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物価は上がり続けるが、賃金はなぜ上がらない


大企業や中小企業といっても大手は久しぶりにそれなりの賃上げを達成した。それはいい、けどほとんどの中小・零細はやっぱり上がらない。暮らしのことを考えたら、政策的にも賃上げを実現していく。そうしなけりゃ、働く意欲もわかないし、個人消費も伸びない。国が音頭をとるならうつ手はある。経済の善循環を目指して知恵を絞る時が来た。


トリガー条項と二重課税

物価高が止まりません。2023年7月の消費者物価指数は前年同月比で3.1%上昇。上昇率は6月に比べ0.2ポイント下がりましたが、依然として高く推移しており、11ヶ月連続で3%を超えています。ロシアによるウクライナ侵攻や円安によって原材料や燃料の価格が高騰したことに端を発し、歴史的な物価高につながっています。止まらない物価高は暮らしを圧迫し続けています。

例えば、ガソリン代。経産省の発表では8月14日時点でレギュラーガソリンの全国平均小売価格は1リットル当たり181.9円。15年ぶりの高値となっており、200円を超えそうな勢いです。ガソリン代の高騰はあらゆる物価の上昇を招くだけでなく、特に車が必需品である地方の暮らしを直撃します。

ガソリン代高騰に対し、再三指摘されているのがトリガー条項の凍結解除と二重課税の解消です。トリガー条項とはレギュラーガソリン価格が1リットル当たり160円を3カ月連続で超えた場合、ガソリン税のほぼ半分に相当する約25円の課税を停止し、価格を引き下げる制度のこと。まさに今使わないでいつ使うのか、という制度です。民主党政権時の2010年に導入されたのですが、東日本大震災の復興財源を確保する目的で2011年から凍結されています。凍結解除には法改正が必要であることを理由に政府は解除を見送っていますが、全く理由になっていません。

また、ガソリン代は約4割が税金です。ガソリン自体の価格にガソリン税などが上乗せされ、さらに消費税が加算されています。ガソリンに課される消費税はガソリン自体の価格ではなく「ガソリン+ガソリン税などの合計金額」に対して加算されています。この「税金に税金がかかる」状態が二重課税として問題視されているのです。

こうしている間にもガソリン代は上がり、暮らしを圧迫しています。物価が上がり生活が苦しくても、それが生活必需品であれば消費者は値上げを受け入れるしかありません。先述したガソリン代のように、物価の過度な高騰を抑える政策が重要となりますが、同じくらい重要なのが賃金を如何にして上げるかということです。


賃金が上がったのに暮らしが楽になっていない

連合が発表した2023年春闘の最終集計によると、ベースアップに定期昇給を合わせた平均賃上げ率は3.58%と30年ぶりの高水準を記録しました。しかし、定期昇給を含まないベースアップ率は賃金の内訳を明示している組合の集計で平均2.12%。物価上昇には追いついておらず、実質賃金上昇率はマイナスのままです。30年ぶりの高水準の賃上げですら、実質的に暮らしが豊かになったとはいえないのです。

とりわけ、従業員300人未満の中小企業については平均賃上げ率は3.28%、定期昇給を含まないベースアップ率は1.96%です。高水準だったとはいえ、全体平均を下回っています。労働組合がある中小企業でこの状況ですから、全く賃上げできていない中小企業も無数に存在します。消費を喚起し、国民が物価上昇を受け入れるためには、労働者の約7割が働いている中小企業の賃上げが必要不可欠です。そしてそれは、物価が上昇している今こそ、可及的速やかに行わなくてはなりません。

2022年4月から「賃上げ促進税制」が開始されました。これは、賃上げを行った中小企業は法人税を一部控除する、というものです。つまり、賃上げを行うとメリットがある制度になっており、賃上げを強力に後押ししそうな制度に見えます。ですが、一つ落とし穴があります。日本の6割以上の企業が「赤字企業」であり、法人税が課税されません。日本企業全体で6割以上ですから、中小企業に絞るともっと多くの企業が赤字であることが想定されます。その場合、賃上げ促進税制のメリットが霧消してしまうのです。

状況は一刻を争います。中小企業に対しては、使途を賃上げに限定した補助金の法制化など、政治が強制的に賃上げを起こす仕組みが必要だと思います。時限的な措置で構いません。好循環を起こす、その最初の一押しを政治が強力に行うべきです。日本はもう25年以上賃金が上がっていないのですから。

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