見えるモノ映るモノ

あれは、梅雨時の、しとしと雨が降る午後のことでした。

二歳すぎの長男と居間で遊んでいたら、

長男「ママ?玄関に誰かいるよ?」

居間から玄関は見通せます。私が見てみましたが、もちろん、誰もいません。

私「どんな人?」

長男「んーと、へいたいさんみたいなひと。」

私「どんな感じの兵隊さん?」

長男「…怒ってる。」

私の住んでいるところは、元々は大きなお屋敷があったそうです。
その土地が売られて、屋敷は壊され、分譲されて、うちも近所も家を建てたのです。

ああ、これは、そのお屋敷から出征なさった兵隊さんだな、と、思いましたので、
玄関に向かって、

私「お帰りください!
 ここは、あなたの家ではありません!」

と、言い、長男に、

私「兵隊さん、いなくなった?」

と、尋ねると、

長男「かなしそうなかおをしている。」

と、言いますので、また、

私「どうかお帰りください!
 あなたの家ではありませんから!」

と、玄関に呼びかけると、

長男「いなくなった。」

そこで、ああいう兵隊さんは、死んでいるのだから、かわいそうだと思っちゃだめよ、
帰してあげるのが一番いいの、
強い気持ちで、はっきり言うのよ、と、長男に教えました。

私にはその時は見えませんでしたが、霊を見る事はありましたし、
夫も霊感がありますので、
ああ、この子も見えるんだな、と、思って、その時はやりすごし、
その後も何事もなく過ごしましたが、

長男が、あれは四歳くらいの頃、

旅行に行って、旅先の公園の小川の石飛びをしているところを写真に撮りましたら、
現像すると、

私「ねえ、これ、ヤバくない?」

夫「どれ?」

長男が遊んでいる小川の水面に、いくつもの顔が映っているのです。

この写真は、お焚きあげをした方がいいのだろうか、と、夫婦で鑑定しまして、
必要ない、と、結論付けて、アルバムに収め、本棚にしまいました。

心霊写真の話と言うのは、よく「証拠を見せろ」と言われるものです。
今回、思い出しましたので、悩んだのですが、
やはり、これをいい機会としてお焚きあげしてしまおう、
それに、心霊写真によくあることですけれど、霊が消えていたら問題ないんだし、
と、夫婦で相談しまして、

本棚を私が探したのですが、ないのです。

その旅行のアルバムだけが、どうしても見つかりません。
ああ、お焚きあげすることに気づいて、写真が逃げたのだな、と、思いました。
念のこもった物には、よくあることです。
気配を消すのです。
だから、あるはずなのに見つからなくなります。

仕方ないね、と、夫と話し合って、探すのはやめましたが、
そういう失せ物は、ある日ひょっこり出てくることがありますので、
その時は、お焚きあげするつもりでおります。

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