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小説『琴線ノート』第5話「量産型」

ヒナ太というアカウント名でSNSに
歌のカバー動画を上げればあげるほど
その再生数が気になるようになり
自分なりに伸びる動画の傾向も分かってきた

流行りのアーティスト曲は歌っていて気持ちがいいが
同じ曲をカバーする敵が多くて伸びにくい
試しにアイドルの曲をカバーしてみると
そのファンの人達は探してきてくれるようで
再生数もコメントも伸びる傾向だった

私はアイドルになりたいわけではないけど
容姿は多分悪くないはずだしそう言われて育ったから
それまで首から下だけしか写してない動画だったのを
思い切って顔を出して撮影してみた
最初は恥ずかしかったけどそれによって
伸びる再生数の喜びの方が大きく勝った
作戦は成功である

SNSに踊らされているのは分かっているけど
再生数がないとやっている意味もないので
カバー曲も伸びやすいアイドル曲が多くなり
私は普段からアイドルの曲を探すようになった

おかげで父の仕事部屋へ顔を出す事も多くなった
作曲家の父は編曲も多くやっていて
仕事部屋には父が仕事したサンプルCDが
たくさん置いてありアイドル曲もなかなか量がある

「アイドル曲で何かいい曲ない?」
そう聞くと父は
「うーん、こないだ編曲だけした曲が
カップリングなのに人気あるみたいよ
そこの棚にある」

かわいいアイドルが華やかに並んだCDジャケットを
手にって歌詞カードを確認してみる
「この”七色スマイル”って曲?」

パソコンに向かっていた父は振り返らず
手だけあげて返事をした

とりあえず自室に戻って聞いてみると
わかりやすくアイドルのアッパー曲だけど
はっきり言ってどこかで聞いたような
量産型の曲だと思った

でも人気があるならいっかて事で
チャチャっと歌とアコギを練習して
カバー動画を作った

慣れたのもで1時間ほどでSNSに投稿できて
父にお礼がてらその動画を見せに行く

すると父は
「お前音楽をお遊びじゃなくてやっていきたいのか?」
そんなふうに聞いてきた
もしかして“見込みある“とか言われそうな気がして
そうだと答えると父は少し間を置いてこういった

「なら今すぐやめた方がいい」

登録者も再生数も伸びているのに
意味がわかんない
いくらプロだからってSNS世代じゃない人間に
何がわかるんだと私は反論しようとした

でも私は肉親から容赦のないプロの洗礼を
まともに受けることになった

次回へ続く

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