『「今のロシア」がわかる本』畔蒜泰助 著、2008

感想

ロシアの問題をアメリカ、欧州、中東との関係で分析した点が素晴らしい。従来の「ロシア本」は、ほとんどロシアの中だけで論理が完結していることが多い。ただ、若干陰謀論が強すぎるきらいもある。

プリマコフ重視。これも普通のプーチン本、ロシア本にはない特徴

この現代版「グレート・ゲーム」は、東欧地域と中東地域の二正面で繰り広げられており、プリマコフの専門の中東地域だけでは、マッキンダー地政学は打ち破れない。それゆえ、冷戦時代、東ドイツのドレスデンに駐留し、ドイツ語も巧みに操るプーチン大統領の存在は、地政戦略上、欠くべからざるものである。ユコス事件後のエネルギーを軸にした独露の戦略的関係の構築は、まさにプーチンの地政戦略そのものである。

5章最後

リーマン・ショック前のロシアが絶好調の時代の本であることに注意。

プーチンを持ち上げすぎている。この本の直後にロシアはグルジア紛争を起こしている。2010年代には経済停滞から支持率が低下すると、ウクライナ侵攻を行った。プーチンの言う「多極世界」の意味が分かっていたのか疑問。

「いずれにせよ」言い過ぎ問題。



はじめに――プーチン・ロシアの地政戦略と「近未来のロシア」を予測する!

ソビエト社会主義共和国連邦の崩壊から16年余の時を経て、ロシアが国際社会での存在感を著しく回復しつつある。

その立役者は何といっても2000年5月、ロシア連邦共和国第2代大統領に就任し、間もなく2期8年の任期を終えるウラジーミル・プーチンであろう。アメリカの雑誌『タイム』が07年のパーソン・オブ・ザ・イヤーとして、プーチン大統領を選出したものその表れだ。

1999年夏、ロシア国内でイスラム原理主義のテロが続発する最中、ロシア政治の表舞台に彗星のごとく登場したプーチンは、いったい何を目指し、どのような闘いを繰り広げてきたのか? また、その目標はどこまで達成できたのか? そして、そんな彼が大統領職を離れる08年5月以降、ロシアはどこへ向かっていくのか?

本書の目的は、プーチン・ロシア8年の歩みを振り返りつつ、「今のロシア」の実状を把握し、そして、「近未来のロシア」を予測することにある。

さて、筆者は本書の中で、プーチン・ロシアの地政戦略、特に、9・11テロ事件後のアメリカとの関係の分析の多くの労力を費やしている。

ユーラシア大陸の最東端に位置する我々日本人は、どうしてもロシアを東アジア地域からの視点で捉え、特に、露中による戦略的パートナーシップ関係の行方により関心を払う傾向にある。ただ、それでは「今のロシア」を正しく理解することはできない。今も昔もロシアの地政戦略上の優先順位は、東ではなく、西から南にあるからだ。

一連の分析の過程で浮かび上がってくるのは、東欧地域と中東地域がもつユーラシア地政戦略上の重要性である。また、さらにその先を行くと、イギリスの首都ロンドンという深い闇の中に迷い込む。

だが、筆者はここにこそ、「今のロシア」を、そして「今の世界」をr介する最大のカギの1つが隠されているとみている。本書で、この暗闇にも可能な限り、光を当てるつもりだ。

さて、資源価格の高騰という追い風を受け、ロシア経済は好調である。03年以降、6~7%台のGDP(国内総生産)成長率を維持し、07年には8.1%(予測値)という高水準の高成長を達成した。2020年までにGDP規模で英独仏3カ国を抑えて欧州一の経済大国になることを目指し、世界5強入りを果たすという野心的な目標を掲げている。

そのために、プーチンが目指しているのは、ロシアを世界有数のハイテク国家に変貌させること。ロシアには、ソ連時代の正の遺産ともいうべきう軍事技術の開発・製造に関連してユニークな産業基盤が存在する。今まさに、これらいくつかの戦略分野で再びかつての国際競争力を回復すべく、国家が本格的なテコ入れを開始している。

この野心的な試みが成功するか否かもまた、次期政権で事実上の院政をしくことが確実なウラジーミル・プーチンの双肩にかかっているといえよう。

なお、筆者が本書のなかで駆使しているのは、一定の仮説に基づき、公開情報をつなぎ合わせながら、より高次の結論を導き出すインテリジェンスの手法である。これによって、日々、新聞の国際面などの情報に触れているだけでは到底みえてこない戦略家・プーチンの思考回路を、可能な限り浮かび上がらせるつもりである。

読者の方々にも、せひ、このインテリジェンスの世界を体感していただきたい。

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