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狂武蔵にしか描けない超多人数戦のリアル

ちょっと前ですが、映画狂武蔵観てきました。

私は、元々アクション映画が好きだったんですが、真面目に映画を見るようになってからRE:BORNを見て衝撃を受けたんですよね。主演のTAK∴=坂口拓さん(以下では坂口拓とし、その他の人名も含め敬称略で記載させていただきます。)、この人はヤバい。私の求めるアクションがそこにはありました。(なお本稿の主題ではないですが格闘アクションとしてはこのRE:BORNとイップマンシリーズが最高だと思っているのでまだの方は是非ご覧ください。)。

ということで、当然ながら、坂口拓主演映画、狂武蔵も見に行きますよね。

以下、映画にも武道にも詳しくない素人が適当に好きな意見を述べるだけなので、ご容赦いただける方のみお読みいただいたほうがいいかと思います。
また、ネタバレはないと思う、というかあまりストーリーが重要な映画ではないのでネタバレのしようがないですが、アクションシーンについての言及があるため、全くフラットに見たい方は、ご視聴後にご覧ください。

実はかなり前からこのノートは下書きしていたのですが、表現や記載に悩み気がついたらこんな時期になってしまいました。もう上映期間も終わってしまいます。ですが、感想をここに残しておくことで、いつかまた狂武蔵が視聴できるようになった際に興味を持ってくれる方が一人でも多くなればいいなと思い公開させていただきます。

作品概要


この映画は、宮本武蔵役の坂口拓が77分間ワンカットで(最終的に)588人の侍とチャンバラを繰り広げるということで話題の映画です。企画自体は7年前にあり、一通りのシーンの撮影が終わっていたそうですが、ワンカット撮影後に坂口拓が燃え尽きてしまったようで、そのままお蔵入りになっていたとか。坂口拓はしばらく役者業からも離れていたようですが、RE:BORNで復活した後、クラウドファンディングで狂武蔵完成のための資金を募り見事達成、この度全国の映画館で公開となりました。

主演は坂口拓、監督はGANTZ、キングダムのアクション監督下村勇二、アクション監修はRE:BORNでアビスウォーカー役を担当した、坂口拓のゼロレンジコンバットの師匠稲川義貴です(なお、ゼロレンジコンバットとは、稲川義貴が開発した戦闘技術で、RE:BORNでは坂口拓演じる主人公及びアビスウォーカーらがこれの使い手として登場します。)。

さて、以下感想です。

実写版ファイナルファイト


この映画を一言でいえば、ベルトスクロールアクションの実写化です。主人公である宮本武蔵が1人。移動すると大量の敵に囲まれます。そいつらを全員斬ります。そうするとエリア移動です。移動の際に、回復アイテム(水)や武器(事前に準備していた替えの日本刀)を得られることもあります。数エリアごとに中ボスが出てきます(ただ、TASかってくらい一瞬で死にます)。
冒頭に若干ストーリーシーンがありますが、その短さや内容のなさもファイナルファイトのOPと同程度と思ってもらえばいいでしょう。

目につく映画としての粗


さて、アクションシーンが始まった直後は拍子抜けするかもしれません。武蔵のアクションはある程度パターン化されています。まず、相手の斬撃は基本的に袈裟斬りであり、武蔵はこれを刀ではじいて捌きます。また、武蔵が相手を斬る場合① 隙をついて面、② 懐に飛び込んで胴に刃を当てがい、体重を掛けて斬り捨てる、③ 相手の斬撃をいなしてすれ違いざま背中を斬り付ける、④ 足の腱を切るのどれかです。武蔵の構えはいろいろ変わりますが、基本的には腰は落とさず直立のまま、刀を体の近くで脱力して両手で持つというもので、ぱっと見地味です。少なくとも外連味を感じるものではありません。

また、他にも気になる点は多いです。
武蔵の斬撃は全体的にやや軽い印象を受けますが基本的には一撃必殺です。武蔵のイメージ通り二刀流になったかと思えば、片方の刀をすぐ敵に投げ、大した威力ではなさそうであるにもかかわらず敵は死んだりします。斬られに走ってくるとしか思えない動きの敵もいます。
とある場所では、エリア移動をせずに数十人を斬り捨てるわけですが、足元に死体は増えません。斬られた死体は、カメラ外で再び立ち上がり、別の侍として斬りかかってくるからです。
敵役の動き等も含め、各シーンを部分部分切り取れば、決してアクション映画としてクオリティが高いとはいえないと感じました。

77分ワンカットの「リアル」


しかし、しかしですよ。やっぱり77分ワンカットは革命的でした。
観ているうちに気付くんですよ。戦いが続く中で、武蔵の息遣いが確実に変わっていくことに。この武蔵は本当に疲労していくんです。そして私は理解しました。この戦いこそ「1対500のリアルだ」と。

この作品において、武蔵は、吉岡道場一門と決着をつけるために現れるわけですが、戦場に来る前から相当な人数の門下生らと切り結ぶことを理解しています(だからこそ、戦場のいたるところに、長期戦を見越して水や干し飯、替えの刀を隠しているわけです)。長時間にわたり超多人数を相手にするためには、ある程度体力を温存しながら、戦わざるを得ないでしょう。
よって、無駄に疲労するような構えは出来ません。なるべく脱力しているべきです。その点で、武蔵の構えは映画的な見栄えという意味では地味ですが、至極理にかなっています。また、力で斬り付け相手の防御をこじ開けるような戦い方も疲れてしまいます。相手の攻撃を最小限の動きで捌き、その隙をついてカウンターを当てるべきでしょう。よって後の先を取るような戦い方をするのも大変合理的です。
技もいちいち大技・必殺技を出す必要はないでしょう。相手の力量に応じ、隙をついて基本の技を当てるだけで十分です。それが一番疲れないでしょう。上記②の胴斬りも、自らと敵の体重を利用して斬り捨てるのが一番力を使わないがゆえに多用されたのでしょう。

例えば同じように一騎当千の武士が数百人を斬る映画を撮るとした場合、普通であれば、シーンをいくつにも区切って撮影するでしょう。そうすると、当然演者も十分に休憩し、毎シーン万全の状態で挑めます。その時その武士は、77分間衰えることなく何百人を派手な動きでバッタバッタと切り捨てる「化け物」になり得ます。   
しかし本作の武蔵は違うんです。(1人で600人近くを切り捨てるのは当然超人的なのですが、)。クリティカルな一撃を一発でもくらえば、武士としてもワンカット撮影をする役者としてもお終いなので、敵との間合いのはかり方も慎重です。隙を見て一人一人斬り倒します。囲まれたら急いで背中を守れる場所(木の前や、建物の前など)に移動します。疲れてくると動きも鈍くなります。そうすると隙も増え、幾度となく斬られそうになります。戦いながらも体力の回復を図ろうとしているタイミングがあることも伝わってきます。敵を一通り倒した後、物陰に隠れ休憩する際には本当にしんどそうで、そこからまた戦場に向かうときは、まさしく「重い腰を上げる」といった感じです。
動きが鈍くなり、疲れがピークに差し掛かったのかと思えば、そのしばらく後に急に動きが良くなります。この時、素人目にも、武蔵から無駄な力が抜け、武人としてもう一段上のステージに上がったことが分かります。スポーツなどで全力を出したことがある方には、このランナーズハイのような状態何となくお分かりいただけるかと思います。

以上のように、長時間戦い続けることを見越した戦略、戦う中で生じる疲労とその影響、そしてそれがピークを迎え体が思うように動かなくなり、それでも全力で戦い続けた先に見える境地、いずれもが77分ワンカットでしか撮れない「リアル」だと思います。この撮り方でしか、本当の意味での一騎当千の大剣豪宮本武蔵は描けなかったのではないでしょうか。そして、それを演じられるのも坂口拓しかいなかったのではないでしょうか。

くりかえしになりますが、決してこの映画は非の打ち所のない良作ではありません。前述のようなアクションの細かな粗、消える死体などどうしても目につく欠点は多いです。ストーリーが全くないことも含め、とても一般人に気軽に進められる作品ではありません。また、山崎賢人が出演していますが、彼のアクションシーンは殆どないです(正直拍子抜けしました。)。よって、彼目当ての方も、観る価値があるかといえば疑問です。
しかし、あえて私はこの作品を万人に見てほしい。いまいちだったという人も少なからずいると思います。しかし、本物の戦劇者の息遣いがどういうものかが伝わった人にとっては、忘れられない名作になる。そんな唯一無二の作品が狂武蔵です。


最後になりましたが、私の表現を不愉快に思われた方がいらっしゃるかもしれません。特にこの作品に思い入れが強い方ほどそうだと思います。ですが、私もこの作品に感動し、この作品が大好きで、一人でも多くの方に観て欲しいのです。その思いは同じであることをご理解いただければと思います。  

※ 画像は狂武蔵公式サイト(https://wiiber.com)よりお借りしました。



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