見出し画像

ヘンデル: フルートまたはリコーダーとオブリガートチェンバロのためのソナタヘ長調

この作品は、ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデル(1685~1759)のトリオソナタ集作品2の4番「フルート・トラヴェルソ(以下「フルート」)とヴァイオリン、通奏低音のためのトリオソナタヘ長調」を「フルートまたはリコーダーとオブリガートチェンバロ」のために書き換えたものです。
書き換えに当たっては、ヴァイオリンパートをチェンバロの右手に置き換え、通奏低音の数字を基に内声を加えました。


【作曲者について】

ヘンデルは1685年2月23日にドイツのハレで生まれました。
1か月後の3月31日にドイツのアイゼナハでJ.S.バッハが、8か月後の10月26日にイタリアのナポリでD.スカルラッティが生まれています。
音楽とは無縁の家庭に生まれたヘンデルでしたが、幼いころから音楽の天才ぶりを発揮しました。
ヘンデルが音楽家になることに反対していた父親が、ヘンデルの音楽の才能を高く評価した領主の説得により翻意し、ヘンデルは音楽家の道を歩み始めます。
ハレやハンブルグで活躍したのち、21歳でイタリアに渡ったヘンデルは、スカルラッティ親子やコレッリと親交を持ち、イタリア様式を吸収しました。
演奏作曲家としてイタリアで成功を収めたヘンデルは、その後ロンドンに渡り、一度ドイツに戻りましたが、27歳でイギリスのロンドンに定住します。イギリスでも大成功したヘンデルは1724年に帰化し、1759年ロンドンで死去しました。

【作品について】

ヘンデルのトリオソナタは、現在21曲確認されています。
うち3曲は偽作で、真作18曲のうち13曲が1733年から1739年にかけてロンドンのウォルシュ社から出版されました。

作品2(1733年)   
第1番ロ短調HWV386b (Fl.Vn.BC.)
第2番ト短調HWV387  (Vn.Vn.BC.)
第3番変ロ長調HWV388 (Vn.Vn.BC.)
第4番へ長調HWV389  (Fl.Vn.BC.)
第5番ト短調HWV390  (Vn.Vn.BC.)
第6番ト短調HWV391  (Vn.Vn.BC.)

作品5(1739年)
第1番イ長調HWV396 (Vn.Vn.BC.)
第2番ニ長調HWV397 (Vn.Vn.BC.)
第3番ホ短調HWV398 (Vn.Vn.BC.)
第4番ト長調HWV399 (Vn.Vn.BC.)
第5番ト短調HWV400 (Vn.Vn.BC.)
第6番へ長調HWV401 (Vn.Vn.BC.)
第7番変ロ長調HWV402(Vn.Vn.BC.)

作品2の表題には、「2つのヴァイオリン、2つのオーボエまたは2つのフルートと通奏低音のための6つのソナタ(VI SONATES à deux Violons, deux houbois ou deux Flutes traversieres & Basse Continue)」と記されていますが、実際には2つのフルートと通奏低音で演奏できる曲はなく、2つのオーボエと通奏低音で演奏可能な曲は2番と、5番の2曲だけです。
また、作品5の表題には「2つのヴァイオリンまたはフルートと通奏低音のための7つのソナタもしくはトリオ(Seven Sonatas or Trios for two VIOLINS or GERMAN FLUTES with a Thorough Bass for the HARPSICORD or VIOLONCELLO)」と記されていますが、フルートで演奏できる曲はありません。
こうした使用楽器に関する標記などから、この2つのトリオソナタ集の出版は、ほとんどヘンデルの関与なしにウォルシュ社主導で行われたものと思われます。
また、作品2は、ト短調が3曲含まれていること、楽器編成が統一されていないことなどから、おそらく過去の作品を6曲寄せ集めて編集したものでしょう。
作品5の7曲は、調号の重複がなく、楽器編成は2つのヴァイオリンと通奏低音に統一されており、こちらの方は一連の作品と思われます。
この作品2と作品5の成り立ちは、ほぼ同時期に出版された、合奏協奏曲集作品3(1734年)と作品6(1739年)に酷似しています。

本書の作品は、教会ソナタの第3楽章と第4楽章の間にフーガを挿入した5楽章形式のソナタです。
フルートパートにF4より下の音が出てこないことから、多くの場合リコーダーで演奏されていますが、出版譜には、「TRAVERSA(フルート)」と記されています。使用音域やヴァイオリンとの音量のバランスなどから、元々フルートを意図して書かれた曲と思われます。
本書では、原曲のヴァイオリンパートをチェンバロの右手に置き換えていますので、音量のバランスなどから、リコーダーやオーボエ、ヴァイオリンで演奏しても楽しめます。
第4楽章17小節目では、フルートパートでフーガの主題が不自然にオクターブ下げられています。

ヘンデルは、リコーダーのソロソナタではF6、フルートソナタではE6を要求していますので、このオクターブ調整は、E6を避けることで、オーボエでの演奏を可能にするためのウォルシュ社による改ざんでしょう。
フルートあるいはリコーダーで演奏するときは次の譜例のようにオクターブ上げて演奏しください。

本書では明らかな誤りの訂正した以外、スラーや旗の連結などは、出版譜通りに記載しています。
ただし、出版譜のヴァイオリンパートに付けられたモルデントは、フルートパートに全く出てこないことから、全てトリル記号に統一しました。
また、出版譜のスラーや装飾記号などは、厳密に記載されていませんので、参考程度に捉えて自由に演奏してください。
第5楽章の前半の繰り返しは、冒頭に戻ると変拍子になります。譜例のように2拍目に戻ると拍子の違和感はありません。

チェンバロの右手にはヴァイオリンパートに加えて、出版譜の通奏低音に付けられた数字を基に内声を付加しています。
通奏低音に付けられる数字(記号)は、作曲者、出版社、年代、国などによって癖や習慣があり、微妙に記載方法が異なります。例えば原譜では第5楽章の8小節目から9小節目にかけて数字が省略されています。これは、記載しなくても、フルート、ヴァイオリン、バスの動きから読み取れますので、ミスとは言えません。

イギリスの音楽学者・鍵盤楽器奏者のバジル・ラム(1914 -1984)は、1977年にエルンスト・オイレンブルク社(ショット社傘下)から出版された作品2のミニスコアで、数字の補充や修正を行っています。次の譜例はその一例です。

ラムは第4楽章終止部分で出版譜の指定「4・6」を「4・5」に変更しています。
出版譜とは別に残存する筆写譜には「4」→「3」と記載されており、習慣的に「5」は省略されますので、ラムと筆写譜は同一です。
終止形として「4・6」→「3・5」、「4・5」→「3・5」とも間違っていませんが、ヘンデルの意図はどちらだったのでしょうか。
上声部との関係では、「4・5」→「3・5」が自然ですが、本書では敢えて「4・6」→「3・5」を採用しました。
参考資料として、巻末に出版譜のバスのパート譜を添付しています。

第1楽章

第2楽章

第3楽章

第4楽章

第5楽章

【楽譜の概要】

🎵 製本版

スコア/ A4版16ページ パート譜/ フルート(リコーダー)、チェロ、チェンバロ(譜めくり不要、通奏低音の数字付)
定価:1,600円 本体価格:1,455円
下記のショップで販売しています。

🎵 ダウンロード版(PDF)

有料エリアからダウンロードできます。
※本編+パート譜(表紙は付いていません)

ここから先は

14字 / 1ファイル

¥ 1,000

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?