セルフサービス ― 創作詩15

昼間、私は外の熱気に目眩がして
ふらりとその店に立ち寄った。

昭和レトロな喫茶店と古本屋を
足して2つに割ったような
古臭さに趣を感じる店だった。

看板の文字も見ずに入ってしまい
ここがどんな店かは分からない。
ただ、喉が渇いていたものだから
席についてすぐ水を頼もうとした。

「セルフサービスです」

確かに、そう言われた。
仕方なく水を取りに行ったが、

「しまった、ここはどこだ」

どうやら私は道に迷ってしまった。
この店は迷うほど広かったろうか、
しかも、ここには水もないようだ。

しばらくして
見たことのない格好をした、
彫りが深い美しい女性に出会った。

「喉は渇いていますか?」

彼女が私にそう尋ねたきたから、
「水をください」と言ったのだが

「セルフサービスです」

これが答えだと言わんばかりに
私は彼女に諭されるだけだった。

ふとテーブルの上を見た。
七分目まで水が入ったコップが
そこには置かれている。

「なんだ、疲れてるのかな」

あんなに喉が渇いていたはずだが、
どうも水を飲む気になれなかった。

私は水の飲み方や喉の潤し方を
知っていて、それでいて知らない。

けれど、私はその事実を知らない。
私が自分の無知に気づくことはない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?