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『ネオ渋谷』 がうまれたとき

当記事はxRArchiアドカレの12月24日の記事です。
また、『ネオ渋谷』を訪れた方々がSNSにアップした画像を出典つきでお借りしています。転載NG等あればご連絡ください。

2019年の9月21日〜28日の一週間、VRChat上で「バーチャルマーケット3」(以下、Vket3) が開催された。今日はその会場のひとつ『ネオ渋谷』について、つくっているときに考えたことや、できた後のことを書いてみるよ。

「バーチャルマーケット3」そのものについては書かないので、気になる人は、電ファミニコゲーマーNHK WorldNEWS ZEROをぜひ。

『ネオ渋谷』 はギャルのためのVR空間

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画像出典:Twitter @MochizukiMaaya

今回、Vket運営がこれをつくりたい!と熱望したのは、現実の渋谷をベースにした『ネオ渋谷』。誰もが想像しやすいキャッチーな会場だったということで、想像以上に多くの人が訪れ、また想像を遥かに超えて多くのことが起きた。

どなたかの分析で、VRChatの住民は「ギャル」と一緒、だからアキバではなく渋谷がハマったというのを見かけて深く納得したんだけど、VRChatは「おしゃれをして集まって、かわいい!と褒め合いながらダベる」という基本プレイスタイルだもんね。完全にギャルだこれ。

というわけで、結果として「ギャルのため(だけじゃないけど)のVR空間」の設計に、私はメインモデラーとして関わった。会場デザインは、私の他、イリリさん、Riowlさんの3人で得意分野を分担しつつ、ライティングやギミックやBGMなど含めると10人くらいで作り上げた。

ネオ渋谷の設計課題

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初期スケッチ

最終的には数人でつくったネオ渋谷だけど、最初の1ヶ月は私ひとりで、「渋谷」というコンセプトから空間への翻訳をする必要があった。
まず思ったのは、ひとりの人間が(他の仕事と並行させながら)短期間・少ない工数で「渋谷をリアルに再現」するのはハナから無理。現実的にできること、それでいて意図のある表現になること、を考えなきゃ。

それと、いかに描画負荷を軽くするか。「ネオ渋谷」には1会場ごとに40程度の出展者ブース、企業ブース、イベントが設置され、その上で最大30人程度の人々が同時に訪れる(渋谷はDay/Night/Errorという3会場ある)。どんどん負荷が積み上げられることがわかっているので、VRで快適なFPSを保つためには、ハコとしてのネオ渋谷は可能な限り「軽い都市」にしておかなければならない。

というわけで、少ない手数&負荷で渋谷だと言えるものをつくるために、まず現実の渋谷を「抽象化」するところから考え始める。

どうすれば渋谷になる?

しばらく考えて出した結論がこれ。以下を満たせば渋谷になる!(たぶん)

1. 正しいスカイライン
2. 極彩色の看板
3. すり鉢状の地形
4. ランドマーク
5. ???? (後述)

この5つを軸に、ネオ渋谷の制作の話をしてみる。

正しいスカイライン

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まずはなにより、街の形状が渋谷そっくりであることが重要。都市のスカイラインが一緒なら、たとえ白いモデルだとしても、渋谷を知っている人は渋谷と認識できるはず。逆に形が違うと無意識レベルで渋谷だと認識しづらい可能性がある。

というわけで、まずはRhizomatiksWIREDが無料公開している渋谷のフォトグラメトリーモデルを3dcelからVR空間に持っていって、出展者ブース(4m×4m×5m)を40個ならべてみて大きさをチェック。うーん、街とブースのスケール感、街の複雑さとブースの閲覧容易性にまだまだ隔たりが…。
渋谷はある程度の範囲をつくらないと渋谷にならないが、ブースはある程度固めないと見て回るのが大変。スクランブル交差点がだいたい60m角くらいなので、それよりちょっと大きいくらいが限度かなとあたりをつける。

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とりあえずブースをどう置くかは一端無視して、3dcelの3Dモデルをトレースしたローポリなオブジェクトで街の骨格をつくることにした。

極彩色の看板

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都市のローポリモデルができたら、次はテクスチャ。軽い都市のためには情報量の低いテクスチャ一枚で渋谷を表現したい。
現実の渋谷を眺めていると、ほどなくして「グレースケールでがちゃがちゃしたファサード」「極彩色の看板」だけでできていることに気づくので、カラーといくつかの模様を組み合わせた以下の画像をつくって適用した。UV展開も適当に看板にしたい部分がカラーになるようにすればOK。ついでに同じテクスチャでEmissionをかけることで、夜その色で光るようになる。

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この一枚の画像で渋谷全体のベースをつくる

今回は「情報空間上のデータの渋谷」なので、極力ペラペラな存在になるようにNormal Map等を使ったリアル寄り表現を一切消した。
渋谷という「重厚というよりは軽薄」な感じ、「本質よりは上辺の情報が飛び交っている都市イメージ」(決してけなしていない)にもマッチするかなと思って。

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画像出典:Twitter @syousa2003

ただし、原色の看板をカラーで表現できたとしても、看板というものはTextやSymbolなどの情報があって初めて看板だ。
極彩色のカラーで塗った部分を看板っぽく見せる手法では、あくまで背景にしかならない。渋谷における看板はもっとずっと主役だ。
というわけで、ネオ渋谷の街を彩るほんものの看板は、イリリさんが大量に制作した。「ローポリ喫茶」とか「デンドラッグ」とか「積みゲー専門店」といった看板が背景の上に浮かび上がることで、都市空間の賑わいとエモみと説得力が飛躍的に増加した。

すり鉢状の地形

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続いて、どれほどの人が気づいたかわからないけれど、ネオ渋谷は渋谷特有のすり鉢状の地形を再現している。
今回作った範囲だと、誰もが「坂の街だ」と思うレベルの高低差はなく、ハチ公前広場に立ったときに「微妙に奥が上がっているような気がする」程度なんだけど、その微差が重要。
床は単純な平面だと負荷が低く、複雑なメッシュにMeshColliderをつけるのはどちらかというと通常避けるべきだけど、近似すればだいたいフラットだろということで完全フラットな床にすると、街としてのリアリティが大きく欠如してしまったはず。地形の高低差もスカイラインと同様トレースすべき存在だ。

ちなみにGoogle Maps等の衛星写真で渋谷を引きで見ると「おしりのあな」みたいな感じに見えてくる。渋谷は「欲望が中心に流れ込んでくる形」が正しいと思う。

ランドマーク

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ここまでは都市のベースモデルの話。渋谷を渋谷たらしめるには、渋谷の顔となるキャラクターや脇役が必要になる。今回登場してもらったのは、以下のあたり。

・巨大化させた「ハチ公」
巨大化させた「モヤイ像」
・立体になった「スクランブル交差点」
・路面電車化した「東急5000系電車・青ガエル」
・復活した「ケーブルカー・ひばり号」
・山手線や車などの交通
・いまの世相を反映した「タピオカ像」

どれもこれも現実と同じものをそのまま置くのではなく、なるべく正しい姿に戻すことを考えた。

周囲のビルが時代とともに高層化し、谷間に埋もれていってしまったであろう「ハチ公像」「モヤイ像」は、思い切り巨大化させて「街のランドマークとして本来機能するサイズ」に戻した。昔はもっと目立ったはずなんだ。

広場の置物になっている「青ガエル」は勝手にトラムとしてもう一度運行させて、1951年に渋谷の空を飛んでいた「ひばり号」はそれっぽい位置でもう一度現役に戻ってもらった。交通機関は動いてこそ本来の姿。

そしてこれらのキャラクターたちの大部分は、Riowlさんが生み出した。人物やキャラのモデルは、空間デザインとは別の能力が必要なのだ。

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ところで私はトラムがめちゃくちゃ縦横無尽に街を突っ切るフランス・ボルドーの街が大好き。自由すぎて超おもしろいのでぜひ行ってみてください。

ブース配置用リング

ブース配置は都市モデルをつくってから着手した。
渋谷なら街歩きだろうということで、現実のお店のように街にブースを展開していくと、「目当ての店がどこにあるかわからない」「順路がわからない」「全部回りきったかわからない」「場所ごとの優劣が大きい」という展示即売会としての欠点が出てきてしまう。渋谷の街は(東京の大部分がそうであるように)複雑な形状の都市であり、何年歩いても総体がわからないからこそ街歩きは楽しいのだ。対して、展示即売会はわずかな時間で見て回らないと成り立たない。

というわけで、ここは思い切って「正円の空中歩廊」を街にぶち込んで「その円をただ一周すれば全ブース見れる」という状態にした。円の外周に各ブースを配置することで、ひとつのブースを見ている際に他のブースが目に入らない(負荷が軽くなる)という利点もある。

ついでに、ビルがあろうが駅があろうがお構いなしに突っ切る純粋な図形を挿入することで、対比的に街の複雑さを際立たせることもできる気がした。現実の渋谷もいま大開発中で、全てが完成した暁には空中歩廊がビルをつなぐ街になる。そういう未来の先取りもなんとなく意識した。

ネオ渋谷に(まだ)足りないもの

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画像出典:Twitter @Helio_ICNMY

ここまで、少ない工数で負荷が軽くて渋谷っぽく見える街はできた。

ただ、できたできたと街に行ってみると、なんかこれじゃない。

ネオ渋谷にはまだ、いちばん大事な、圧倒的に足りないもの
がある。

それは……大量の人である。

都市は人が主役だ。渋谷はとにかく人がうじゃうじゃいて、できれば関わりたくない感じの人、なんかやべーやつ、キラキラした(あるいはやさぐれた)少女たち、疲れたおっさん、たむろする学生グループ、子連れファミリー、外国人旅行者などが、ときに不快なレベルで密集し合うことで膨大なエネルギーが生まれ、街が街として完成している。
別に、うるさいのもやべーやつと近づくのも好きではないけど、うるさくてやべーやつが行き交う渋谷は好きだ。

残念ながら現状のVRChatの限界として、ネオ渋谷には同時にせいぜい30人しか入ることができない。現実と同スケールの渋谷に30人しかいない世界ははっきりと言えば世界の終わりの光景である。

まだVRのなかに、巨大な街は存在し得ないのだ。

……それでも私は、Twitterという窓越しにではあるけれど、
大勢の人が行き交い、思い思いに好き放題楽しむ『ネオ渋谷』の姿を見た。たくさん見た。それが本当によかった。

最後に、ネオ渋谷を完成させてくれた「ひとびと」を紹介して終わりにしたいと思う。この光景が流れてきたことはとても感動的でした。

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画像出典:Twitter @raikonbu

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画像出典:Twitter @KitanoSetsu

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画像出典:Twitter @hankabochan

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画像出典:Twitter @Junkfood_CoLeo

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画像出典:Twitter @Nam_zaru

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画像出典:Twitter @LINK_tw_39

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画像出典:Twitter @BlueLounge3

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画像出典:Twitter @tonarimachi_oz

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画像出典:Twitter @u_gene_turner

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画像出典:Twitter @YMDTMZvrc

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画像出典:Twitter @coacoamol_vrc

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画像出典:Twitter @momiji0802

ネオ渋谷はいまもVRChatにあります。ぜひ大勢で行ってみてください。
(おわり)

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