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部活動問題は単に勤務時間の話ではない

最近、「ブラック部活」などと言われ、
部活動が教員にとって、勤務超過などの負担(手当なし)になっている実態が浮き彫りにされてきているが、

問題は、それだけじゃない。

生徒の三年間を預かるということが、どんなに難しいか。
教員は、転勤があるのだ。
部活顧問が変わる時の難しさ。

私「先生!
先生のクラスの男子生徒が
廊下で壁を殴りながら泣いてます!」

生徒は、男子バスケットボール部の一年生だった。
漫画「スラムダンク」が好きで、
背が高く、あだ名は「ゴリ」。

このあだ名、力量がなければつかない。

実は、男子バスケットボール部は、顧問が転勤して新しい顧問が来たばかりだった。

顧問が変わったばかりの部活は、大変だ。

「前の顧問と方針が違う!」と、二年生が全員退部。
残された一年生たちは、どうしたらいいのか右往左往。

壁を殴って泣いた男子生徒は、一年生だがレギュラー入りしていたのが仇になった。
立ち位置としても二年生寄り。考え方も影響を受けている。

二年生たちは、自分らが入部した時の顧問が、
「バスケを楽しくやろう。練習して強くなって勝てば、もっと楽しいんだぞ」
という方針だったのに、
新顧問教諭がそれを変えて、
「やるからには強くなれ!全国を目指す!」
という方針になったので、

「楽しくなくなった」

と、いうのが、主な退部理由であった。

ゴリはどうする?
辞めようぜ、何が全国だよ。

気持ちがふらふらしているのは、顧問にだって伝わる。
運動部全般に言えることだが、
身の入らないプレーは危険だ。
他の一年生にも影響が大きい。

で、
「ちょっと上手いからって、いい気になるな!
やる気がない奴は、レギュラーからはずす!」

廊下で泣いていたのを見つけたのは私だったが、
こういう時は、担任が話を聞いて、
生徒との信頼関係を深くする方がいいので、
担任を呼びに行ったのだ。

担任が間に入ったが、
顧問がレギュラーの件は、どうしても譲らない。
二年生が全員辞めてから、小さな出来事が積り積もっての言葉だったらしい。

彼は、とうとう退部してしまった。
二年生たちと、地域のバスケットボールクラブに入ったのだ。

ところで、当時私も一年生の担任で、
しかも、私のクラスは男子バスケットボール部が学年の中で一番多かった。
ゴリが辞めたショックで、明らかに動揺が広がっていた。

数日後の放課後、バスケ部員がひとり、思い詰めた様子で私のところにやってきた。

生A「顧問の先生の言うことと、
二年生の先輩の言うこと、
どちらが正しいんですか?!
なんでゴリがクビになるんですか?
自分に従わない選手は要らないんですか?
そんな指導者を信頼できるんですか?
自分も部活を続けていいかどうか…」

等々。

言いたいことが溜まっているんだ。
まずは、聴く。
全部。

そして、
私「あのさ、顧問が変わって方針が変わった時、
上級生が辞める、って、すごくよくあることなんだよ。
二年生が言っていること、ってのは、私にはわからない。
私は、直接聞いたわけじゃないからね。
ゴリのことは、
自分に従わない選手は要らない、そう顧問の先生が言った?」

生A「…言ってません。」

私「ゴリが、そう言われたって言った?」

生A「…言ってません。」

私「それでは、顧問の先生は、違う言い方をしたんじゃないかな。
理由だって、そんな単純なことではないと、私は思う。
で、
私はバスケットボールのことはさっぱりわからないけれど、
顧問の先生は、技術的にはどうなのよ?」

生A「…上手いと思います。」

私「顧問の先生が練習メニュー作ってくれないとか、指導してくれないとか、あるのか?」

生A「やってくれています。」

私「アンタ、バスケットボール嫌いか?」

生A「好きです。」

私「だったら(顧問を)信じてついていっていいんじゃないか?
その上で、また判断してもいいんじゃないか?
私はそう思う。」

そんなこともあって。
一年生だけの新体制ができてきて、
部長は一年生、副部長も当然一年生。
その、副部長に指名された生徒が、放課後やっぱり私のところに駆け込んできた。

生B「俺、副部長の自信ないです!」

私「よっしゃ、調査書に『人望厚く一年生から副部長を務め』って書いてやるぞ!
二年生がいないなんてわからないんだから!
アンタ、クラスでも他人の嫌がる仕事をひきうけるじゃん、
副部長として部長と部活を支える素質、絶対あるってー。
やってみてダメなら、また来い!」

そして、私の担任しているクラスの男子バスケット部員は、
一人も退部することなく、
三年で引退するまで、部活を続けた。

AもBも、いい顔してやっていた。

部活動。
人間関係の軋轢は、避けて通れない。
加えて、事故が起きる危険性。
ある運動部顧問から、こんなことを聞いた。
「女子は、自分の体調が悪いと動きが鈍るけど、
男子は怖いよ、体調悪くてもいつものスピードで動くから。
そういう時、思わぬ怪我をするんだよ。」

そういう部活は、
教員がその部活経験者で指導もできるのならともかく、
未経験者がやるべきではないと思う。
そして、学校現場に人材は足りない。

技術指導は、教員である必要はないのではないだろうか?

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