ポジション考(その2)
せっかくなのでスキップがフォースで投石する以外のケースについて簡単に特色を述べてみたい。
スキップがリードで投石する場合の利点は、リードの2投はシンプルなショットが多いことで、バイススキップのコールが比較的容易なことである(パターンが限定され、許容範囲が大きい、の意)。
エンド間にスキップはハックに移動するため、プレータイムもフォーススキップの場合と変わらない(か若干有利)である。
リードスキップは、まず、自分で投げてみて、アイスの状態を確認したうえで残り6投のアイスリーディングやストーンマネジメントに集中することができる有利さがある。
欠点としては、フォースが最終投石直前までスウィープに入り、体力的な強さが要求されることで、場合によっては5-6投目の負担を和らげるといった工夫も必要である。
もっとも、体が温まった状態で投石するのを好む選手もいるので程度問題ではある。(息切れするほどだと影響はあると思います)
ほかには、
1)フォースがプレーエリアの石の配置を見る時間が限られる。
2)フォースはハウスから石の軌道を見る機会なしで、きわどいショットを投げることをさほど苦にしない選手である必要がある。
3)スウィーパーのコンビネーションに難がある(後述)
といった欠点を挙げることができる。
リードスキップの採用で有名なのが(竹田の中で)スウェーデンのマルガリータ・シグフリードソンで、世界女子で準優勝の実績がある。優勝はできなかった。ジュニアでは日本のヤマモトが世界女子で優勝した実績はあるが、一般レベルで大成功したチームはまだ出てきていない。
面白いのは「リードスキップ」は、理念的にはアイスリーディングや繊細なショットコールを強みにして複雑な局面を志向するフォーメーションのはずなのだが、実際に実績を残しているいくつかのチームは、どちらかというとシンプルなショット構成をする傾向にあったことだ。(竹田私見)
スキップがセカンドで投石する場合の利点欠点はリードスキップの場合に準じるが
プレータイムに関して言うと、セカンドの石(3-4投目)はリードの2投ほどはパターン化されておらず、状況による判断が必要である。そのためプレー時間は若干消費傾向にあるように見受けられ、工夫が必要である。
セカンドスキップ体制ではサードとフォースが体力的にも技術的にもかなり優れたパフォーマンスを示すことが必要で、スイープの観点でいうと、リードが相当「良い」スウィーパーであることが欠かせない。
若干中途半端な印象があるセカンドスキップではあるが、
ラス・ハワード&グッジューがトリノ五輪で採用し、短い準備期間で金メダルを獲得するという輝かしい実績を有している。即席チームの苦肉の策という感もあるともいえなくはない。
スイス男子代表として長く世界のトップクラスにあったデ・クルースのチームも同じ編成である。彼らの場合はシュワルツの強心臓とぶっ飛んだショット力を生かす、という選択なのではないか?と見ていたが、はたしてどうなんだろうか。
最後に、スキップがサードで投石するケースについてだが、
この編成は前2者と違って、フォースは5-6投目、バイススキップとしてスウィープから一時解放され、一息入れることができる。そしてサードの投石の軌道やハウス内の石の配置を確認してからラストロックを投げることができる利点がある。
また、前2者とは違い、スウィーパーのコンビネーションが作りやすいことがあげられる。すなわちサード、フォースの4投(5~8投目)について、リードとセカンドのコンビで連続してスウィープできるということだ。
欠点はプレー時間を消費する傾向が強いことである。スキップが4つ投げるみたいなタイムマネジメントになってしまうケースがある。だからサードの投石時またはフォースの投石時に意識してプレーをまく対策をとるチームが多い。(事前にハック側に移動しておくなど)
ただ、そういった対応をしても、フォーススキップ体制より時間がかかるケースをよく見る。だから、サードスキップとフォースバイスが、共に豊富な経験を持ち、コミュニケーションがとれており、プレー志向や考え方が十分すり合わさっていることが不可欠である。
この体制で有名なのはかのランディ・ファービーのチーム(説明省略)であるが、ほかにも多くのチームが採用し成果を上げている。これは、リードスキップ、セカンドスキップ、サードスキップの3者で比較した場合、デメリット対するメリットが最も大きい体制だからであろう。(たぶん)
さて、言及した以外も組み合わせはたくさんある。
4人のチームであれば24パターンの投石順と12パターンのスキップ・バイス指定の組み合わせの総和、288パターンのいずれかを選択することになる。
いずれを選択するにしても、どのようなオーダーで臨むかはチームの裁量で、メンバーや状況によって変化すると思われるが、今迄列挙したような「変えられない要素」を十分検討することが欠かせない。事実、オーダーは繊細な問題で、好みだけではいかない場合が多い。
カーリングは一見、1投目から8投目まで4人が順番に投げるだけのようにも感じられ、石が遅ければ掃き、速ければ掃かない、ワイドならウォーでナローならイエス、という見方もあるだろうが、このような観点が通用するのは、始めて間もないわずかな期間か、彼我の能力に決定的な差がある場合に限られる。
「投げ手の精度が最重要でスウィープやコールはそれを補完するものにすぎない」という考えは初心~中級者が陥りがちな錯誤のひとつで、スウィープのコンビネーションやショットコールの占める割合は、事実極めて高い。
傾向としては技術レベルが上がれば上がるほど勝敗を決する要素としてスウィープ、コール、そしてチームの情報収集・共有戦略の占める割合は高まるし、相対的な差が生まれる。
競技として取り組む場合であれ、楽しみとしてプレーする場合であれ、ショットの成功、そしてチームの勝利における最大要素はチーム内における協力体制とその実現度、いわゆる「チーム力」に依存するのであると強調したい。
すなわちアイスを全員で読み、幅取りやウェイトの選択、ショットコールに応じてスウィープの強度やタイミングを事前に織り込み、ハックに入るまでの数十秒間、そしてリリースしてからの10~20秒ほどの間にどのようにプレーするのかがきわめて重要である。カーリング競技の特性である。
「ハックに入ってからリリースするまで」の10秒ほどに注力・注目する人は多いかもしれない。もちろん、それは欠くことのできない重要部分ではあるが、全体からみれば一部に過ぎない。
それゆえ、投石順のみならず、どのコンビでスウィープするか、どのように情報伝達するか、ハウスに立つ選手に何を担わせるか、といったチーム戦略が必要不可欠であり、物理的にそれらに影響(制限)を与えるのがポジション・スキップの投石順である、という考え方に立っていただきたいのである。
(2023年7月22日に投稿)