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作戦を遂行せよ

まただ…毎度のことながら、嫌気が差す。

無事にコトが運んだ試しがない。心の中でそう吐き出しながら、この崇高な―といっても、自分でそう思っているだけかもしれないが―作戦を成功させるべく、邪魔者はいつも通り全力で排除する。

気づかれてはならない。相手の発する信号をきっちり理解し、上手くかわすのだ。相手にとっても重要な事ならば、この作戦を諦めることも、視野に入れなければならない。

しかし、大抵の場合は、大した事ではない。相手も、まるでルーティーンの様に、そして、こちらの作戦を邪魔している、などとは考えもせず、攻撃を放ってくる。

今日も上手くかわした。向こうも次のチャンスがあると考えているのだろう。執拗に追撃することも無く、すぐに静寂が訪れる。

第一次攻撃をかわしてしまえば、後は楽なものだ。見慣れたルートを、出来るだけ早く、そして細心の注意を払いながら、慎重に進めばよい。

◇◇◇

唐突な衝撃と共に、どこからか悲鳴が聞こえる。何かが起きたらしい。いつものルートを順調に進み、少し緩んでいた心が、一気に緊張する。

どうやら、前の部隊に事故が起きたらしい。無線で復旧中の連絡が流れる。俺は頭の中で舌打ちをし、ここでお気に入りのシガーに火を着けたい気持ちを抑え、しかし冷静に作戦を再度トレースし、軌道修正を図る。確かこの先に、別ルートへの分岐があるはずだ。そこに賭けるしかない。

チャンスは一度。冷静沈着に、かつスピーディに、間違いは許されない。

ここは経験がモノを言う。同じルートに入ろうとする別部隊が複数あるようだ。誘導サインを見逃さず、別部隊に邪魔されることが無いよう、頭に描いた通り、そしてあっけないほど順調に、ルートの切り替えは完了した。

◇◇◇

作戦終了まであと一息、アクシデントは、そんな時に現れるものだ。新兵ならばそこで足元をすくわれる事もあるだろうが、しかし、俺は必ず一度立ち止まる。冷静に、成功をイメージしながら、何かやり残したことが無いかを振り返る。

そして、長年の勘が、俺に僅かな警鐘を鳴らす。

そうだ。成功のカギになる重要物資が不足している。危ない。ここまで来て、中途半端な作戦成功は、失敗よりも悔いが残る。

幸い、補給ポイントが近くにある。あくまで冷静に、そして、成功をイメージしながら

俺は速やかに物資の調達を済ませ、何とか目的の拠点に滑り込んだ。

◇◇◇

「おかえりー。早かったね!」

「うん、でも、結構大変だったよ。同僚に飲みに誘われたり、電車が事故で止まったり…幸い、振替輸送がうまく使えたけど」

「そかそか。よかったね。あ、でも、おつまみが…」

「大丈夫。途中のコンビニで買ってきたから。」

「さすが抜かりなしね。じゃぁ始めよっか♪」

週に一度のお気に入り動画配信日。家で好きなウイスキーのソーダ割を飲みながら楽しむ、最も崇高な時間。

ナンピトたりとも、邪魔はさせん。

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