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小説『琴線ノート』第25話「乞う」

父に自分の仮歌を聞いてもらった以降
SNSにカバー動画をアップする頻度が減っていた
更新しないと忘れられてしまうという焦りも
今となってはすっかり消えてしまっていたけど
その分私は歌う事と作曲をすることに今夢中だった

あの日父からもらった歌のアドバイスは
技術的なものはほとんどなくて
気持ちだったり歌詞の解釈の必要性とかの
精神面が多く、それが自分で考える余地をくれて
それだけで歌がワンランク上がったような気になれた

ついでに楽器屋さんで作曲の教則本を探した話をしたら
作曲に興味があったのは意外っだったみたいだけど
「そんなん買わないでまず5曲なんでもいいから作ってみろ
話はそれからだ」
と一蹴された

それからカバー動画で歌って気に入っていてコード進行に
自分なりのメロディを考えたり
バイトへ向かう電車の中で思いついたメロディを
ボイスメモに録音したりして少しずつ作曲をしていた

最初は流行りの曲の10ランクしたの廉価版みたいな
曲しかできなかったけど
それでも何かを作っていくうちに断片的でも
それなりのものが作れるようになってくる

小川奏多さんや父も“作ることに慣れる事”と言っていたのは
この事だったんだと感じられるようになってきた

そして小川さんに話を聞いた2週間後、やっと1番だけの
コードとメロディだけの曲ができた
バラードまではいかないゆったりのポップスで
私にとって初めて作曲だ

忘れないように残しておこうと
アコギの弾き語りで何回か失敗したのちに
無事にスマホに録音することができた

ここで一つの疑問が浮かんできた

作曲ってこれで1曲できたってことでいいの?

小川さんのデモは色んな楽器が入っていていたけど
私はアコギしか弾けないからあんなオケは作れない
作曲ってどこまでやることなんだろう

作詞はちょっと興味あるからやってみようと思うけど
これ以上私にできそうなことはない…

父にまた聞きに行きたいところだけど
仕事中だろうしバイトの時間も押し迫っていたから
とりあえずバイトの準備をして家を出た

道中はずっと私の初めての曲を繰り返し聞いていた
誰かに聞いてもらいたいけどまだ少し恥ずかしい
父の言う通り5曲作れたら一番気に入ったのを
父に聞かせよう
あと小川さんとまた会う機会があれば聞いてもらいたい

見慣れた街の景色もどこかに作曲のヒントがありそうで
普段と違うように見ていた

バイトから帰ると父はもう仕事を終えてリビングで
くつろいでいた
自室に戻らずそのまま父の正面に座り今日の疑問を
投げかけた

「作曲ってどこまでやって作曲なの?
歌のメロディーとコードはできたんだけど
この先何をすればいいのかわからなんだよね」


「自分でアコギで弾き語りして歌う曲だろ?
それならもう完成だよ。あと歌詞があれば」


「でも小川さんのデモとか色んな楽器が入ってたけど
私アコギしか弾けないし…」

父は何かを悟ったように答える
「あーなるほど。お前の言ってるのは“編曲“
英語で言うところのアレンジの事な
平たく言うと作曲って主旋律を作ることだよ
その伴奏に関わることは全部“編曲“だ」

そうなんだ、以前調べたけど結局よくわからなかった
編曲というものがここで出てきて
気になっていたのにずっと聞きそびれていた
編曲について再び父に教えを乞うことにした

次回へ続く

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