映画 ◯月◯日、区長になる女。

年始早々に封切られた本作、興味はあったものの、ポレポレで連日満員と聞き(渡辺満里奈さんが当日行って満席ですごすご帰るなんて話も)、また時間もなかなかとれなかったので、だめかなと思っていた。また、岸本聡子さんが杉並区長になるまでを追ったドキュメンタリーと聞いていたが、岸本さん自身にそれほど興味がある訳でもなかったということもある。しかし、たまたま時間がとれたので3日前の午前0時すぎ、Web予約、当日行ってきた。この日も当然満席。全然事前情報入れていかなかったが、この日は終了後にペヤンヌマキ監督と津田大介さんのアフタートークがあった。そうでなくてもたぶん満席ではあったろうが。

鑑賞したが、この映画はいい意味で期待を裏切ってくれた。当然、我々は岸本さんが区長になったことも知っているし、票差が175票差であったことも知っている。そういう意味ではハラハラして観ることはないはず。だが、出だしからもう波乱万丈なのである。杉並区には様々な問題があり、そのため自分たちの望む区長を出そうという活動団体が候補者選びに苦心のすえ、やっと岸本さんをかつぎだす。ところが、岸本さんが街宣をはじめると、周囲がよってたかってダメ出しをする。やれ主張が弱いだの、もっとアピールしろだの。岸本さんはそれにいちいちはいはいと従っているが、不承不承の様子。そもそも、朝誰もいないところに街宣に行くのが納得いっていないらしい。活動団体のミーティングでも、チラシのことひとつとっても中々議事が進行しない。ついに、最古参の活動家の女性と、方針をめぐって口論になる。映画はそのシーンをそのまま流している。過去のこととはいえ、これで大丈夫なのかという気持ちにさせられてしまう。アフタートークでも津田さんから「このシーン、よく撮影許しましたね」というコメントがあったが、このシーンこそ重要なポイントである。

そうこうしているうちに選挙戦がはじまる。そうすると、支援している特に女性達はようやくまとまり、各々が「ひとり街宣」という、杉並区に19ある駅それぞれに一人で行って街宣するという活動に出る。それだけでなく、テーマ曲まで作って応援する女性まで現れる。このような各々が立ち上がってたたかったことが、最終的な勝利に結びついたと思う。投票率が低い場合、選挙はおおむね組織票で決まってしまう。今回は前回より5ポイントほど投票率があがった。そのあがった原因が彼女たちのがんばりにあったのだと思う。わかっているけど、開票で当選が決まった瞬間は感動的だ。だが、物語はそれでは終わらなかった。

その後、杉並区議会議員選挙で、多くの新人の女性議員が当選したことを我々は知っている。知ってはいたが、その内実は分からなかった。映画はそこを描いている。なんと、立候補したのは先の区長選でひとり街宣に出た女性達だったのだ。一人一人がたちあがれば、現状を変えられる。2023年、多くの選挙に関するドキュメンタリー映画が作られたのだが、本作はそれらの作品とは一線を画す。監督自身が候補者を支援する側に入り映画を撮っている点。大島新監督の「君ななぜ総理大臣になれないのか」に近いが、もっと一方の候補者に寄り添った形になっている。そこが新鮮だし、自分達が支援運動をしている気にさせられた。観客も女性が多かったし、漏れ聞くところによれば、自分達も何かしようという気持ちにさせられた人が多かったようだ。
(1/18追記:。選挙戦で女性達の活躍を見せられた後、岸本さんの区長としての初登壇のシーンで、代表質問に立った区議(男)がひどくて。大声だけで批判のための批判しかしないし、非常にはずかしい。こんなのに責められたらかなわん。と女性達も思ったに違いない。まさにここが後の女性区議達にとてtのエピファニー、サンポウとなる場面。ここだけでも(ひどいから)見てほしい。こんな実態をほとんどの区民達は知らない、知らないから余計やり放題なんだと思われ)

あとこの映画、笑いもそこそこあるし、何より前向きなのがいい。冒頭の猫と亀もいいし、その後に出てくる象徴的な巨木もいい。年初がらいい映画にめぐりあえた。これは客入るのわかるよ。

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