる。(カナダは国内選手権参加18チーム中4チームが「スーパーエリート」枠だが、日本は9チーム中3チームを占める)
おおむね評判が悪いレジデンシールールだが一定の合理性もあるので解説したい。
カナダの「州」は"province"の語が用いられるが、中央集権の強い日本とは違って各々の権限がかなり強い。各州は歴史的に独自の法体系や公用語、税制を有するといった違いすらある。
アメリカの「州」"state"ほどではないが、別個の「国」という面がある。代表の選出単位について「居住出生要件」レジデンシーが重視される背景となっている(竹田見解)。一方、ボーダレスが進み、州を越えて学んだり、仕事したりするのが一般化してきて、境界意識は小さくなってきている。
そのため、出場資格を原則居住地に依る、とするのは時代に合わないとか、それじゃあオールカナダのスーパーエリートチームが作れないし事実ライバル国のスーパーエリートどもに遅れをとっとるやないか、といった不満の声は高まっている。
一方、レジデンシーを重視する意見も根強い。
余談だが、レジデンシー重視はカナダに限った話ではない。日本でも西日本ブロックの単位協会は居住条件を採用していることが知られている。(今は変わっていたらスミマセン)
ほか、地味だが合理的な改正もあった。
BrierとScottiesをともに18チーム、2組に分けてプレーするのは変えないが、プレーオフを若干修正。従来は各組2位vs3位の敗者が即敗退していたが、各組1 位vs2位の敗者が3位と対戦すると修正された。アレはずいぶん評判が悪かったからなあ。
さて、カナダのこれら改革がどういう影響を生み、どういう結果をもたらすか?
既存の情報のみだとあまり大きな変化を生まないように思えるが、この後「隠し玉」が出てくるかもしれない。強化に関して「世界一奪還」という明確な目標があっても、組織が巨大だから一点集中とはいかないんだろうな。
難しいのは、競争力の向上(要はトップチームが強くなること)が必ずしも競技の繁栄を約束しないということだ。どころか競技環境、観戦環境が向上しても競技総体としては衰退していく例すらしばしば目にする。(竹田の観察による)
金メダルを取れば競技は安泰、などというのは観念論に過ぎない。
日本の場合には、加えて、社会的な要素も考慮しなければならない。すなわち国全体の人口や経済規模が衰退していく局面にあるということだ(カナダはそこまで至っていない)このような局面で競技振興に携わった経験のある人間は基本存在せず、既存の思考や実績から類推できる要素に乏しい困難がある。
次回五輪に向けて、日本がどう対応するかは近いうち発表されると思う。「スーパーエリート」の立場のみで決めるのは「非スーパーエリート」の我々としては勘弁してほしいが、彼らの意見が色濃く反映されるのは間違いないし、そうなったとて現状、大きな誤りとも言えない。
日本の面白いところは、女子に関しては成功体験(2大会連続メダル獲得)があるから、冒険はしにくいというところだろう。一方男子とMDは成功体験がないから、かなり大きな冒険をする可能性もなくはない。が、基本は女子の成功をなぞる方向で考えるのではないかと推測している。安定志向だからね。
代表選考プロセスについては「引っかかる目が限りなく薄いお前さんが心配する必要ないよ」と言われるかもしれないが、「ゼロ」なのと「ゼロに近い」は全然違う。引き続き注目していきたい。
2023年4月21日にツイート
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