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小説『琴線ノート』第4話「アカ」

スマホを三脚にセットしてインカメラで自分を写す
ネットで買った安い三脚はグラグラと揺れ
唐突に首をかしげるのを防ぐために
補強にガムテープをぐるぐると巻く

アコースティックギターのチューニングを合わせ
スマホの隣にノートパソコンを設置すれば準備ok
色んな曲の歌詞とコード進行が載ったサイトを
徘徊しながら今日のカバー動画に使う曲を
カタカタと探し始める

あと2時間でバイトの時間だからそれまでに
1曲分の動画を編集も含めて完成させる予定だ

「ヒナ太」これが私のSNSアカウント名
そこで歌手のカバー動画をアップしている

高校2年の頃に学校で問題を起こして
1週間停学になった時にやることもなく
ベッドの中でSNSばかり見ていた
そこで気になって追っていた
無名の歌手がどんどんバズっていって
今では日本の音楽シーンの話題の中心にまで
上り詰めていた
それに影響を受けて自分でもカバー動画を
投稿するようになったのが始まりだ

幸い父親が作曲家という仕事柄で
家にはたくさんの楽器があり
もうほとんど使っていないというアコギを
譲り受けることができた

「高校生がマーチンなんて生意気だけどな」

確かにマーチンというブランドのアコギなんて
高校生にはなかなか手の出せるものじゃないけど
父の言わなくてもいい事を言ってしまう癖には
慣れているので聞き流す

たまに助言してくれる父のおかげか
DNAのおかげか弾き語りの上達も早く
高校卒業する頃にはメロディさえ知っていれば
コードを見ながら割とすぐ弾き語りができた

父は自分がそうだったからと私には
高校を卒業したら好きな事をしろと言って
進学をしなくても何も言わなかった

私は最初の“好きな事をする“のに
卒業した次の日に赤いインナカラーを入れた

次回へ続く

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