ここまでわかった イルカとクジラ 実験と観測が明らかにした真の姿

村山司・笠松不二男 両先生執筆の本書において気になった点をまとめる。本書はイルカ・クジラに興味のある人が読む入門書としてベストではないだろうか。ただし、初版が1996年のため覆された定説もあるため過信は禁物。

個人的に既知の部分は特にここに書き出していないが、本当に名著である。

第1部:イルカの認知と行動

イルカが溺れた人間を助けたという報告について(諸説あり)

「大きなもの、浮いているものがあったら運んでいく」というイルカの本能的な行動の結果と考えるほうが妥当である。というのも、このような行動は既に死亡しているイルカやサメなど別の種類の動物に対して行われることもあるかである。

第4章:イルカを正しく理解する

シーシェパードや動物愛護団体などの活動著しい昨今、イルカは賢いのか?賢さとはそもそもなんであるか?を説いたこの章の筆者の考えは繰り返し読み返したい。

動物の知能について考えるとき、私たちは自分たち人間に”できる・できない”・”ある・ない”で知能の優劣を判断してしまいがちです。イルカは、超音波でものを探り当てることができますが、もちろん人間にはそんなことできません。イルカが会話し、超音波を用いるためにイルカは人間を超えた/もしくは匹敵する知能や能力を持っているイメージを持ってしまいます。一方でイルカがパズルのような問題をどうしても解くことができないと、我々は、イルカはその問題についての処理能力が劣っていると考えます。

しかし、イルカにしてみればそんなパズルが解けるかより真っ暗な海の中でいかにして餌をとるかのほうが大事なのです。

要するに、イルカにはイルカの生き方があり、その生き方に応じて必要な知恵の巡らせ方があり、それに必要な”賢さ”あるいは”知能”とは、いかにその生き方に的確に対処適応しているかということである。イルカにしてみればあってもなくてもいいようなヒト様基準で必要な知能について優劣を比べられても、意味がないのである。

ヒトに近い知能を持っているからといって賢い動物であるとは言えない。少々無理のある仮説だが、イルカ同様に超音波を活用する宇宙人が地球に襲来したとしよう。その宇宙人はイルカたちを自分たちに似て”賢い”、ヒトを環境破壊ばかりする劣等種もしくは食糧として判断しヒトを排除・捕獲対象とした。これはヒトが鯨類・魚類に対して行っていることと同じではないだろうか。

第2部:クジラの行動生態

第5章:クジラの繁殖形態

セミクジラ(ザトウクジラでも類似の観察事例あり)の場合、雌の当否に対してオス同士が協力してメスを水面下に押し下げ、交尾可能な姿勢にして一頭のオスに交尾させる行為が報告されている。つまり、集団レイプするのである。

セミクジラ(体重35t, 体長14m)は、ほかのクジラに比べて非常に大きな睾丸(両方で1000kg!)と長いペニス(解剖時で3m)を持っている。

仮にセミクジラの体重に対する睾丸の重さの割合(1/35≒2.86%)と、体長に対するペニスの長さの割合(3/14≒21.4%)を、ヒト(体重70kg, 体長1.75m)で換算してみると、睾丸の重さ≒2kg、ペニスの長さ≒37.5cm となる!ちなみにヒトの睾丸の体重における割合は0.26%で、ペニスの長さ(14cmとして)の体長における割合は8%である。脳の体重比が2%程度だからセミクジラはチンコに、ヒトは脳に進化の舵をきったともいえないだろうか、、、

この大きな睾丸により多量の精子を生み出すことができ、射出時の精子の量が多く、競争相手の精子を押し退け、またより長いペニスでより膣の深いところに精子を送り込み、精子の争いに打ち勝つような適応を遂げたと考えられている。

性行為の主目的は種の存続である。ヒトは種の存続のために、つまり性行為するための過程に、個体間の競争があると思うが(お洒落をしたり、筋トレしたりなど)セミクジラでは性行為自体ではなく、性行為後のメス子宮内での精子間競争が個体間競争となっているということ。

第7章:クジラの摂食生態

南極海に生息するミナミトックリクジラが予想以上に多いことが判明、また、南極海の生態系に及ぼす影響が考慮されていなかったため再検討したところ、ミナミトックリクジラだけで中深層のイカ類を中心とした餌の量は、日本が年間漁獲している量900万トンを超える水準にあることが判明。これにより、アカボウクジラ科が南極海の生態系の中で極めて大きな位置を占めることが判明した。

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南極海の資源の豊かさ・特に中深層のイカ類を中心とした資源の豊富さには驚かされる。まったく想像できず完全に未知の世界である。

南極海でのシャチの捕食行動

南極海でのシャチの分布は大陸近くに偏っており、中深層のイカ類や表層の群集性の魚などを捕食するのみならず、アザラシやペンギン・南ミンククジラを捕食する。また、シャチの胃袋からはよく、丸のままのアザラシが出てくることが知られている!

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とてもどうでもいいことだが、アザラシはネコ目アザラシ科である。が、ネコ目だからといってネコの仲間というわけではなく、昔は食肉目と称していた目名がその代表種であるネコの名をとり、ネコ目に変更されただけである。なので、実は犬もクマもマングースもネコ目に属する。

第8章:クジラの社会行動

野生動物の学習について、以下2つの例が有名である。

イギリスで、ミルク瓶のふたをくちばしで見事に開けて中のおいしいミルクを飲むことを学習したシジュウカラの行動が、やがて個体群中に広がり、イギリスの家庭のミルク瓶がシジュウカラの攻撃に合うようになった。

日本では、ニホンザル(幸島?)のイモ洗い(川で泥まみれのイモを洗う)や麦拾い(砂の混じった小麦を生みに放ると思い砂は沈み軽い麦だけが浮かび、難なく麦と砂の選別ができる。)が群れに広まった例がある。

イモ洗いについては、群れにその習慣が or 社内で作った業務改善策などが徐々に広まり、ある程度広まると一気にコミュニティ内に浸透することを表す百匹目のサル現象が有名である。

逆に、学習反応の日伝達の結果として、群れでの生活の経験がない水族館生まれのイルカが、自分で産んだ子らに乳を与えることができなかったり、どのように接していいかわからず、うろうろしているだけであったりすることも見られている。

シロナガスクジラは地球上の生物の中で最も大きな音を出すといわれている。それは、1000km離れた地点でも潜水艦探査用の構成の水中マイクで聴くことができるほど。ただし、なぜ外洋性のシロナガスクジラがそれほどまでに大きな音を発しているのかは不明。

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